42.南へ

─42.南へ─


「よし皆、忘れ物ないか?」

「……なんか旅行に行くみたいな軽い雰囲気だけど、お仕事なんだよね?」


皆に銃を渡して数日後、全ての準備が整った為皆外に出てきている


「これがLAV-300ですか……確かに戦車より速そうですね」

「燃費もいいぞ」


リンがLAV-300を見て言った

リンとロトは人一倍射撃練習に集中していたらしく、休憩中とかにこっちに来ていなかったから、LAV-300を見るのはこれが初だ

それ以外の皆はチラッとだが、こちらの様子を見に来ている

軍人かそうでないかの差だろうな


「あれ、前見た時はこんなリアカー…だっけ?みたいのあったっけ?」


美崎が気が付いた

そう、このLAV-300には同じ様な形状、正確にはLAV-300の後ろ半分をぶった切った様なカーゴトレーラーが牽引されている


「え?こういう仕様じゃないの?」

「あー、美崎が来たのは最初だったからな」


「……永一、お前どういう改造したんだ」


「いや、LAV-300だけじゃ流石に荷物を積める量が限られる事に気がついてな、形状だけ似せて中身空っぽのトレーラーを創ったんだ」


装甲厚は変わらないが、それ以外は徹底的に取り除いている

これでかなりの量の荷物が積載できるようになった

ちょっと出入りする時に不便になったのと多少の燃費悪化には目を瞑ろう


「そういえばアメリア、亜人連合ってどこにあるんだ?」

「うーん、ここからだと南に800kmくらいかな、多分近くなったらわかると思うわ」


となると大体東京ー広島くらいか


「なるほど、わかった。それじゃ運転手は俺とリンが担当する。1日で行けなくもない距離だが、2~3日はかかるからな」

「私が何日も掛けてきた道のりをたった数日って……行商人が聞いたら腰抜かすわよ……」


新幹線だと約3~4時間ということは言わないでおこう


「これも技術の進歩だよ。皆はLAV-300とトレーラーの間の扉から入ってくれ」

「わかったわ」


皆が乗り込んでいった


「じゃあベルド、留守番任せた」

「はいよー」

「おっとそうだ、これは頼まれていたヤツだ」


俺はベルドに紙の束と何冊かの本を渡した


「……にしても紙の束、というか『M6A2E1の図面』はわかるが、そっちの本は何に使うんだ?一応歴史書だがソレ、『』だぞ?」


この世界で使い道があるとは到底思えない


「なに、前言ったろ?『面白いことをしようとしている奴がいるって』、それで役立つかもれないからな」

「うーん、よくわからんが、わかった。」


まあきっと有効活用するのだろう


「あ、それと『亜人連合』って言葉でわからなかったが、ここから800km南ってので思い出したのがあってな、あの辺りの森……正確には『ワフ森林』ってところなんだが、そこにしか自生していない木があるんだ」

「固有種か、それがどうした?」

「ああ、『シャコベ』って木なんだが、そいつの実、というか種だな、それが今思えば米みたいだったなーって思ってな」

「…………は?」


なん……だと……?

『ホントにヤバいときに食えるかなーって思って周りの皮はいで水で茹でて食ったことあるけど、ベチャベチャで食えたもんじゃなかったわー』とベルドは言っているが、恐らくは水に浸ける時間が長すぎたのだろう

現物をまだ見ていないが、調理方法次第では米の代わりになるかもだぞ


「………わかった、有益な情報感謝する」

「………メチャクチャ目つき変わったな。多分アメリアなら場所も知っていると思うぞ」

「確かにそうだな。……時間があったらちょいと土地を拡げておいてくれるか?農場にする」

「…………マジで?……ってかまだ米って確定していないのにこのやる気は一体………」


ベルドがドン引きしている

しかし仕方がない


米は日本人の命だ、それが手に入るのであれば、どんな苦労も惜しまない

恐らく美崎も同じだろう


「そうと決まれば膳は急げだ、ちょいと行ってきて栽培方法を聞いてパッと採取してくるぜ」


俺はそう言うとLAV-300に乗り込んだ





「おーい、主目的を忘れるなー……ってマジで行きやがった……まあ、気を付けろよ」


そう言ってベルドが屋敷に戻ろうとした時、エルマスが現れた


「ありゃ、永一君たちもう向かったの?」

「ああ、ついさっきな、何か用か?」

「うーん、カイがね、『王宮と王立学園から戦車の内部を調べるって呼ばれたけど、もしかしたら永一さんなら図面を持ってるのでは?』って事で聞きに来たんだけど、もう出てったんなら仕方ないかな」

「いや、図面は預かってるぞ、てか創らせた」

「え、ホントに?」

「ああ、何でもアイツ、分解整備用の工具さえ渡してないらしくてな、ついでに創らせたんだ」

「ありゃりゃ……じゃあこっちに荷馬車向かわせて正解だったかな」

「お、それは気が利くな、それなりに量あるからどう運ぼうか困ってたところだったんだ。荷馬車の到着は明日だろうし、ゆっくり寛いでいってくれ」

「それじゃあお言葉に甘えて」


そう言うとベルドとエルマスは屋敷に向かっていった



〜〜〜〜〜


─その頃永一組は─



「ちょちょちょ、いきなり出発してどうしたのよ」

「アメリア、ベルドから聞いたんだが、亜人連合がある近くの森に『シャコベ』って木があるみたいだな」

「あー、あの木ね。それがどうしたの?」

「その木の種って食ったりするのか?」

「………はあ?」


アメリアから「何言っているんだコイツは」という顔を向けられた


「あんな固くて周りに殻がある種なんか食べなくてもちゃんとした食べ物くらいあるわよ、茹でてもベチャベチャになるから食えたものじゃないわ。でも調べた感じだと穀物系に近いのよね、木なのに」

