第9話 ハール・ミッヒャーのお友だち

 俺ことハール・ミッヒャーはこの学園生活に喜びを感じてやまない。

 なにせ、不安で仕方がなかった始まりだったが、友達がたくさんできはじめているのだ。

 クラスではユーリ、そしてジュドーやロベルトという友人ができた。

 寮ではアナベル。

 そして他のクラスではロキとネロと仲良くできている。

 みんな優秀な生徒たちで、ジュドーとアナベルは侯爵家だ。ユーリは同じ伯爵家だが、とても栄えている都市の出だ。ロベルトは騎士貴族で男爵家だが、王家親衛隊にも属する由緒ある一族。

 王立シュライゼン学院に入った田舎の伯爵家の三男坊としては、大大大成功の交友関係を築けたと言える。

 ロキとネロは、子爵家だけれど、やっぱり爵位とか利用価値抜きにしても友達になれるならうれしい相手だ。頭もいいし、イケメンだし、ちょっと不思議で面白い。


「ネロってクラスで浮いてるのか?」


「それを本人に言うお前はすごいな」


「いや、ネロって自分から浮きにいってるようなきがしたからさ」


「友達を作りたくても作れない人間だっているんだよ。っていうか、俺もこんな風になるとは思っていなかったけどな」


「友達作りたいのか? 俺たちは友達だろ?」


「いや、そうじゃなくて」


 もしかして今否定された? 


「変なんだよな。なんか」


「変、なのか?」


「そうだ。なんか、変なんだよ。俺の周りに人が来ないけど、来るんだ」


「さっきも女子に囲まれてたよな。うらやま」


「だから、それだよ。昨日、お前についてきたような、魔導士のいたずら、……みたいに見える」


「え! さっきの女子たちが! まじかよ」


「わからないんだよ。いつもほとんど誰も話しかけてこないのに、たまにああいう風にとり囲まれるんだ。そして授業になるとささーっとどこかに消える。クラス内じゃない。廊下に出てゆくわけ」


「え、えええ? そんなんある?」


「ハールが来てくれて助かったよ、あそこから抜け出せるきっかけができた。つーか怖くて! あの女子たち怖すぎ!」


 ネロが本性をあらわにして叫んだ、ように俺は見えた。

 ツンと澄まして本を読んでいたり、クールに新入生代表挨拶をしている姿はかりそめで、こっちのほうが本当のネロのように思えた。

 まあ、ネロのことなど全く知らないに等しいんだけれど。


「はあ、これじゃ計画もうまくいかない」


「計画ってなに?」


「勲章をもらう計画かな? 最低一つはとっておこうと思って。親の為にもな」


 親のために、勲章をもらう。コネ入学なだなんて言っているが、かなり親孝行なやつじゃないか。

 シュライゼンで勲章をもらえれば、スカラーになれなくても田舎貴族にとってはかなり大きな誇りになる。いい大学にも入れるだろう。


「主席入学をしているんだから、勲章の一つや二つお前たちなら取れるだろ。まだ学校生活は始まったばかりじゃなか。重く考えるなって! そうだ、放課後、時間あるか?」


「放課後? 時間はある。むしろ暇を持て余してるくらいだ」


「そっか。じゃあ、俺たちと遊ぼうぜ。迎えにいくから」


「……わかった。クラスで待ってればいいか?」


 俺はネロと放課後に会う約束を取り付けられた。

 やったぜ。というか、あんだけ不安がっていた自分がなんだか妙に上から目線は物言いにをしていたような気がして、恥ずかしい。

 でも楽しみで仕方がない。



「ユーリ、ジュドー、ロベルト、今日の放課後にネロ・リンミーと遊ぶ約束したんだけど一緒に来てくれるか?」


「え。ネロ・リンミーと?」


 驚いたように言ったのはユーリだった。

 

「……どういう状況なんだい?」


「どういうって、成り行き? 友達になれたっていうか」


「ネロ・リンミーと友達……。俺は構わないけれど、ジュドーとロベルトは?」


「別に構わないけど。でも俺、接点ないぞ?」


 そうジュドーが言った。


「俺も」


 ロベルトも同じようだ。


「友達になれると思わない?」


 俺は聞いた。


「友達……」


「まあ、友達は増やしたいけど」


「増やしたいけど、状況が分からないからユーリと同じ不安がある」


「簡単に言えば、あいつ、魔導師系貴族にちょっかいだされて困ってるぽいんだわ。どうにかしてやりたいなって思って」





 放課後、俺たち四人は隣のクラスに向かった。

 俺たちのクラスは和気あいあいとしている。けれど隣のクラスは、どこが壁がある感じだ。けれども悪い感じはしない。他人のプライベートには入り込まなりとい優しさのようなものがある。けれどその優しさがいつでも正しいとは限らない。

 ネロは窓際で本を読んでいた。イケメンだなと思った。

 その周りには誰もいない。

 ネロもあえて誰かに話しかけようとしてはいない。

 ネロ以外にも、一人で過ごす生徒が多いように見えた。


「おーい、ネロ」


 俺はネロに手を振って声をかけた。けれどネロの反応がない。


「ネロ、ネロってば! おい!」


 名前を呼びながらクラスに入ってゆくが、それでもネロは反応してくれない。


「お前無視されてるんじゃないか?」


 ジュドーが酷いことを言う。

 けれど、ユーリがそれを制した。


「待った。なにか変だ」


 先に進もうとした俺とジュドーを止める。ロベルトはクラスの中にすら入ってこなかった。


「なにかがおかしいぞ」


「え、なにかって?」


 ジュドー聞き返したとき、パタン、と音がした。ネロが本を賭した音だった。


「あ、ごめん。ちょっと周りがうるさくて気が付かなかった」


 こちらに気が付いたネロが立ち上がりながら言った。


「……うるさかった、か?」


「聞こえなかったか? そうか、じゃあ、……きっと、そうなんだろうな」


 ネロが変なことを言うが、ロベルトはクラスの中に入ってこないし、ユーリもなにかいぶかしんでいるようだったし、俺にはわからないなにかが起こっているのかもしれない。


「行こうか」


 ネロが先を促す。俺たちはそれについて、寮へと向かった。

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