新旧最強プレイヤー7
【メア目線】
「はぁ……はぁ……はぁ……」
瓦礫をなんとか押し退けながら這い出た。
3フロアを突き抜けて落ちてきてしまったみたいだ。
でもそのおかげで拘束から抜け出すことができた。
瓦礫に潰されなかったのは不幸中の幸いだったのかもしれない。
「と、とりあえず治療を……」
失った腕の部分からは漏れ出るように光がキラキラと出ており、トーシローのように液体が出てくるようなものではなかった。
あまり痛みというものは感じないが、体の中をおかしくされたように気分が悪くなる。
怪我をするとこうなるのね。
初めて知った。
「
…………発動しない。
回数はあと一度残っているはずなのに、魔法が発動しない。
「な、なんで……?
何かがおかしい。
さっき私が受けた魔法は恐らく
あれは特定の魔法の発動を一つ封じるだけのはずだった。
だけど拘束が飛んでくる直前、私は直感的に嫌な気配を感じた。
通常では感じ取れないような、まるで異物が混入したかのような気味の悪さ。
「
何一つとして魔法は発動しなかった。
その時点で私の背筋は凍った。
〝魔法を封じられた〟
ま、まずい……。
私は戦いの全てを魔法に頼ってきた。
それは全ての魔法を封じるような魔法が存在しないと分かっていたからだ。
動悸が早くなる。
呼吸が荒くなり、自分の脳裏に生まれて初めて一つの言葉がよぎった。
────死。
「に……逃げなきゃ……!」
かろうじて事前に発動していた
きっと彼らはすぐに私を追いかけてくる。
初めから勝算があったからあの人達は勝負を挑んできたんだ。
私が魔法を使えなくなっていると、彼らは知っている。
「はっ……はっ」
上手く呼吸が出来ない。
落ちた時の衝撃で足も少し痛めている。
それでも少しでも早く移動しなければ。
「トーシロー……ごめんね……」
仇を取るなんて意気込んで、その結果私は追い込まれている。
自分が情けない。
─────────
──────
───
一室の隅に私は隠れていた。
あれからかなりの時間が経っている。
今までお城が広かったことに意味なんてないと思ってたけど、初めてこの広さに感謝した。
全部を探すのにかなり時間がかかるはずだから、それまでに諦めて帰ってくれれば……。
「あ……」
トーシローが死んでからどれだけの時間が経ったんだろう。
どうしよう、そろそろトーシローが生き返る時間じゃなかったかな……。
もしも今生き返ったとしても、トーシローはまたあの人達に殺されてしまうかもしれない。
なんとかトーシローと合流して、一緒に隠れるように言わないと。
でも……きっとまだあの人達がいるかもしれない。
今見つかったら、今度こそ私は殺されるかもしれない。
ここで隠れてた方が安全なのかも───。
「ううん。そんなの私らしくない」
トーシローを見捨てるなんて有り得ない。
トーシローは私のために命を懸けてくれているんだ。
だから私も大切な人のために、命を懸けるべきだ。
「行かなきゃ」
私は辺りを確認しながらゆっくりと部屋から出て王座の間へと向かった。
時折足音が聞こえた。
まだあの人達が私を探し回っているのが分かる。
でも、気を付けていれば見つからないはず。
「あああもう面倒くせぇ!!」
突然、大声と共に派手な爆発音が鳴り響いた。
「どこに隠れてんのか分かんねーよ! もう片っ端からぶっ壊そうぜ!」
「ちょっとWIT、もしそれで爆発ごと巻き込んで達成感のない結果になったらどうするのよー」
「確認したとこ一つ一つぶっ壊しゃ問題ねーだろ。魔法は泉で無限に使えんだからよー。それにもう時間ねーぜ? やべぇって」
「WITさんの言う通りですね。方法を変えましょう。部屋を一つずつ潰していく。時間がありません」
その声と同時に爆発音が鳴り響いたのはさっきまで私がいた部屋の方向だった。
あのままあそこにいたら危なかったかもしれない。
私は急いで王座の間へと向かった。
部屋を探し回っている今ならタイミング良くトーシローと合流できるかもしれない。
王座の間へと辿り着いた私はゆっくりと中を確認した。
戦いの残骸が多く残っているが、中には人影は見当たらなかった。
後は瓦礫に紛れてトーシローが生き返るのを待てば───
「張っていて正解だったな」
声の方向の空間が歪んでいた。
体を捻ってかわそうとしたが間に合わず、腹部に剣が突き刺さる。
「あっ……!」
───やられた。
透明化の人だ。
油断した。
「やっぱり生きていたか、メア」
「ううっ……このぉ!」
強く相手を蹴り飛ばし、距離を取ることはできた。
お腹から光が消えていくように漏れ出る。
「必ず戻ってくると思っていたぞ」
透明化を解き男の人が現れ、ピィーッと笛を吹いた。
仲間に知らせるためだ。
「まさか当時決して勝てないと思っていたメア相手に、こんな状況が生まれるとは思わなかったな」
「あ、貴方達はどうしてそこまで私を……! なんで私を殺そうとするの!?」
「どうして……?」
男の人は少し考えるように頭を捻ったが、すぐに鼻で笑いながら答えた。
「暇潰し」
「暇…………潰し……?」
信じられなかった。
トーシローとは違うと思っていたけど、人一人を殺すのにそれなりの理由があるものだと思っていた。
それが…………ただの暇潰し?
「AIにこんなこと言うのはおかしな気分だが、ゲームなんて所詮は空いた時間の暇潰しだ。まぁプロとして仕事としている人もいるが……俺はただの暇潰しだな」
「貴方の言っていることが……何一つ分からない」
「だろうな」
「ノーネームさん! おおっ、やっぱりここに来たんすね!」
男の人の仲間の人達が合流してきた。
全員が笑っていた。
私とこの人達とは命の価値観が違いすぎる。
「なんとか時間までに片がつきそうね」
「いやぁ長かったぁ。まっつんさんとファルカナさんにも報告しないとな」
「じゃあ…………やっちゃいますか」
それぞれが剣を手にして私に向けてきた。
もう……逃れる術はない。
腕を失い、足を痛め、お腹には致命傷の刺し傷。
私は抵抗することをやめた。
「ごめん…………トーシロー…………」
「悲願のメア討伐、ゴチです!」
死を覚悟した次の瞬間、私達の間に魔法陣が浮かび上がり、光が集合し、人の形を成した。
これまで何度も見たことがある。
殺される間際だというのに、私は最後にその人を見れたことが嬉しくてしょうがなかった。
「ああ…………トーシロー……!」
そこに現れたのは私の愛した人だった。
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