34.それぞれの戦い Ⅱ 〜1人と1隻の拠点防衛〜

─34.それぞれの戦い Ⅱ 〜1人と1隻の拠点防衛〜─






「見つかりませんね」


「そうね……ルーバス王国のフェニー村に向かったのは間違いないの?」


「そのように聞いています」


「どこの誰だか知らないけど、休戦状態の隣国にちょっかいを出すのはやめてほしいわ……」


「不思議ッスよねー、正規船員が国にほとんど残っているのに船だけ無いんッスもん」


「アレグレ、それは窃盗というのですわ」


「強盗……の方が近い?」




私達イルグランテ第五竜騎隊は未許可で出撃し消息不明になっている第一船団の捜索を行っていた




私達5人の他にも3隻の帆船が捜索に出ていて、私達はその航路上に何か無いかと先行して捜索している




船の乗組員は重武装をしている者が多く、さらに雇われ兵士だと思われる人達もかなり乗っていた


例え船を盗まれていた場合の対応だとしても少し過剰過ぎる戦力だ




そして陸がルーバス王国の領土になって暫く飛んでいたら




「……ん」


「どうしたのシレン?」


「……セサン隊長…、あれ……」


「あれは……木片?」




海面に浮かんでいる木片を多数発見した


これは……




「隊長ー!私達(イルグランテ)の軍旗まであるッスよー!」


「アレグレ、ホントに!?」


「あそこに引っ掛かってるッス……」




つまりここにある木片は第一船団だったモノと考えるべきだろう


そして木片には酷く焼け焦げた跡が見受けられた


そこから想像つく答えは……




「……何者かに壊滅されられた…?」


「モンスターという可能性はありませんの?」


「ノーブル、それはないわ」


「どうしてですの?」


「この付近には船を破壊するほどの強力な海生モンスターは確認されていません」




この隊の副隊長のクレタリオが答えた


ここで疑問が生じた




「しかしそうなると一体誰が……」


「まさかルーバスですの?」


「……いや、ルーバスにはそんな海上戦力は存在しない」


「そうは言ってもシレン、ルーバス以外に可能性が無いッスよ?」




部下たちが発見場所上空で議論を始めてしまった……


しかし飛竜達もかなりの距離を飛行してきたからか、かなり疲れた表情をしている


何処かに休める場所はないだろうか……




「……ここで話していても拉致があかないわ。近くに降りましょう」


「と言ってもどこに降りるんッスか?見える所は全てルーバスの領土ッスよ?」


「……フェニー村がある」


「確か何年も前に廃村になってたんでしたっけ?」


「誰もいなさそうだし、降りてもバレなさそうですわね」


「そうね、船を盗んだ奴らが何を目的にフェニー村に向かったのか知りたいし、そこに行ってみましょうか」




私達はフェニー村に向かった




そこで私達は目撃してしまった




自国の軍用帆船など児戯にも等しいと思える洗練さと存在感を放つ『鋼鉄の城』を─────






〜〜〜〜〜




「いやー、流石戦艦だ。デカい、いやデカ過ぎる」




私は永一が創った戦艦長門の艦橋にいた


つい先程まで艦内の探索及び動作確認を行っていた所だ


アイツ、創るまでは良かったが、内部状況何もチェックしないで行きやがったからな……




………まあ、探索が楽しくなかったと言えば嘘になるがな




「しかし、人員と食料以外は全て揃ってたな」




燃料も弾薬も全て揃っていた




しかし人員が圧倒的に足りていない




なんせ戦艦長門の当時の乗組員は約1900人、現在は私1人だ




おまけに兵装の殆どは自動化されていないときたもんだ




だからこそのこの人数なんだろうけど




「………来たか」




来てしまった、という方が正しいかもしれない


私が復活する前に永一達がイルグランテの船団を撃破していたので、永一は来ないと踏んでいたようだが、どうやら増援のようだ




竜騎兵5騎のさらに後方にはうっすらと帆船3隻も見える




私は今現在召喚できる数である10体のウォーターゴーレムを召喚し、それぞれ対空砲に割り当てた




そして私自身は遠隔操作魔術を使い主砲を制御下に置いた




「……迎撃準備完了、だが最初は警告からだ」




