第7話 とっても真面目な密談
東の風寮と北の雨寮の間にある談話室で、ロキとネロは一つのテーブルに座っていた。
制服から私服に着替えて、テーブルには本とミルクティー。襟付きシャツの上から毛糸のベストを着て、泥などついていないパンツと革靴を履いている。きちんとした、それなりに裕福な貴族のそれなりに優雅な子息的な服装を心がけていた。
貴族学校ではあるが、貧富の差は結構あるようだった。栄えている領地の令息令嬢は爵位に関係なく仕立てが良く華やかな身なりであり、貧しい領地の令息令嬢は華がない。
ネロとロキは領地無しの子爵であったが、裕福な部類だった。無難な服を購入して持ってきたが、それでも田舎貴族の中では上位の身なりだった。
「目立たないようにするのも難しいな」
「これならいっそのこと泥遊び用の服でも持ってきたほうが良かったかもな」
「休みの日に外に買い食いに行くにはちょうどいい服だったかもな、あれ」
「っていうか、小遣いがもらえていないんだけど、どうしてだろう?」
「テストの結果を添付して手紙でも書けば送ってくれるかな?」
「実力テストなー。どんなテストなんだろうな」
「初回だし全力で頑張るしかないよな」
「……どうする? ネロ」
「……どうするって? ロキ」
「真面目に学生、やるか?」
「いや、俺、これまでも真面目だったけど」
「そりゃ俺もだよ。めちゃくちゃ真面目だったよ。そうじゃなくてさ、」
「ああ、スカラーとか目指すかってことだろ? お父様も言ってただろ、きちんとリンミー家らしくって」
「リンミー家のメンツをたてにいくか?」
「王冠とマントと、剣、盾、勲章、この五つをそろえて『皇帝』に、剣と盾、勲章の三つで『英雄』になるか、勲章を八つ集めて『賢者』に、辞書と聖書、そして錫杖と勲章で『法王』に。どれになりたい?」
「……」
「……」
「そんなトップ目指すか?」
「勲章三つくらいでいいか?」
「変に目立って目をつけられるの面倒だしな」
「一個くらいは勲章とっとけば、及第点だろ」
「だな。最低一個、最高三個」
「それで行こう」
「それで行こう」
二人は自身の代のリンミー家のメンツを、そのように位置付けた。
田舎子爵の次男には丁度良い。田舎者のくせに頑張ってるじゃないか、そう褒められる程度。ちょっとだけ目立つけれど、本当に目立つ者たちの足元にも及ばない。毒にも薬にもならない、でもちょっとだけ薬になるかもしれないポジション。
もう逃げられないのだから二人は腹をくくった。
「まずは実力テストの結果を踏まえて、どれくらい頑張れば勲章がもらえるか計算するしかないよな」
「学力は勉強次第でどうにかなりそうだけど、剣術と芸術と、魔法力ってのはどうする?」
「それこそ、全力でやって、……これまで以上に必死にならないといけないか、これまで通りでいいかを測らないと。しばらく遊ぶ時間も必要じゃないだろうし、時間はあくし」
「遊ぶ時間が必要じゃないってさみしー」
「あー、遊ぶ時間が必要になりたいー」
つまり遊び相手も遊ぶ内容も一切無い寂しい状態なのだ。
「ハロルド達なにやってるかな。魔法使いチームに勝ってるかな」
「もうそんな子供っぽいことなんてしてないかもしんないぞ? だって高等部生だし」
「そうでもないぞ」
「ん?」
「今日、魔法っぽいのにつけられた」
「意味が分かるように言ってくれ」
「察しろ」
「俺とお前は別個体」
「ロキ、お前ハール・ミッヒャーって知ってる?」
「入学式の時にちょっと話したな」
「そいつに俺たちがコネ入学って言ったろ」
「言った」
「それをほかの友達にしゃべっちゃって、噂になってたらごめんって謝られた」
「まじか、これはいじめの対象にされるな、三か月後には泣きながら退学してコーカルに戻れるな」
「そんときに、人形が付いてきてたんだよ」
「人形って、なに、ホラーかよ」
「いや、女子生徒に化けた何か、かな? すっごい自然で、すっごい不自然な存在でさ、一言もしゃべらないのに違和感がなくて、それが違和感? ここはガツンと脅してやろうと思って顔ひっつかんだら、消えた。ビビった」
「魔法相手には脅すのが一番だからな。術者が怯めばこっちが付け入るスキができるし」
「っていうかビビった。魔導師系貴族? っていうの? あれに目をつけられたかもしんない。俺、なにもしてないのに。言われた通りに壇上で紙を読んだだけなのに」
「目をつけられましたね、ネロさん。ご愁傷さまです」
「代表挨拶の最後に、ロキ・リンミーって名乗っておけばよかった」
「コーカルじゃ魔法の授業なんて俺たちにはなかったけど、こっちでは貴族も普通にあるらしいな。そこでなにかわかるかな」
「術者とか?」
「それもあるけど、こっちの学校での、魔法の立ち位置? 魔導師系貴族の立ち位置的な」
「あー。確かに」
「貴族からはかなり下に見られているっぽいし」
「まあ、魔導士は貴族に仕える立場だからな」
「けど貴族にも魔法の授業もあるんだろ? 試験もあるし」
「それな。どうする?」
「どうしようか?」
「魔法を使えたほうがいいのか?」
「魔法は使えないほうがいいのか?」
「貴族として?」
「貴族として」
「貴族的ってどんな感じ?」
「貴族的ってなに?」
ロキとネロは同じタイミングでティーカップに口をつけた。それは酷く貴族的であったが、本人たちはそれに気が付いていなかった。
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