上位ランカー3

 なんでこの人達がここにいるんだ…………?

 いや、当然のことか。

 マジトレがサービス終了になって、メアを討伐すれば限定アイテムがもらえるってメールを受けて、この人達もメアを討伐しにきたんだ。


「トーシローさん、なんでここに?」


「決まってるじゃないですかRAVENさん! トーシローさんがここにいるってことは、メアの攻略をソロでやってるってことですよ! そうですよねトーシローさん!」


 あの人は確か…………ミモリンさんだっけ?

 全員大会とかで見たり戦ったりしたことはあるけど、そんなに絡みないから分かんないだよね。


「いやまぁ……」


「メアがいないってことはもしかして、トーシローさんがもうやっちゃったんじゃね?」


「え~! ここまで来て先越されてるなんて、ちょっと落ち込んじゃいます」


「待って待って! まだメアは討伐してないよ!」


「とか言って、ランキング1位のトーシローさんならやっててもおかしくないよな」


「いや、僕のランキング1位も、昔のランカー達がみんな辞めていったからで、あの頃のランカー達に比べたら全然で……」


 そんなことよりも、これは元の世界に帰るチャンスじゃないか?

 この人達から運営に連絡をとってもらえば、僕は現実世界に戻れるかもしれない。

 メアの討伐は…………もちろんしてほしくないけど、この足掛かりは逃せない。


「というか、俺トーシローさんにメッセージ送ってるんですけど気づきませんでした?」


「え、本当に? ちょっとそのことで話があるんだけど、僕の話を聞いてもらってもいいですか?」


「それは全然いいっすけど、どうしたんですか?」


「実は僕…………10日前ぐらいからこの仮想空間から出られなくなってるんだ」


「「「え?」」」


 全員がきょとんと同じような反応をした。

 そりゃそうだ。

 逆の立場なら僕も同じ反応をする。


「だからメッセージも見れないし、運営とも連絡が取れない」


「いやいや…………いくらなんでもそれはありえないっすよトーシローさん。そんなバグ聞いたこともないですし、生命にも関わる。もし本当なら今頃ニュースで取り上げられて使用禁止になってますよ」


「今のところ、そんな話は聞いたことがないわね」


 そんな…………。

 確かに10日も部屋の中に放置されていたら、僕は死んでしまっていそうだし、ログインした次の日には田中達がゼミの合宿のために迎えに来てくれるはずだから、異変に気付いて部屋を開けてくれて救出してくれているかもしれないけど、そしたらニュースになってるはず…………。


「でも、僕は運営から届いたメッセージをクリックしたらここに飛ばされたんだ。メアを討伐すれば特別報酬がもらえるって…………!」


 RAVENさん達は顔を見合わせた。

 だが、誰一人として僕の言っていることがわからないようだった。


「マジトレが終了になるって通知のことですよね?」


「じゃなくて、その後に送られてきたやつですよ。特別イベントっていう───」


「トーシローさん、俺達は誰一人としてそんなメッセージは受け取っていません」


「そ、そんな…………」


 じゃあ、僕に送られてきたあのメールは、一体なんだったの?

 参加するをタップした途端に、このお城に飛ばされたあの出来事は一体?


「…………はぁ。トーシローさん、こんなこと言いたくはないけど、アンタやばいっすよ。現実と仮想空間の区別がついてない。こういうの、なんて言うか知ってます? …………ゲーム脳ですよ」


「うわっ……さすがにひくわー。トーシローさんってそんな人だったんですね…………なんか幻滅しました」


「ち、違う! 僕は嘘なんて───」


「うるっせーよそこどけ! 俺達はメアに用があんだよ! 邪魔すんならぶっ殺すぞ!」


 確かみょるにるさん? が僕を怒鳴るように言った。

 他の4人も僕を軽蔑するような目で見ている。

 だれも僕の話を信用してくれなかった。


「トーシローさん、悪いんだけどどいてくれないか? その裏にある扉、そこにメアがいる気がする」


 この人達を通してしまうと、いくらメアといえど夕食の準備をしている状態では殺されかねない…………!


