第十六話『ボーイズ・ミーツ・ガールズ』(後編・その1)
★前編のあらすじ★
県下でも有数の進学校、聖修学園高等部のおちこぼれ、浩樹、ミノル、ユータ、ヨシオ、タケオたち五人は、休日返上の追試もそっちのけで、サボって校庭の片隅で何をするでもなく怠惰な思考停止に浸っていた。
そして雑談の一端から、彼らは校内に訪れた「お嬢様学校」の女子生徒を一目みようと聖堂まで向かった。
しかしそこで、鈍器で殴られ、血まみれで倒れている神父を発見する。悲鳴を聞いた直後に聖堂内に入った浩樹たちだが、建物の中は他に誰かが隠れている様子も、逃げた気配すらも感じなかった。犯人は、一体どこへ――?
疑われるのを恐れ、一目散に逃げ出した浩樹たちだが、彼等の前に立ちふさがったのは、なんとその女子校の「お嬢様」たちだった。
第十六話『ボーイズ・ミーツ・ガールズ』
(後編)
……ころされる。
無表情で巨大な市松人形みたいな黒セーラーの女に、俺たちは一瞬のうちに半殺しの目にあわされた。
「たっ……たすけてぇっ……!!」
ギリギリギリッ……。
「逃げようとするからだ」
今、この凶暴で凶悪な女は俺の上に乗っかって、関節技をキメている。
死ぬ。
折れる。
「だ、だって俺ら何もしてねえって! イテテテテテテテッ!」
何なんだよ、まったく!
初対面の女の子から、しかもお嬢様学校って呼ばれてるトコの生徒からこんな目に遭うなんて、まず、ありえねえって!
フっと観ると、タケオは正座したままガタガタ震えている(うわッ、みっともねェ!)。
ヨシオとユータはまだ目玉がぐるぐる回った状態で、ぐったり倒れている。背骨がヘシ折れてもおかしくない勢いで、このおっかない女に投げ飛ばされたんだ。
……女に。
何それ!?
何この怪力女!
まだ、巨漢タレントみたいにゴッツい大女なら話はわかるぜ?
でも、細いじゃん!
さすがにチビのタケオよりは幾分デカいけど、一六〇ちょいほどの身長で、俺ら四人の誰と比べても小柄な方じゃねえか。
しかも、おっかないけど美人じゃんよ? 腕も体も細いし柔らかいぞ? あと、なんか良い匂いもするぞ? なのにこんな状況じゃ、女子に体密着されてるっつーのに恐怖と苦痛と恥辱しか感じねェ! やっぱ俺Mじゃねェよ! チンコ勃ってねーし!
もう、なんつーか状況が俺の理解をこえている。
まあ、ヨシオ、ユータはしょうがない。この女を突き飛ばして逃げようとしたから、投げ飛ばされようが背骨をヘシ折られようが正当防衛……いや、過剰防衛か、まあそんなんで通っちゃうだろう。
でも、ミノルは何もしてねえじゃん?
俺もだ。
しいていうなら、この女がよそ見した隙に脱兎のごとく逃げようとしたくらいだ。
それが、このザマだ。
「いでででででででっ! 折ーれーるーっ!」
「よし。で、こっちのデブ坊主がヨシオ、こっちの長い顔の坊主がユータ。ちび坊主がタケオで、このナヨっとした坊主がミノル……」
知弥子と呼ばれた凶暴な女は、血も涙もないことを口にしながらメモを取っている。
そこで一瞬言葉を詰まらせ、じっと俺の顔を睨んだ。
「……この特徴の無い坊主がヒロキ、と」
あんまりだ!
「……で、」
パタンと手帳を閉じ、視線で射殺すかの如く、じーっと知弥子は俺たちを順番に睨んだ。
「犯人はどいつだ」
しらねーっつーの!
「あのねぇ、知弥子さん……」
呆れたようなため息をつきながら、隣に立ったもう一人の女が口をひらく。
こっちの女も美人で、どう見たってお嬢様な感じなんだけど、まあやっぱ俺らを疑ってるのには間違いない。
「そんな訊き方をしてたら、話してくれるものも話してくれなくなるわ」
いや、だから話しようないって。俺らじゃねーって。
おっかない女は「黒峯知弥子」と名乗り、おっとりした女は「弓塚香織」と名乗った。俺らと同級、ミシェールの二年生らしい。
生徒会が多忙につき、「何でも屋や便利屋みたいな部活」の彼女たちが、今回この学校に来たと自己紹介をした。よくはわからないが、香織の方が部長らしい。
「なら、もう一つ。逃げようとした理由は?」
「俺らが何もやってねーからだ!」
「何もやってないなら逃げる必要がない」
「何もやってねーって証明する
「何もやってないと証明する
だーかーらーっ!
平行線で堂々巡りだろ、それじゃ!
「一口に犯罪といってもね、衝動的な物や、はずみでそうなってしまった物もあるわ。全てが責められるわけでもないし、突発的に起きてしまった自覚が薄いものでは反省もしようがなくて、その結果、罪を認めることができずに誤魔化して、泥沼化してしまう話も、ままあるの」
香織って女はおだやかな口調で話をつづける。優しく、諭すような感じだ。
って、つまり完全に俺らを疑ってるってことじゃんよ!
「で、全員共犯だとして誰が実行犯だ?」
知弥子は知弥子で、こっちの話を一切聞く様子もない。
「いや全員共犯とかって、なんだよそれ!」
投げ飛ばされておとなしくしていたユータも、さすがに突っ込む。
「禁じ手だが集団の粗暴犯など珍しくもないし、こんな物はそもそも探偵の出る幕でもない」
何の話だよ禁じ手って。何だ、探偵って。
チラリと香織と目配せして、再び知弥子は口を開いた。
「しょうがない、少しだけ話そう。私たちが今日この学園に来たのは、他でもない。ここの司祭を調べにだ」
「は?」
「とある理由で、ここの司祭が何らかの犯罪に関わっているとの情報を得て、その調査」
犯罪って……。何だ、それ。
「いや、ねーだろ。あの神父、一応人格者で通ってるんだぜ? 何か恨み買うようなことでもやってたっつーのか?」
あの神父に悪口いうような奴って、この学校じゃぜいぜい俺らしかいないし。
って、ダメじゃん!
「怨恨の有無までは知らん。これから聞き込むかしないとな」
やべえな、それどーやったって俺らが疑われることになるじゃん……!
「しかし、ここに来ると同時に救急車だ。ヤジ馬は押し入ろうとするわ、職員には足止めさせられるわ、踏んだり蹴ったりだ。現場の聖堂にも近づけず仕舞いだ。そこに、お前らを呼び出すアナウンス」
……なるほど。
「ま、まァ確かに。普通、さっきみたいな呼び出しがあったら、何もやましい所なかったら職員室に向かうよな……うん」
ヨシオもそういって相槌をうつ。いや、俺らがそれ認めてどうする。
「しかしお前たちはあのアナウンスで、一目散にこの裏門に駆け寄ってきた」
それを見越して即行、裏庭を張ったこいつらも大した読みじゃないか。これじゃ、確かに怪しまれてもしょうがない、か……。
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