第22話 テスト結果発表
さて、実力テストは翌日にも発表された。
教師はいつ採点したのだろうか。不思議だった。
順位は学年の廊下に上位三十名まで張り出されている。
俺は思わず順位一位を見た。
第一位 ロキ・リンミー(実技追試)
第二位 アナベル・クロムウェル
同二位 ネロ・リンミー(実技追試)
「……まじか」
第四位 ジュドー・オルレイン
「おお、ジュドーすげーじゃん」
とそっちに意識を向けたが、一位と二位の順位が頭から離れなかった。
第五位 マーライヒ・シュゼットヒル(実技実践)
第八位 ユーリ・ローレイ
第二十二位 ロベルト・メイジャー
そして俺は三十位には入っていなかった。まあ、こんなところだろう。
しかし、第一位と第二位が恐ろしくて仕方がなかった。
しばらく三組には近寄れない。
自分のクラスに戻って、各授業でそれぞれの科目のテストが返され、魔法学と薬学が赤点ギリギリであったことに肝を冷やした。外国語も第三外国語が散々だった。
そして最後に、個別に順位表が渡された。五十五位だった。半分以下。ショックだった。
「あー、……中間テストではもっと頑張らないとなぁ。っていうかジュドーすごいな。学校のテスト初めてなんだろ? なのに四位とか」
「自分でも驚いている。魔法と薬学と生物は自信がなかったんだけど、意外と取れた。特に魔法学。ユーリのおかげだ」
「俺はユーリに教わったのに、散々だったよ、魔法学。つーか、この中で上位三十に入ってないの俺だけじゃん。あー、……やる気が……消えそう……」
「そう腐るなって。上位に入ってるのほとんどがシュライゼン進学組だろ。善戦だろ」
「うう、四位に言われても慰めにならない……」
「はは。……それよりさ、ハール、お前寮に帰れるか?」
「……」
「アナベル・クロムウェル、……大丈夫か?」
「……」
そこである。
あのアナベルがネロではなく今度はロキに負けたのだ。しかも同じ順位にネロがいるのだ。ネロには負けなかったけれど勝てなかったのだ。
「あのリンミー兄弟も大概だよな。ホロウ校の刺客かなんかなのか?」
「……、うう、やっかい」
「もしくはコーカルの刺客? 首都ヘリロトを負かしにやってきた古都コーカルの化け物か何かかな?」
「そうかもしんない」
「俺はオルレイン領からあまり出たことがないからわからないんだけどさ、コーカルとヘリロトってそんなに仲悪いのかな」
「どうなんだろ。ジョークでは良く聞くけど」
「アナベルのところのクロムウェル侯爵家は、両親の仕事の話のなかでたまに出てくるけど、リンミー子爵家は聞かないんだよな。領地がないっていうから、コーカルに屋敷を持つ子爵なんだろうけど」
「コーカルの領主って何家なんだろ。俺貴族社会に疎くて。コーカル公爵とかいたっけ?」
「いや、コーカルは、独立経済特区だから領主はいないはずだな。税収はコーカル市に入る。トップは市長だな」
「ふーん。独立経済特区かぁ。……あれ? それって、社会で習った気がする。まわりの小規模な市町村が独立経済特区に入ることで、領主が領地を返上することになって、領主は領地からの税を徴収する権利を放棄するんだよな。かわりに、領地に定められている税を国に納めなくて済む」
「そう。それで肩書のみの爵位の貴族が生まれる。リンミー家もその一つってことなんだろう。住民が少なかったり、特産物のない領地では税の徴収もままならないこともあるからな。経済特区に領地を吸収してもらったほうが助かる貴族もいるんだろう」
「じゃあ、コーカルは小さな貴族たちの集合体ってことなのか」
「……、なるほど。コーカル市は一つの一族のものではなく、数多の貴族のものなわけか。コーカルにいる貴族の全員が、そこを自分の生きる土地だと認識し仲間となっている。だから結びつきが強い、のかもな」
「ヘリロトもたしかそれだよな。首都ヘリロト及び王都ヘリロト。王家に領地を差し出した貴族たちがヘリロトに居を構え、王宮に出仕して生計を立てている。王家直轄になるか、コーカル経済特区になるか……」
「その差だろうな……。……ん?」
「どうした」
「コーカル市のトップって、市長なんだよな……」
「そうジュドー自身が言ったじゃないか」
「市長って、……市民がなるんだよな?」
「だろうな、きっと」
「市民っていうことは、一般市民がなる可能性も、あるよな?」
「まあ、だろうな」
「多くの貴族共が、市民の下に大人しくつくんだろうか?」
「……さあ?」
「しかも、誉れ高き古都コーカルの貴族が?」
「……、あんまり、想像つかないけど、まあ、きっと市長の下についてるんだろ? 今現在」
「……」
ジュドーはなにか考え込んでしまった。しかしその後ロベルトとユーリがやってきて話題が変わってしまったので、その話は瞬時に忘れた。自分に関係の薄い土地の市長など興味はないのだ。
そして四人連れ立って教室の外に出たとき、廊下の窓際にネロが立っていた。たぶんネロだと思う。二組の前だったからだ。と思ったのだが、その二組の教室の入り口からネロが出てきた。廊下にいたのはロキだった。
「似すぎだろ」
と俺はつぶやいた。
そしてロキとネロはごくごく自然にそして勢いよくハイタッチし、密着するように小突き合って仲良さそうに向こうへと歩いて行ったのだった。ささやき合っては目配せのようなうなずきのような妙なしぐさを繰り返し、同じタイミングで前を向く。
「……仲良さそ」
「だな」
俺のつぶやきにロベルトが反応する。そしてユーリはもう一度教室に入った。
「どうしたんだ?」
ついてゆくと、ユーリは額に手のひらを当てていた。
「具合でも悪いのか?」
「いや、やられたと思って」
「なにが?」
「リンミー兄弟のあのハイタッチだよ。あの意味」
「そりゃ、……」
「あの双子にとって、主席なんて余裕だったんじゃないのかな。むしろ狙って順位を操作できたりしないか?」
「操作って、」
ジュドーが困惑したように声を絞り出した。
「俺の勝手な想像だとは分かってるんだ。ただ、あの双子が単なる成績優秀者に感じないんだよな。何かを隠しているような、奇妙な予感がするんだ」
ユーリの言いたいことが俺にはよくわからなかった。けれど、ふと思い出したのだ。ロキの緑の瞳に潜む金色の虹彩。そして、テスト前の意味深な言葉を。魔法の実技の作戦変更。
もしかして。
「もしかしてロキとネロって、魔法が使えるのか?」
俺の言葉に他の三人はハッとしたように顔を上げた。
「それだ」
ユーリが納得したように、そしてなぜか青ざめる。
「実技得点でアナベルを上回ったのかもしれない。いや、でも、だとしたら……、マーライヒはどうなる? それだけ筆記がずば抜けていた? そもそも実技得点が占める割合ってどれくらいなんだ?」
ロベルトがユーリの肩を叩いた。
「まあまあ、そんなに気になるならもう一度順位表見てみよう。なんか実技に関して書かれている生徒がいたよな。ロキとネロも書かれてなかったか?」
ロベルトの先導でもう一度順位表を見に行った。
確かに名前の横に実技に関して記載されている生徒がいた。
しかし。
第一位 ロキ・リンミー(実技追試)
同二位 ネロ・リンミー(実技追試)
実技追試。
俺たち四人の間に奇妙な沈黙が降ってきた。
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