「だ、ダメです! 僕の話を聞いてください!」


「───もういい」


「がっっっ!?」


 突然、僕のみぞおち部分に衝撃があり、僕は後方に吹き飛ばされてしまった。


「まっつんさん!?」


「…………自分らはリタイヤした3人のためにも、メアを倒さなくちゃならない。君に構っているヒマはないんだよ」


「ひゅー。派手にやるね」


「ぐっ…………うえっ…………!」


 みぞおちに深く入ったため、僕は一時的に呼吸ができなくなっていた。

 どうやら攻撃してきたのはランキング3位の人のようだ。

 今のはおそらくAランクの宝『ナックルグローブ』か……。

 Dランク宝石の『衝撃インパクト』を無制限に使える装備だ。

 たかだかDランクの攻撃ですら、鎧をつけていなければこんなにも痛いとは思わなかった。


「いやいや、痛みがあるわけないじゃん。だってこれゲームなんだぜ? ゲーム脳もそこまでいくと大したもんだよ」


「ふふっ」


「あはは」


 僕が痛がっている姿が面白いのか、彼らは馬鹿にするように笑った。

 僕は実際に痛みを感じて苦しんでいるというのに。

 でも逆の立場だったら僕も同じことをしているかもしれない。

 メアを目前にして他のプレイヤーの戯言ざれごとを聞いてはいられないはずだ。


「トーシローさん、頼むからどいてくださいよ。あなたがメアにご執心なのはみんな知っているけど、そんな風に独り占めするのはさすがにない」


「べ…………別に独り占めしているわけじゃ…………!」


 メアと過ごしてきて僕の考え方はここに来る前と変わっている。

 彼女は殺すべきじゃない。

 いや、僕が殺させない。


「ゲームの世界のキャラにこだわり過ぎじゃないですか? そういうのオタクって言うんですよね。正直言って気持ち悪いです」


「おいおい、ミモリンさんそれは言い過ぎじゃね? まぁまぁやり込んでる俺らも似たようなもんでしょ」


 そう言いながらもみょるにるさんは高笑いしていた。


「別物ですよ~。普通の人はゲームのキャラを守ろうなんてしないじゃないですか」


「そうね。彼の場合ゲームにのめり込み過ぎてしまっているみたいだし、少し常軌を逸していると思うわ」


「ぐっ…………」


 いまさら僕が何を言おうとも、彼らは僕の言葉に耳を傾けようとはしないだろう。

 そういう雰囲気ができてしまっている。


「まぁそういうことなんでおとなしくそこにいてください。もし抵抗するって言うなら死んでもらいますけど」


 RAVENさんが僕に剣を向けてきた。


 僕の中で既に腹は決まっている。

 僕はどうなろうと構わない。

 できれば戦いたくはなかったけど、メアのところには行かせない。

 ここから先へは通さない!


 僕は装備画面を開き、装備を全て身に着けた。

 一瞬にして服装が鎧へと変化する。


「ここで装備の変更ができるのか…………やる気なんですね」


「あなた達には分からないかもしれないけど、僕にも引けないことがある。たとえ死に等しい痛みを何度味わおうとも守りたいものがあるんだ」


「いくらトーシローさんと言っても、このメンバーに勝てると思ってるんですか…………? ナメられたもんだな!!」


「いや、勝てるなんてそんな希望的観測は持ってはいないよ。ただ、僕の場合は…………負けなければいい! 空間分離トランスファー!」


「!? 消え───」


 僕は一瞬にしてミモリンさんの背後をとった。

 一度しか使えない最強の初見殺し。

 早くも使うタイミングがやってきた。


「ごめんミモリンさん!」


「えっ」


 そのままミモリンさんの首を切り落とした。

 パーティの回復担当から狙うのは常識だ。

 このお城まで来るのに何時間も掛けて大変だっただろうし、僕もその気持ちは痛いほど分かるからミモリンさんには悪いことをしたと思う。

 でも今の僕には、メアを差し置いてまで優先できる感情は存在しない。


「嘘…………でしょ?」


 ミモリンさんはそのまま消滅した。

 始まりの国に戻されたんだろう。


「や、やりやがったなこの野郎!!」


 残りは4人、それでも全員一級品のプレイヤー。

 勝ち目が薄くても、僕のやる事は決まってる!

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