43.戦闘の痕
─43.戦闘の痕─
「よーし、一旦ここら辺で休憩だ」
俺達は恐らく国境だろうと思われる壁が見える丘の上で休憩することにした
「ホント速いわね……もうルーバスの国境じゃない」
「ああ、やっぱりアレは国境だったのか」
「そういえばなんで道から外れた所をずっと走ってこんな所で休憩なんですか?途中にもいくつか村とかあったと思うんですけど」
サラ聞いてきた
「ああ、それはな、一応人目を避けるためだよ」
「いやこんなの走ってたら十分目立つ思うんだけど」
それは仕方ないことだ
「一応公認パーティーになったとはいえ、俺達を知っているのはごく一部だし、情報の伝達速度も遅い。言い方は悪いが何も知らない片田舎の村人がいきなりこんなの見たら混乱を招きかねん」
それにLAV-300はルーバス帝都のお偉いさん達やザギの人達も知らない状態だからな
「なるほど、アンタなりの配慮ってことね」
「まあ、そう思ってくれ………んで今現在追加で懸念事項が出てきてしまった」
「………もしかして、関所、ですか?」
リンが答えた瞬間皆が『あっ…』という顔をした
そう、関所の人間が俺達の情報を持っていないと確実にややこしくなる事がほぼ確定する
なんせこんな見たことも聞いたこともないような鉄の塊があるからな
「ああ、これはひと悶着ありそうだぞ……」
〜〜〜〜〜
「…………全然そんな事はなかったね」
「………拍子抜けもいいところだったわ」
「まさか帝都からの専用回線………というか連絡網と言ったほうがいいのか?があるとはな、妥当といえば妥当か」
俺達は現在、無事に関所を抜け、再び亜人連合に向かっている
関所ではLAV-300には驚かれたものの所属パーティーと目的を言ったらあっさり通してくれた
なんでも『関所か帝都で緊急事態が起こった場合』のみ開かれる専用の通信魔術回線があるとの事だ
知っているのは関所と帝都の軍人の極一部とのことで、当たり前だが詳しくは教えてくれなかったが、通信魔術の距離の都合上、中継者がいるのは確定しているので、駐屯地とかにでもいるのだろう
電話や無線が無い世界でここまでの情報伝達速度を限定的とはいえ実現するとは、流石魔術の世界である
こっちも人工衛星等があれば電話が使えなくは無いが、何分そんな技術も知識も皆無だ
ちなみに今はリンが運転している
「そういえばこの車?は速度が上がりつつ音が変わる時に感じる『衝撃』がそんなにないわね」
「確かに……永一君、この装甲車ってオートマなの?」
「ああ、オートマだ…………悪かったな、マニュアル操作がヘタクソで」
「オートマ……ってなんですか?」
サラが聞いてきた
「オートマチックトランスミッション、自動変速機とも言うな、俺やリン、美崎が運転している時にガチャガチャ動かしてるレバーあったろ?」
「確かにあったわね」
「あれは変速機って言ってな、中に大きさの違う何枚もの歯車が入っていて、速度を変えるためにその歯車を切り替える機構だな」
「うーんと、つまりどういうこと?」
ミランはちょいとわからなかったみたいだ
見るとサラもそんな感じだ
「歯車は大きさが違うと周りにある歯数が違うだろ?」
「うん、そこまではわかる」
「前に見せたエンジンがあったよな?あそこに直接繋がっている歯車の歯数を40、回転数を1と仮定して変速機の中に入っている歯車を……今回は2枚にするか…極端だがそれぞれ歯数が80、20としよう。それぞれ接続したら回転数はどのように変化する?美崎はわかるか?」
俺は美崎聞いてみた
「うーんと、80の方だと回転数が半分の0.5に、20の方だと回転数が倍になって2になる……かな?」
「正解、40の歯車が1回転する間に80の歯車の場合は半回転、20の方だと2回転する計算だ。単純に考えると変化したこの回転数をそのまま駆動輪に伝えることで速度が変わる」