この辺りはキッチリしなきゃね




もしかしたら……ってのもあるしな




そう思いながら私は念話魔術を使った






〜〜〜〜〜






私達は目の前に広がる光景にただただ驚愕していた




フェニー村があったと思われる場所に到着したと思ったのだが、建物はほぼ無く、代わりに黒っぽい平地が一直線に広がっていた




何か開拓でもしているのか、とも思ったのでここはまだ良い




しかしいくら目を逸らそうとしても巨大な『ソレ』は目に入ってしまう




「な、何……アレ…」


「城…?でもあそこ入り江の入口ッスよ……?」


「………まさか、船?」


「あのような大きさの城が船なんて……そんなバカな話があるんですの!?」


「……しかもアレ、見たところ金属製ですね…」




村の入り江の入口に存在するソレは、まさしく『鋼鉄の城』だった




確かに下は船みたいな形をしているし、よく見るとマストもある


でも私にはこれが動いている姿が想像できなかった




その時クレタリオが何かに気が付いた




「もしかして、あの周りから突き出している棒は……大砲?」


「……まさか」




ありえない、私達(イルグランテ)だってつい最近実用化に漕ぎ着けた兵器だぞ


ルーバスが完成させていたなんて情報は入ってきていなかった




仮にもしアレがルーバスの船だとして、我々は勝てるだろうか?




そう思っていたら念話魔術で話しかけられた




《上空を飛行中の竜騎兵、こちらは停泊中の戦艦長門である。ここはルーバス王国上空である。貴官らの所属と目的を答えよ》




恐らくあの船からだ




戦艦ナガト、それが名前らしい




我々が行っているのは消息不明の戦闘帆船の捜索だ、別にやましい事はしていない




私は包み隠さずに伝えた




《我々はイルグランテ王国第五竜騎隊、現在消息不明となった我が国の戦闘帆船5隻の捜索をしている最中だ。要らぬ警戒をさせてしまい申し訳ない》


《なるほど、事情は理解した。しかし……》




そこでナガトの乗組員と思われる人は言葉を区切った




《どうしました?》


《……いや、恐らくだがその船団は、もういない》




そして発せられたのはここに来る前に予想していた答えだった




《……何かしっているのか?》


《ああ、だが1つ確認したい事がある………後ろの帆船3隻はお仲間か?》




ここからあの船団が見えるのか、凄まじいな




《ああ、私達と同じく今回消息を断った戦闘帆船を探す為に編成された捜索船団だ》


《捜索船団ねぇ……随分殺気立ってるんだが、アイツら探す気あるのか?》


《……それはどういうことです?》


《ここからじゃあハッキリとは見えないが、全員武器構えて突っ込んで来ているぞ。それこそまるでここからルーバスに乗り込もうとしているかのようだ》


《……そんなバカな》


《私も聞いた話なんだが、どうやら私の仲間が撃沈した貴国の帆船は『教団』という組織が陰から動かしていた可能性があるらしいぞ》




聞いたことがある


全世界に教徒がおり、世界の統合を目指しているという裏組織『教団』




かなり国家の主要部にまで入り込んでおり、捜査をしようとすると上流階級から圧力を掛けられ、なかなか尻尾を出さない組織だ




そんな組織が関係していたなんて……




《まさかあの船に乗っていた人達が捜索にしては随分重武装だったのは……》


《恐らくはそもそも捜索隊などではなく、攻め入るための追加戦力だろう。………そして君達が事情を知らないのも大体察しがついてしまった》


《………というと?》




私は恐る恐る聞いてみた




《君達は恐らく結成して日が浅いんじゃないか?》


《た、確かにそうだが》




何故そんなことを聞くのだろう?




《恐らく君達は利用されたんだ、竜騎兵は帆船より速い、先回りして航路上の相手に嘘の事情を話して速やかに通るためにな。しかしベテランの竜騎兵は貴重だ、そこで切り捨てるために選ばれたのが切り捨てても損害の少ない新兵であり結成して間もない君たちだったのだろう。……君達は純粋にただの任務と言われたのだろうな…言葉に悪意が一切感じられなかった、だが本体の船団の悪意がだだ漏れだ。君達とは全くと言っていいほど正反対だったのもこれで合点がいった》


