報酬
─────────────────────
『今日、1ヶ月前から行方不明になっていた男性、
─────────────────────
「藤四郎、大丈夫か?」
「………………うん」
俺と山本は入院している藤四郎のお見舞いに来ていた。
ゼミの合宿の前日、藤四郎は俺達と会ったのを最後に失踪してしまった。
当日に家に行ってインターホンを鳴らしても出て来なかったためおかしいとは思っていたが、藤四郎の両親から話を聞くまで失踪したとは思わなかった。
警察からの事情聴取も受けたが、俺達には見当も付かなかった。
それが一昨日見つかり、この病院に入院していると聞いてお見舞いに来たわけだ。
一応呼びかけに返事はするものの、その返事は上の空で感情が乗っていない。
何か大事なものを欠落させてしまっているようだ。
「じゃあ俺と山本は行くからよ」
「お大事にな」
「…………うん」
俺達は病室を出た。
既に外は夕暮れ時となっている。
見つかったという喜びよりも、変わってしまった友人を目の当たりにして俺と山本の間には重苦しい空気が流れていた。病院を出て駅へと向かう途中で山本が口を開いた。
「一体…………何があったんだろうな」
「見た目的にはそんなに変わりないのにな……。そんなショック受けるようなことあったのか……」
「もしかして…………マジトレがサービス終了したから?」
「バッカお前それぐらいで1ヶ月も失踪するかよ。いくら藤四郎がそこまで夢中になってたからって人生捧げすぎだろ」
「だよなぁ……。いやすまん冗談だ」
「藤四郎のやつ…………大丈夫かねぇ」
「あの…………少しよろしいですか?」
突然すれ違った女性に声をかけられた。
こちとらナイーブな気持ちになってんのになんだよと思いつつ見て驚いた。
「うわっ……すげぇ綺麗な人」
「ごめんなさい、知っている人の名前が聞こえてしまったもので……お聞きしたいことがあるんですが───」
───────────────
─────────
─────
【藤四郎目線】
現実感がなかった。
ぽっかりと胸に穴が空いたようだ。
親にも泣きつかれ、警察の人には何度も事情を聞かれ、友人達がわざわざお見舞いに来てくれたというのに、僕の心は何一つとして動かされはしなかった。
頭の中では言われていることが理解できるのに、ぼんやりとした感情でそれを口に出すのが出来なかった。
「メア…………」
僕の目の前に映し出されるのはメアが光の粒となって消える瞬間と、体へ突き刺した剣の感触。
何度もフラッシュバックして僕の精神を貪り尽くす。
込み上げてくるのは悲しみの感情ではなく耐え難いほどの嗚咽感と虚無感ばかり。
あの時の僕に一体何ができたのだろうか。
いや、何も出来なかった。
何度あの瞬間をやり直したとしても結果は変わらなかった。
そもそも最初から結末は決まりきっていたんだ。
メアを自分の手で殺すか殺さないか。
あのイベントは最初からそういうものだった。
メアをAIではなく人として認識した時点で、僕が後悔するのは分かりきっていたんだ。
───そういえば…………特別報酬なんてものがあったと思うけど、結局あれは……。
「白柳さん、面会に来られた方がいますよ」
部屋をノックされ、看護師さんが声を掛けてきた。
両親と友人は今日はもう既に来ているからきっと警察の方だろう。
ゲームの世界に入っていた、なんて突拍子もない話を警察の人が信じるわけもなく、僕が錯乱していると思っている。
それ以外に僕の答えはないというのに。
面倒だからそれ以降は沈黙を続けている。
今日もさっさと帰ってもらおう。
「…………トーシロー」
僕は目を見開いた。
そんなことがあるはずがない。
いるわけがないんだ。
「ここがトーシローの世界なんだね」
「あ…………あああ…………」
服はあの時とは違くて、もっと女の子っぽい、でも色はまるで同じの黒色で。
僕が見間違えるわけがない。
「メアっ!!」
僕は思わずベッドから飛び出てメアへ近づこうとするも足がもつれて転び掛ける。
それをメアが優しく抱き支えてくれた。
本物だ…………実体がある!
「あああああ!! メア!! なんでっ…………!」
「何でだろうね。私にも良く分からなくて……たまたま近くの人に藤四郎のことを聞いたおかげで来れたよ」
──────特別報酬。
その言葉が頭をよぎった。
なぜメアが現実世界にいるのか分からない。
でも何だって良かった。
メアが今ここにいる、それ以外何もいらないんだから。
「君がっ…………無事で良かった」
「うん……トーシローも。あの世界は無くなっちゃったけど、トーシローが一緒にいてくれるなら私はどこだって平気だよ」
メアの体を強く抱きしめながら涙が溢れた。
結末は変えられた。無駄じゃなかった。
僕の選択がメアの未来を変えたんだ。
「次こそは…………君を守り抜いてみせるよ」
「うん、私も心配だからトーシローを守るわね」
「なんだよそれ!」
「あはは」
沈む夕日が差し込み、赤くなった病室で僕らは不透明な未来に期待を寄せて笑い合った。
VRMMO〜ゲームの中の魔女に一目惚れした僕と彼女の30日間生活〜 旅ガラス @jiyu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます