挑戦4
視界が徐々に明るくなり、気付けば僕は始まりの国の噴水前に立っていた。
GAME OVERになった後は最後にセーブしたところから復活し、デスペナルティは冒険中に手に入れた宝のロストだけなので、それほど痛くはない。
「はぁ…………今日もダメだー」
近くのベンチに座ってガックリと肩を落とし、深いため息をついた。
死ぬと全ての魔法使用回数が回復する仕様となっているのは、地味に便利だ。
それにしても、最終関門で希望が全く見えない。
ソロプレイの限界が見えた気がするなぁ……。
『ピロン♪』
通知音だ。
メールが来た時や運営からのお知らせが来た時に鳴るけど、この世界でメールをやり取りする相手なんか僕にはいないから珍しい。たぶん運営からだろうな。
僕は装備画面を表示させ、通知項目をタップして届いたメールを確認した。
送信先はやはり運営からだ。
タイトルには【重要】と書かれている。
何だろう?
僕はさっそくメールを開いた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【重要】
「平素よりMAGIC OF TREASURE HUNTERSをご愛顧賜りまして誠にありがとうございます。
本会社では、従来よりMAGIC OF TREASURE HUNTERSを提供してまいりましたが、昨今のVRMMO情勢において本世界の利用人数が著しく低下しており、MAGIC OF TREASURE HUNTERSの世界構築を継続させていくことが困難と判断致しました。
つきましては、突然の発表ではありますが、本サービスを終了させていただくことと致しました。
サービス終了:本メール送信後より30日後
ご利用のお客様には、大変ご迷惑をおかけいたしますが、何卒、ご理解いただきますよう、よろしくお願い申し上げます。
長らくのご利用、誠にありがとうございました。
今後ともMAGIC OF TREASURE HUNTERSをご愛顧賜りますようよろしくお願いいたします」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「え………………?」
マジトレのサービスが………………終了?
いやいやそんなまさか。
何かの悪い冗談に決まってる。
そんな突然……だって僕…………はぁ?
「何だよそれぇ!!」
あり得ない!!!
一時期は一世を
それがこんなあっさり、1ヶ月後に終わるなんて信じられない!!
「えぇ……サービス終了かよ」
「まぁ最近少し過疎ってたもんな」
「やっぱ『ドラゴンズナイツ』に人持ってかれてたか」
「良い潮時かもしれないわね」
「今度から『ハッピーシュガースイーツ』とかやらない?」
「面白そーよねーあれ」
周りのプレイヤー達も運営からの通知を見てざわついている。
でもほとんどが諦めの発言ばっかりだ。
何でみんなはそんなに簡単に諦められるんだ!!
「僕はまだ…………メアに会ってもいないというのに…………!」
僕は滑り落ちるようにベンチから崩れ落ちた。
こんなの……あんまりだよ…………!!
何のためにここまで装備を揃えて、何十時間もかけて城到達を目指していたと思っているんだ……!!
「うっ……うっ……」
気付けばガチ泣きしていた。
これで僕はリアルなメアと会話を交わすことは二度と出来ないのだ。
買い集めたフィギアやポスターや抱き枕に向かって、一方的に話しかけることしかできなくなるのだ。
なんて寂しい生活なんだ。
『ピロン♪』
再びメールの通知音が鳴った。
何だろう。
実はドッキリでしたーとかいうオチかな。
現実逃避してもいいのかな。
「はは…………」
僕は力なく乾いた笑い声をあげながら、届いたメールをタップした。
『これよりサービス終了までの期間、特別イベントを開催致します』
「特別…………イベント?」
『誰も討伐することができていない【漆黒の魔女メア】をサービス終了期間までに討伐できた方先着1名には、【漆黒の魔女メア】に関わるスペシャル報酬を、現実世界でお送りさせていただきます』
メアに関わるスペシャル報酬を現実世界で…………。
メアに関わる……。
………………。
「まじでええええええええ!?」
先着1名にメアのスペシャル報酬が貰えんの!?
ってことはつまり、世界に一つだけのプレミアじゃん!!
何だろう?
フィギュアとか?
でもメアって服装とかバージョンが一つしかないし、運営だけが知り得る新しい服装とかのフィギュアかな!?
それともタオルとか、抱き枕とか、もしくはそれに準じた商品系のものかな!?
うわあああああああ高まってきたぁぁぁああああ!!
『イベント参加希望をされる方は下記のボタンをタップして下さい。なお、一度参加された場合はメアの討伐に成功するまで棄権することは不可となりますので、ご了承願います』
棄権なんてするわけないじゃん!
即決だよこんなの!
僕は画面を下にスクロールさせ、現れた『参加します』と書かれた画面をためらうことなくタップした。
「え?」
タップした指が離れない。
まるで画面と僕が磁石になってしまったかのように指が離れてくれない。
「え? あれ? 何このバグ。ちょっ、誰か」
近くにいる人に声を掛けようとした瞬間、画面に一瞬にして吸い込まれ、ログアウトした時と同じように体が引っ張られる感覚がした後に、改めて強制的にログインさせられたような違和感が僕を襲った。
暗転。
そして暗くなった原因は僕が目を瞑っているからだとすぐに悟った。
ゆっくりと目を開いていき、強引に入ってくる光に徐々に目が慣れていくことで、僕の視界が開けた。
どこかの室内だろうか。
カーペットのような上に、僕は倒れ込んでいるのが分かった。
「ここは…………」
「えっ……誰? あなた」
「えっ?」
人がいるのに気付かなかった。
声のする方へ見上げると、一人の少女が椅子に座り、頬杖をつきながらこちらを見ていた。
その姿を見た瞬間、僕の胸の鼓動が早鐘を打ち始める。
「あ……あ……」
「今、急に現れたわよね?」
黒の三角帽に法衣。
長い黒髪はサラサラと美しく、チラリと見える絶対領域はフィギュアで見たものそのままだ。
つまり彼女は──────
「ああああああああ!! メアだ!!」
「わっ! い、いきなり大声出さないでよ、びっくりするじゃない!」
紛れもなく彼女だ!
僕の探し求めていた彼女だ!
嘘でしょ、何でこんなところに彼女が!?
って…………ここはよく見たら上位ランカー達が戦っていた場所?
ということはメアが突然現れたんじゃなくて───
「ねぇ、私のお城にどうやって入ってきたの?」
僕がメアのいる城に転移してきたんだ!
あのイベントに参加すると自動的にメアのところに転移させられる仕様になっているなんて、サービス終了前に粋なことしてくれるじゃん運営も!
これで、何時間もかけずに無理難題なステージを突破せずに済むわけだ。
「メア! 君は僕が倒させてもらう!」
僕は立ち上がり、メアに向かってビシッと人差し指を立てた。
「そう…………アナタも彼らと同じというわけね……」
メアの雰囲気が変わった。
不審者を訝しげに見ていた視線から、明確な敵を睨みつける視線へと。
生憎と、僕の装備品は先程と変わりはなく、回数も回復済みのために万全の状態だ。
初手から大技で決めさせてもらう!
僕は両腕を前に突き出した。
「
「
え?
宙に舞っているのは、僕の…………腕?
直後、チリッと両腕に針を刺されたような痛みを感じ、そして今までに味わったことのないような壮絶な痛みが僕の両肘あたりを襲った。
「うああああああああ!! つっっっあああああああああ!!」
な、何でだ!?!?
痛覚は遮断されて、普通は衝撃が来るだけのはずなのに、まるで本当に腕を切り落とされたかのようだ!!
「痛い痛い痛いいいいいい!!!」
血がドバドバと勢いよく腕から溢れ出る。
ゲーム仕様では血が出るなんてグロ仕様はないのに。
「い、痛がったフリをしたって、嘘だって分かってるんだから」
メアが少し目を背けながら言った。
痛いフリなんかじゃないよこれは!!!
本当に痛いんだ!!
「これに懲りたら二度と私の所には来ないことね。さよなら……
僕の視界が徐々に床に近づいたことと、一瞬の首の痛みで理解した。
(ああ、首を切り落とされたんだ)
僕の頭が地面に着くと同時に、目の前が暗転する。
こうして僕は大好きな彼女に殺されて、死亡した。
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