上位ランカー1

 僕がメアのお城に住むようになってから1週間が経過した。


 その間、お城の中を一通り案内してもらったわけだけど、僕が攻略組の動画を見たお城の内部はほんの一部であったことが分かった。

 あの動画の中では入り口からメアのいる玉座までの道のりは一本道で、お城の中で迷わないような仕様になっている。

 それはもちろん運営側が迷わないようにと意図して設計されたからに違いない。


 ここに来るまでがそもそも鬼畜なわけで、さらにここからメアのいる部屋まで探さなきゃならないとなると大変だからなんだろう。

 玉座手前に泉があるのも魔法使用回数を回復させるための配慮のはずだ。

 入ってみたけど温泉と同じ効果が得られた。


「でも冷たい」


 あくまで魔法使用回数を回復させるためだけのものみたいだ。

 温泉のようにずっと入ってたいとは思わない。


 その他に見て回ったのは宝物庫だ。

 メアが言うに、ここには多くの宝が置いてあったみたいだ。

 だけど、高ランクの宝石はほとんどメアが飲み込んでしまって、残っているのは低ランクの宝石ばかりのようだ。

 ただ、防具や武器は多少置いてあるようで、Sランクの剣が唯一1本置かれていた。


 Sランク【空間分離トランスファー


 一度だけ半径30m以内の好きな場所へ瞬時にワープすることができる武器みたいだ。

 一度使ってしまった後は普通の剣となってしまうみたいだけど、初見殺しは間違いない。


 メアは欲しければあげると言っていたので、僕は遠慮なく剣を手にして装備BOXへとしまった。

 一度しか使えないこの剣はとりあえずしまっておいて、普段は同じSランク武器の雷撃神らいげきしんつるぎでいいだろう。

 こんなところで新しいSランク武器が手に入るなんてラッキーだ。


 その他には食物庫とかを見て回った。

 巨大な冷蔵庫とかがあり、メアの話では毎日自動で食べ物が入っているため、自分で野菜を育てたり肉を捌いたりしたことはないらしい。

 おそらくこれも運営の仕事か。


 外も見て回ったけど、裏はメアが作った柵からほんの数百メートルで城の敷地外となっていた。

 とても深い森みたいで、オーパル大森林の比ではなかった。

 これを一人で抜けていくのは難しいだろう。

 どこに繋がっているかも分からないし。

 なんなら行き止まりという可能性すらある。


「あれから1週間、帰る方法は未だに見つからないわけだけど……」


「ま、まぁ私は別にトーシローがいてくれても気にならないけどね。部屋だっていっぱいあるし、食べ物も二人分以上は余裕であるし」


「うん助かるよ。ありがとう」


 僕もメアと一緒にいられるこの時間は最高だ。

 でもやっぱり、ずっとここにいるわけにもいかない。

 ベストなのは帰る手段を見つけて、なおかつメアといつでも会うことができる方法。

 そんなウルトラCそうそう見つかるわけが無いのは分かってるけど、せっかく築けた関係性は大事にしたいでしょ。


「あ、そろそろいつもの待機時間じゃない?」


「そうね。玉座の間に行きましょうか」


 僕とメアは玉座の間へと移動した。

 これは前に教えてもらった事なんだけど、メアは1日の内の一定時間を玉座の間にいなければいけない縛りがあるみたいだ。

 もしもこのルールを破ってしまうと、身体に尋常ではない痛みが等間隔で流れるらしい。

 これはメアが存在し始めている時からの縛りらしく、僕がこのお城にやってきた時にメアが玉座の間にいたのもそのためだったみたいだ。

 ちなみに僕は鎧とかは装備しておらず、ラフな格好で地面に座っている。


「これをずっと毎日なんて、頭がおかしくなりそうだよ。こんな何も無い場所で待機なんて暇すぎる」


「私もいつもはこの時間苦痛だったよ。だから最初に人が来た時は嬉しかった。ああ、私以外にも人はいたんだなって。でもその人達は私を殺しに来ただけだった。だから誰も信用しないようにしてたんだけど、トーシローは違うって分かったから……」


 そういってメアは柔らかく笑った。


「今はこの時間も悪くないって思ってるよ」


「…………そっか」


 僕らの間ではメアのもとにたどり着くことすら困難で、たどり着いたとしても上位ランカーですら殺されるクソイベントだと思われていた。

 でもそれはメアがただのNPCだっていう考えが根底にあって、メアもここに縛られている被害者だなんて考えつきもしなかった。

 でもメアにも自分の意思があって、感情があって、生きている。

 僕らとは違うAIであったとしても、そこに意識は介在している。


「僕も大好きなメアと一緒にいられるこの時間は最高さ!」


「~~~~~~~!」


 メアは耳を赤くしてプイっと顔を背けてしまった。

 動作一つ一つが超かわいい。


 それから僕らはいつものように他愛ない会話をして過ごした。



「そろそろ規定の時間は終わりね。私はこれから夕飯の支度をするから、トーシローは少し待ってて」


「じゃあその辺りをぶらついてるよ」


 メアが奥の扉からキッチンのある部屋に向かうところを見届けてから、僕は玉座の間で少し背伸びをした。


「メアはマジトレがリリース直後からずっとこんなことを続けてたのか……」


 運営よ。

 もう少しAIにも配慮ってものをだな。


 その時、突然入り口の扉が開いた。

 まさかの事態に僕の体もフリーズする。

 こんなところに人が来るはずがない。

 というか来れるはずがない。

 現在のパーティでメアのお城に辿り着ける実力を持ったグループはいないはず。

 過去の上位ランカー達もいないはず。


「…………あれ? トーシローさんじゃね?」


 入ってきたのは5人のプレイヤー。

 僕も何度か見たことがある人達。


「メアは?」


 現在の上位ランカー達だ。

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