池のそば
蘭歌
第1話
「なぁなぁ!聞いた!不忍池の噂」
「なんだよそれ。知らねぇな」
「え、ノブちゃん知らないの!?我らがお山の大将のノブちゃんが!?しらないの!?」
「喧しい!人の事貶しやがってこの野郎!知らねぇもんは知らねぇよ。不忍池がなんだって?」
「知りたい?」
「そりゃ、そんだけ騒がれれば知りてぇよ」
「そっかー知りたいかー…後悔しない?」
「なんで後悔しなきゃいけねぇんだ」
「だって怖いよ?」
「お前の話が、怖いわけねぇだろ」
「でも、店賃」
「おいやめろ!三つ溜めてんだ」
「俺四つ!ノブちゃんに勝った!」
「んなこと勝ったって自慢にならねぇよ!とっとと話せよ」
「不忍池に、出るんだって」
「出るって何が。犬か?お岩さんか?」
「違うよ!男!」
「んなの、いるだろ。女子供しかいねぇなんて事、ないだろうよ」
「だからー。丑三つ時に、一人でぶつぶつ言って、時々一人笑いしながら歩いてんだって。怖いだろ?」
「……どこが。どうせどこかの役者か噺家だろ。そのうち、どこそこのアイツだーって足がつくよ」
「じゃあさ」
「うん?」
「今夜一緒に行って確認しようよ」
「……なんで行かなきゃいけねぇんだよ」
「だって怖くなくて、すぐ足がつくって言うなら、正体明かそうよ。あ、それとも、
本当は怖いんだ?でも、俺の前で怖いーなんて言えないから、強がって怖くないって言ってるんでしょ。それならそうって言ってよ!別に、俺、ノブちゃんがお化けが怖いって言っても別にどうとも思わないよ?あ、ノブちゃんにも怖いものあるんだなぁってだけだし。そっかーノブちゃんお化けがこわ」
「だから怖くねぇって言ってんだろ!見てろ、一人で行って正体明かしてやろうじゃねぇか!」
まさに売り言葉に買い言葉。その日の夜一人で不忍池へとやってまいります。丑三つ時になると、人の気配もなく、遠くからボーーンと鐘の音が低く響く。ええ、怪談噺にはお約束の光景です。
鐘の音に混じって、クツクツ、クツクツ、と笑い声。そちらを見れば、年の頃なら二、三十代の黒い絣をきた男が、一人笑い。そうして、ぶつぶつと呟きながら、ふらりふらりと池の周りを進んでいく。
「出やがったな。……おい、テメェ!そこで何してる!」
「え?……ああ、私噺家でして、稽古を……」
「ほら見ろ、幽霊の正体見たり枯れ尾花、だ。やっぱりそうじゃねぇか」
「すみません……如何せん他に、煩いと言われてしまいまして。こうするしか稽古する場所がありませんで」
「別にいいけどよ。足がつくと仕事に影響が出るんじゃねぇか」
「いや、足はつきませんよ?」
「なんで。贔屓とかに見つかったら一発だろ?」
「だって、私、足がありませんから」
池のそば 蘭歌 @Ranka0731
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