新旧最強プレイヤー9

「なんなんだよアンタは!! 俺達がどれだけ頑張ってここまで来たか分かってんのか!?」


 RAVENさんの気持ちは痛いほど理解できた。

 メアの城に辿り着くまで数時間。

 どうやったかは分からないけどメアをここまで追い詰めている。

 もしも逆の立場だったら僕は泣いて叫んで発狂していたはずだ。

 だけど今の僕の立場は、何があってもメアの味方だ。


「ごめん……RAVENさん」


「謝罪なんかいらねぇよゲーム脳野郎! クソックソッ!! 絶対許さねぇ! ぶっ殺してやる!」


 RAVENさんが地団駄を踏みながら剣を構えて向かってきた。

 僕も空間分離トランスファーを構え、派手に金属音が鳴り響く。


「らあああああああ!!」


「僕は…………負けられないんだ」


 RAVENさんの剣を持っていた腕を切り飛ばしたことで腕が宙を舞った。


「がっ……!! クッソがあああああ!!雷電砲エレクトリカルキャノン!!」


「……空間分離トランスファー


 ヒュカッ。


 RAVENさんの背後に移動した僕は、そのまま首を切り落とした。

 消滅する直前のRAVENさんの顔は見えなかったけど、きっと今までにないぐらい憎しみの込もった顔をしていると思う。

 それでも僕に後悔はない。

 だって、大切な人をやっと僕の手で守り切ることができたんだから。


「トーシロー……」


「メア!」


 僕は急いでメアの元へ駆け寄った。

 メアは腕を失くし、お腹はまるでバグったようにブレながら光が漏れている。

 AIが攻撃を受けるとこうなるのか。


「ありがとうトーシロー。今度は助けてもらっちゃったね」


「当たり前だよ。僕はいつだってメアのためなら命を懸けられるんだ。それよりも傷、治さなきゃ。全負傷回復ダメージレストは回数残ってないんだよね? 直ぐに温泉に入って回復を───」


「ううん違うの……。たぶん…………さっきの人達の攻撃で魔法が使えなくなってる。どれだけ発動させようとしても使えないの」


「そ、そんなバカな。そんな魔法があるなんて聞いたことないよ」


「ね。私もそのつもりだったんだけど…………」


「そ、それなら僕の魔法で───」


 いや、ダメだ。

 全負傷回復ダメージレストは同じパーティメンバーに使うことはできるけど、それ以外の人に使うことはできない。

 AIのメアとパーティを組むことなんて出来るはずがないから、僕がメアに回復魔法を使うことは出来ない。


「と、とりあえず大浴場へ行ってみよう。もしかしたらその封印も解かれるかもしれないし───」


 突然巨大な地響きが鳴り響いた。

 グラグラと地面が揺れ、建物が崩れ始める。


「な、何だ!?」


「私のさっきの魔法…………のせいじゃなさそうだけど……」


 そして僕は上を見て気付いてしまった。

 天井が崩れているわけじゃない。

 空間だ。

 空間がひび割れ、崩壊を始めている。

 これは……。

 この現象はまさか…………!!


「サービスの………………終了!?」


 僕がメアのお城に来てから30日経っていたっていうのか?

 正確な日付は確認していなかった。

 もしかして今日今この瞬間がサービス終了の通知が来てから30日目だったっていうのか!?


「これは…………世界の終わりなのかしらね」


「違う! 違うよメア! 僕がなんとか……なんとかするから!」


 メアが何かを悟っているのが表情から読み取れた。

 こんな…………こんな終わり方があってたまるもんか!

 僕はまだ、メアから貰った多くの思い出のお礼を返すことが出来てない!


「何か…………何か崩壊を止める手段が……!!」


「…………トーシロー、大丈夫だよ。私、なんとなく分かってたんだ。きっとこの世界は誰かに作られたものなんだって。トーシローもその世界の人なんじゃないかなって」


「メ……メア」


「私はこの世界の歯車の一部で、舞台装置の役目を担うために生まれてきたんだ。このお城で一生を過ごすなんて、どう考えてもおかしいもんね」


「違う! メアは舞台装置なんかじゃない! 感情を持った、僕らと同じ人間だ!!」


 メアと出会う前の僕ならばこんなことは思わなかった。

 ゲームの中のキャラクターであり、COMと同じような存在だと思っていた。

 だけど実際に出会って、食事をして、話をして。

 メアが僕らと同じ思考、感情を持つ女の子であると気付かされた。


 メアには───心がある。


「うん…………トーシローならそう言ってくれるよね。そう…………今言ったのはトーシローと会う前の私。自分の境遇を呪ったこともあったけど、今の私の心にあるのは悲しい思い出じゃない、トーシローと一緒にいられた時の楽しい思い出ばかり。私は貴方に会えたことで…………生きている意味を見つけられたの」


 メアが柔らかく笑った。

 その笑顔を見た瞬間、僕の目からは涙が溢れた。


「トーシロー、最初に来た時貴方は私を殺すために来たって言ってたよね」


「う…………うん」


「トーシローが元の世界に帰れない理由なんだけど……それはきっと私を殺せば解決すると思うの」


「っ!?」


 ば、バカな!!

 メアは何を言ってるんだ!!


「トーシローがここへ飛ばされた理由は私を殺すこと。そしてその目的が達成されれば、きっと帰れるよ」


「何を言ってるんだ!! 僕が…………僕がメアを殺せるわけなんてないだろう!?」


 一体何のために僕はメアを守ったと思っているんだ!

 一番大切に思っている人を殺すなんて…………!


「どちらにしても私はもう助からないよ…………。この傷を治す方法が無いもの。それなら最後はトーシローが助かる可能性に賭けたい」


「い、嫌だ!! 僕がメアを殺すなんてそんなっ……できるわけがない!! 何か方法がっ……」


「……時間がないの。それに…………どうせトドメを刺されるなら私、トーシローがいい」


 そんな…………!

 僕が…………!


「きっとトーシローが来なくともこの崩壊は変わらなかったんだと思う。そして私は何も知らないまま命の灯火を消していた…………。でも今は違う。私の死に意味があると分かっただけでも、嬉しい」


「………………」


「私の最期のお願い、聞いて…………?」


 空間はほぼ崩壊し、王座の間以外は緑色の数字が大量に羅列された空間のみとなっていた。

 王座の間も端から崩壊し、飲み込まれていっている。


「うっ…………ううっ…………!」


 僕は泣きながら、ゆっくりと剣をメアへと向けた。

 そしてメアもゆっくりと立ち上がる。

 フラフラとしながら、最後の力を振り絞るかのように1歩、また1歩と僕へ近付いてくる。


 そして…………ゆっくりとメアが剣先を自分の胸へと持ち上げた。


「ありがとう…………トーシロー」


「うああ………………ああああああああ!!!」


 ドスッ!


 剣がメアの胸を貫いた。

 奥まで貫いたことで、お互いの呼吸音が聞こえるほどにメアと僕の顔の距離が近くなる。

 メアの吸い込まれそうな瞳からは涙が溢れている。

 しかし、その表情は笑っていた。


「大好きよ、トーシロー」


「僕も………………メアのことが大好きだ……!」


 そして、メアが僕の唇にそっとキスをした。

 甘く、切ないキスだった。

 そのキスで僕はメアという一人の人間・・をこれまでで一番知ることができたのかもしれない。


 直後、メアは光の粒となって消えた。


「うっ…………うあ…………あああああああ!!」


『特別イベント、達成致しました』


 ピロンという通知音とともに世界が暗転したが、その時の僕に状況を把握するような冷静さは残っていなかった───。

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