数値が1以下になると駆動輪に伝わる回転数は落ち、1以上になると回転数が上がる
1速がいくらエンジンを回しても速度が出ないのはこの為だ
ちなみにレースゲームにあるギア比の数値はこれだったりする
ゲームでは簡単に数値を弄っているが、実際に考えるとミッションバラして中のギアを歯数の違う別のギアに入れ替えている事になる
しょっちゅうギア比を弄っているプレイヤーのゲーム内メカニックには地獄だと思う、合掌
「んで、多分誰もが想像したと思うことだが、『元の回転数が上がり続ければ速度は上がり続けるのでは?』と。しかしこの『元の回転数』はエンジン回転数で、エンジンによってもバラバラだが大体は分間7000回転くらいまでしか回転数が上がらないんだ」
「あ、わかりましたよ。その変速機がなければいくら頑張っても駆動輪に伝わるのは分間7000が限度、それを変速機を中継することで半減させたり倍にしたりしているんですか」
「ロト、正解だ。更にエンジンの回転数は変動が激しすぎるから速度を調整しやすくもさせてたりするぞ」
「凄いですね、よくそんなことが思いつくものです」
イオは感嘆の声を上げた
「なに、本当に凄いのはこれからだ、今まで話していたのは俺達が今まで操作していた変速機の基本構造で、手動変速機…マニュアルトランスミッションの話だからな。俺達の世界にはこれを自動化させようと考える猛者が現れた」
「自動化……つまり歯車を切り替える操作をしなくても勝手に切り替わってくれるって事!?」
「そういう事だ。これが完成したことにより、運転手は実質ただアクセルを踏むだけでいい事になった」
「それは、凄いですね。操作を簡略化させた事で誰でも運転できるようになったわけですか」
「そのぶん機構はとてつもなく複雑になったがな……ぶっちゃけこの場で説明できる気がしない」
手動変速機の変速手順が『クラッチを切り、レバーで切り替えクラッチを繋げ増速』なのに対して自動変速機は『クラッチに該当するトルクコンバータ内のポンプを回して内部の液体を動かし、その液体をタービンに当てタービンを回転、多段化されたプラネタリギアをコンピュータ制御された油圧機構で制御し増速』という機械がわからない人が聞いたら一瞬で置いてけぼりを食らう機構なのだ
恐らくこれを今この場で言葉だけで説明したらトルコンの流体クラッチ機構で「?」となりプラネタリギアの構造で「???」となりコンピュータ制御で考えることを止めるだろう
自動変速機は複雑な上に精密機器なのだ
「まあ、この機構を搭載してる奴なら操作法を勉強すれば簡単に運転ができる訳だ。それこそお前らでもな」
「確かにそれはそうだけど、法律とかいろいろ大丈夫なの?永一くん」
「何言ってんだ、この世界には道路交通法なんてないんだぞ。確かに最低限のものは覚えてもらいたいがな」
帰ったら移動用になんかAT車でも創るかね
俺やリンが何かあって運転できなくなったらいろいろヤバいからな
保険は大事だ
〜〜〜〜〜
「そういえばさ、亜人連合ってどんな所なんだ?」
俺は今更感があるがアメリアに聞いてみた
「どうしたのよいきなり」
「いや、そういえばどんなところか知らなかったなーと思ってな。こっちの人間は殆ど情報持ってないし、俺や美崎に関しちゃ亜人なんて種族自体が未知数なんだしな」
なんだかんだいって俺は亜人連合に関しちゃ知識は絶無と言っても過言ではない
調べようにも資料も殆ど無かったしな
「うーん、とはいってもねぇ……私もなんて言っていいのか……簡単に言えば少数民族が集まって国みたいな体裁を取り繕ってるところなのよね」
「なるほどね、それで連合か」
こっちでいう合衆国みたいなもんか
