第127話 爆発音

「ハァッ!!」


「ギャッ!!」


 魔力が上がったことで、限の動きが変化する。

 これまで通り自分に殺到する敵に対して、反撃を開始したのだ。

 次々迫る敵の攻撃を躱すのは、これまでとそこまで変わりはない。

 しかし、攻撃と攻撃の間に僅かでも隙ができると、その一瞬を利用して刀を振る。

 その反撃は速度を重視しているために、相手に致命傷を与えるまでには至っていないが、それでも傷ついた敵が増えていく。


「シッ!!」


「ぐあっ!!」「がっ!!」


 傷ついた人間が増えれば、攻撃の手も僅かに鈍る。

 攻撃の手が鈍れば、当然限が反撃をする機会が増える。

 時が経つにつれて、限の反撃で傷を負う人間がさらに増えていった。


「クッ!! おのれ!!」


「怪我をした者はさっさと回復しろ!!」


「回復したらすぐに奴に攻めかかれ!!」


 これまで限は反撃をする事すらできなかった。

 完全に有利な状況だったはずなのに、少しずつだがこちらが不利になり始めた。

 限の反撃が開始されたためだ。

 三島・山科・南川の当主たちは、この状況に歯噛みする。

 そして、怪我を負った者たちに対して指示を飛ばしていた。

 数は圧倒的な差があるのため、こちらには限の反撃を受けても回復する間がある。

 怪我を負った者が回復している間に他の者が斬りかかれば、これまでとさほど変わらない状態と言って良い。

 三家の当主たちはそう考えていたようだが、限がこちら側に怪我を負わせる方が速い。


「貴様ら!! それでも敷島の者か!?」


「たった1人にけがを負わせることもできないのか!?」


「無駄な攻撃ばかりしてないで、何とか1撃入れろ!!」


 このままでは、立場が逆転される可能性が見えてきた。

 今は怪我人を増やすことだけを意識した反撃にとどまっているが、攻撃の手が減れば、限は致命傷を負わせることに意識を変えてくるのは間違いない。

 そうなれば、こちらはあっという間に限に全滅させられてしまう。

 せめて1撃入れさえすれば、限は反撃どころか攻撃を躱すことすらできなくなる。

 そのため、当主たちは部下たちを必死に叱咤した。


「そうだぞ! 薬を使用していない五十嵐家の方が手強かったように思えるぞ!」


 当主たちの言葉に、何故か敵である限の方が反応する。

 実際は、強化薬を使用していない五十嵐家の者たちの攻撃より、強化薬を使用したこの三家の者たちが危険だ。

 しかし、五十嵐家の者たちの攻撃の方が、限にとっては脅威だったように思えた。


「クッ!!」


「魔無しのくせに!!」


「舐めやがって!!」


 攻撃を躱し迫り来る敵に反撃をすることを繰り返しつつ、自分たちの指示に入ることができるほど余裕がある。

 つまり、限に舐められている。

 そう取った当主たちは、更に怒りで顔を赤くした。


「……あぁ、そうか。五十嵐は仲間の命を奪ってでもという決死の思いがあったからか……」


 攻防を繰り返しながらも、限は彼らと五十嵐家の差を考える。

 そして、その答えに行きついた。

 五十嵐家は自分が殺されようとも、仲間が勝利すれば良いという考えのもと、限へと向かってきた。

 場合によっては、自分もろとも、とまでも覚悟していた。

 その覚悟が、この三家の者たちには存在していないように思える。

 それも、強化薬という容易に力を手に入れられるようになったことが原因なのかもしれない。

 敷島で培った技術に、強化薬によって手に入れた肉体による万能感によって、心技体のうちの心が低く、バランスが崩れている状態なのだろう。


「ギャァ!!」「ぐあっ!!」「グフッ!!」


「そろそろ終わりだな……」


 限の攻撃によって怪我を負う敵が増えた。

 回復魔法や薬を使用しても、攻撃に間に合わなくなりつつあるからだ。

 限による虐殺の時間が、もうすぐそこまで迫っているということだ。


「おのれ!!」


「我々が魔無しになど!!」


「負けてなるものか!!」


 いつ立場が逆転してもおかしくない。

 ならば、自分たちもこのままでいるわけにはいかない。

 そう考えた当主たちは、懐から錠剤を取り出して呑み込んだ。

 呑み込んだ錠剤はもちろん強化薬。

 薬の効能によって3人の筋肉が肥大し、魔力も上昇した。


「「「ハァッ!!」」」


「っ!!」


 肉体の強化が済んだ3人の当主は、刀を鞘から抜くと、すぐさま限へと襲い掛かっていった。


「おわっ!!」


 三島・山科・南川の3人は、代わる代わる限へと斬りかかる。

 突然のことに、限は慌てたように攻撃を躱した。


「さすが、当主たち、だな」


 これまでとは違い、限は完全に攻撃を躱しているとはいいがたい。

 兵よりも一段上の攻撃と言っていい攻撃にさらされ、限の服が僅かに斬られ始めたのだ。

 攻撃を躱す限はこれまで通り話しながらも、余裕がないのか途切れ途切れになっている。

 やはり、なんだかんだ言っても敷島の人間。

 一族を仕切る者は口だけではないようだ。


「……7割近く出してもいいかもな」


「何っ!?」


「ハッタリだ!!」


「本当は今が全力なんだろ!?」


 まるでまだ全力を出していないかのような限の呟きに、3人がそれぞれ反応する。

 魔無しとは言いつつも、完全に魔力がなかった頃とは比べ物にならないほどの実力を有していることはたしかだ。

 何によって力を得たのかは分からないが、所詮は元魔無し。

 強化薬を使った自分たち3人を相手に、全力を出さないわけがない。

 そのため、限は全力で自分たちの攻撃を躱していると判断し、先程の呟きをハッタリだと結論付けた。


「フッ!」


 3人の言葉に、限は思わず鼻で笑った。

 実におめでたい連中だ。

 強者である自分たちが強化薬を使えば、負けることはないと本気で思っているような発言だ。

 この大陸の長い歴史の中で、自分たち敷島に挑んでくるようなものは存在しなかった。

 そのため、自分たちとかけ離れた実力の人間の存在が受け入れられないでいるのかもしれない。


「そろそろか……」


「んっ? 何だ?」


 自分たちが思った通り、限は自分たちの攻撃を躱すことに必死で反撃をする事ができないでいる。

 やはりさっきの発言はハッタリだったのだと、攻撃をする当主の3人が思っていたところで、限が何かを呟いた。


“ズドンッ!!”


「「「っっっ!?」」」


 自分の呟きを疑問に思っている3人。

 そんな3人を、限は内心で嘲笑う。

 すると、耳をつんざくような爆発音が砦内に鳴り響いた。


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