「木なのに穀物ってなんか面白いね…………あれ?……茹でるとベチャベチャ?」


美崎も気が付いたみたいだ


「美崎、気が付いたか」

「まさか……お米?」

「ああ、可能性は高いぞ」

「え、えっ、ホントにっ?和食は任せて?毎日お味噌汁作るよ?」

「落ち着け」


びっくりしすぎたのか、美崎がなんか変なこと言い出した


「オコメ……ですか?」

「聞いたことないね」


どうやらこの世界では米については知られていないのか、アメリアやリン、サラに至っても疑問顔だ


「そのコメってのが何なのかはわからないけど、アンタ達にとっては重要なのがわかったわ」

「ああ、俺や美崎にとっては懐かしくもあり、また現在進行形で求めている代物だ」



米、それは俺達日本人の魂である


イネの果実である籾から外皮を取り去った粒状の穀物の事をいい、日本では一般的に主食として扱われる

調理方法は炊くか蒸すのが主で、ジャポニカ米と言われる種類は他種よりも粘弾性が強いのが特徴だ

用途は広く、主食として米飯や餅、発酵させて日本酒、味醂、米味噌等様々な物に使われる



「お米かぁ……和食ジャンルが広がるね!」

「あくまで可能性の話だからな、形が似ているだけで、食感とかは遠いかもしれない」

「でも見てみる価値はアリだね!」

「そういう事だ、んじゃあ私事モリモリだが国境まで飛ばすぞー」

「おー!」

「いや、まってまって!こっちはまだ揺れに慣れてないんだからあああああ!!」


俺と美崎という米と聞いてヤケにテンション高い日本人2人を乗せた装甲車は、他の意見を聞かずに速度を上げたのだった



〜〜〜〜〜



─その夜、残り組─


戦艦長門資料室に人影があった


「……」


「……勉強熱心だな、アレグレ」

「ッ!?……ベルドの姐さんですか、どうしたんスかこんな夜中に」

「それはこっちの台詞だ、……言語の解読でもしているのか?」

「まぁ…そうッスね、こういう事ができるの、ウチの隊じゃ俺くらいッスから………」

「……いや、言語の解読ができる人間はそうそういないだろう。それこそ専門の道を進まない限り触れることさえない部門だろうしな」

「……まあ、そうッスね。俺はもともとは軍志望ではなくこっちを目指していました」


アレグレはポツポツと自分の過去を語り始めた


「俺の実家にもあったんスよ、こういうよくわからない文字が刻まれた鉄の塊が」

「小さい頃はその文字を理解したくて必死にいろんな本を漁っていました。まあ、どれにも該当しなくて両親にはめっぽう怒られましたけどね」

「それから数年後、その鉄の塊は軍が持っていって行方がわからなくなってしまいました。軍に入った今でもわかりません」

「諦めかけていた時に、この船に会いました。そしてこの船にある文字は当時見た文字と同じ文字でした。……つまりあの鉄の塊とこの船は同じ国が作ったということになります」


「………この船の技術は俺達の想像を絶するものでした。もしこれを作った国の言語を解読し、技術の一部でも手に入れることができれば、もしかしたら国を乗っ取っている教団にも一矢報いる事ができるかもしれない……と」

「………知ってしまった結果、祖国や元の部隊に戻る事ができなくなってしまってもか?」

「祖国を助けられるのであれば、それも本望です。長年の夢だった未知の文字の解読と祖国を救うことができれば、その後はどこにいたって同じです」

「………この事をサセン達は?」

「………」

「…なるほど、お前の独断か。………そんなお前にホレ、プレゼントだ」


ベルドは永一に頼んでいた本を出した


「……これは?」

「そんなこの船に元々あったような古い文字じゃあわかりにくいだろ、これは永一に言って創ってもらったアイツの国の歴史書だ。受け取った後に私がちゃんと翻訳もしているから安心していい。他の奴には他言無用だぞ?」

「……なんでそんなコトを?」

「お前はおちゃらけた雰囲気を出していたが根っこの真面目な性格が見え隠れしてたってのと、陰ながら努力してそうな雰囲気があったからな、実際そうだったし。んでちょっと手助けしてやろうと、そんな感じだ」


「その本は魔法もなく更には世界の広さも知らない小さな島国の2000年にも及ぶ長い歴史の物語だ、暇な時にでも読んでくれ。だがその本は簡潔に作りすぎててな、一部足りないものがある」

「足りないもの?」


「大半は第二次世界大戦……この艦が戦った戦争の事だ、そしてあの世界の人間がもう二度と同じ過ちを起こしてはならないと誓った戦争でもある。それは戦争を経験していない永一や美崎もわかっていることだ」

「………」


「そして実はこの世界に向こうの世界の兵器たちが過去に召喚されていて、その召喚された兵器の大半がこの戦争中に開発されたモノだ、そこを頭の片隅に置いて私の話を聞いてほしい」

「……ああ、わかった」



この時には普段はおちゃらけた雰囲気のアレグレの表情も変わっていた


「─これは遠い世界で実際に起こった話だ─────」


ベルドはアレグレに第二次世界大戦について語りだした


この世界に召喚された兵器がどれだけ危険な代物であるかを伝える為に

その中で起きてしまった『過ち』を伝える為に────




こうして各々の夜は更けていく………



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