「まあね、種族ごとの長所を生かしてそれなりに上手くやっているわね」
「それぞれの種族の長所ねぇ」
「そ、私達キッサ族はそれなりに機敏だから偵察とかね」
「ん?キッサ族?人間側は猫族とか言っていたが?」
「それはそっちが勝手に名付けただけでしょ、多分ロクに種族を調べようともしなかったんでしょ」
つまり人間側が言っていたアメリアの種族は思いっきり仮称だったわけだ
調べる気無かったのかな
いや、こっちでも身近にいるのに誰も調べないから生態が未知数ってのもいるからな
コンクリートによくいる、あの赤い奴ことカベアナタカラダニとかな
アイツ、『5~7頃にしか現れない』『捕獲した個体が全てメスだったので単為生殖をしている可能性がある』『エサは恐らく花粉』『日本にいる種類は人を噛んだりしない無害なやつっぽい』『しかし体液で皮疹になることもある』『赤くてちっこくてすばしっこくて見ていて気持ち悪いので駆除対象』程度しかわかっていなかったりするんだよな
てか最後めっちゃ不憫なんだが……
なんでも「調べても賞も貰えんし金にならん」とか
世知辛いね
話は戻るが、アメリア達キッサ族が偵察担当ならアメリアが言っていた「ハイエルフ=変態技術集団」ってのにも納得がいった
要は研究開発担当って訳だ
ハイエルフ達がなんか作ってそれを他の担当種族が使う
確かに亜人の少数民族が協力しあって国家みたくなってるので「亜人連合」ね……
いや、これも言葉の最後に(仮称)が付くのかね?
そんな話をしながら進んでいたら……
「ん?なんだこの惨状は」
「所々木が倒れてるね」
「かなり無理やりへし折られた感じですね、戦闘でもあったのでしょうか?」
所々木がへし折られているエリアに遭遇した
〜〜〜〜〜
「こりゃ相当な力で無理やり折られてるぞ」
俺達は一旦停車して調べることにした
もしかしたら脅威になるかもしれないからな
「見て、こっちの木に毛が付いてる」
「てことはこれはこの毛の持ち主がやったってことかね?」
「これはワイルドボアね、確かにこの辺りでも出るけど、こんな木を折れるほどの力は無かったと思うんだけど……」
「でもワイルドボアなら油断しなければなんとかなりますね」
「…………おい皆ちょっと待ってくれ」
そう言いながら皆はLAV-300に戻っていこうとしていたが俺はある物を見逃さかなった
倒れた木の下の地面にうっすらと残っていた「履帯痕」を
「え、これって……」
「履帯痕だな、IS-2みたいな大型のものじゃないから恐らくは軽〜中戦車くらいのものだろう」
恐らくここで戦ってたのはワイルドボアとこの履帯痕の持ち主の戦車で間違いないだろう
「皆ここからはちょっと警戒して進もう、もしかしたらどちらかと遭遇する可能性がある」
俺がそう言うと皆頷いた
LAV-300の防御力では戦車砲弾なんて弾けないからな
願わくば遭遇したくないもんだ
〜〜〜〜〜
俺達はその後暫く進んでいたが、時たま木が折られている現場には何回か遭遇した
その度に調べているんだが、毛が付着しておらず、近くに履帯痕があったため、あの場所以外の倒木は戦車が犯人と仮定した
そして時折地面に砲弾の着弾跡もあった
もしかしたら戦車はワイルドボアを追跡して同じ道を辿っているのかもしれないと思い始めた頃
操縦していたリンがある物を発見した
「永一さん、アレを見て下さい」
「……マジかよ」
そこには何かの突進を真横から受けたのか
履帯は切れ、さらに横転して身動きが取れなくなっているソミュアS35がいた
スクラップアーミー 〜異世界で棄てられていたのは現代兵器〜 チャンマン @tyanman1107
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