《なっ……》




私は絶句した


利用されていたのか…?私達は……




《実を言うと同じ警告をあの船団にも送っていたんだが……君達とは違って目的を答えてはくれなかった……》


《………》


《これから再度警告を行い、指示に従わないようであればこちらは攻撃を行う》


《………わかった、こちらも事情を聞いてみよう》


《気をつけろよ………総員対艦戦闘用意》




念話魔術を切った後、ナガトの側面の大砲と思われる物が動いた




更には前後に4つあるドーム状の大砲まで動き始めた




「……なんスかあの大きさ、あれまで大砲なんていうんスか」




恐らくはアレで攻撃するのだろうが、アレグレの意見は最もだ




あんなサイズの大砲は見たことがない




私は皆に振り返りながら




「私は船に行ってどういうことか聞いてくる、皆はここに居て」


「であれば私も同行しましょう、一人ではもしもの時危険です」


「わかったわ」




副隊長のクレタリオが名乗り出た




「他のみんなはこっちの動向を伺っていて」


「「「はい」」」




私達は帆船に向かった




〜〜〜〜〜




「……2人行ったか」




私は艦橋から帆船に2人向かっていったのを確認した


そしてこちらには3人残っている




そして見た感じ乗っている飛竜もかなり疲れた様な挙動をしているな


恐らく無理をして捜索していたのだろう




………仕方ないな




私は念話魔術を3人に向けて使った


残ったのは男1人と女2人だ




《残っているそこの3人、見た感じ飛竜達がかなりつかれているようだが……》


《そうなんスけど、ここはルーバスの領土ですし、勝手に降りるわけには……》




男が答えた


真面目だな




《なら、この船(長門)に降りればいい。生憎、この船はルーバス国籍ではないのでな》




何を隠そう異世界国籍だ




《で、ですがどこに降りればいいんですの?》




女の1人が答えた




《比較的何もない艦首に降りてくれ、誘導は私がしよう。空中線があるから気をつけてくれ》


《………わかった》




3人が了承したことを確認したので、私も艦橋を降りる




ちなみに今現在、3隻の帆船は未だ副砲射程外だ




主砲射程内ではあるんだが……絶対命中しても効果薄いだろ………




ただただ貫通して終わりだ




それこそ栗田艦隊から総攻撃を受けたが装甲が薄すぎて砲弾が貫通した後に爆発していたとか言われている護衛空母CVE-73(ガンビア・ベイ)の様に




さて、どうしたもんか………




あ、『アレ』があったな




〜〜〜〜〜




「………今、なんと?」


「何度も言わせるな、その通りだと言っている」




私とクレタリオは船団に到着してすぐに船長に事情を聞いた


目的地が目と鼻の先だったからか船長は簡単に話してくれた


それも念話魔術を使ってきた人の言うとおりの回答を───




「ここまでの警備、ご苦労だったな。お陰で安全にここまで来れた。これで我々はルーバス……いやザギを攻め落とせる」


「まさか……ルーバスとの休戦協定はどうなっている!?」


「そんなもの、我々『教団』には関係ない」


「ふざけた真似を……!」


「隊長……ここにいては危険だと判断します。直ぐに脱出を」




確かに、こんな所には居られない


最悪の場合、ここで言い争っている内にあのナガトの射程内に入ってしまい全員死ぬ




「そうね……船長、我々はこの事を国に報告させて頂きます」




私達は早々に脱出しようと試みたが、そんな素直に行かせてくれる訳もなく




「おおっと、どこに行くのかね?」


「俺達の事を聞いてただで帰れると思うなよ?」


「チッ……」




船員達に囲まれてしまっていた


さらに入り江までの距離が近くなっている




ここからでは背の高い木や周辺の地形の影響でナガト本体は見えないが、目を凝らすとあの巨大なマストが見える




勝負はあの巨大な船が見えて船員が動揺したタイミングだ、そこしかない




私とクレタリオはアイコンタクトをし、タイミングを伺った




あと少し……






「おい!な、何だアレは!?」




見張りが何かに気が付いたようだ


そして動揺は徐々に船員達に広がっていった




「アレは何だ!?」


「入り江に城だと!?」




船員の反応はわからなくはない




私達も初め見た時はそうだったし、今でもそうだ




しかしよく見るとその完成された洗練さと荘厳さに見入ってしまう






………っといけない、ナガトのあまりの荘厳さに見とれてしまっていた




…クレタリオが非難するような目で見てくる




すまなかった……




今度もアイコンタクトをしてタイミングを確認する




3……2……1………




「…………っ!!」


「!?」




今ッ!!




私達は同時に動き出した




私達を取り囲んでいた連中はいきなりの行動についてこれていない




すかさず私は短剣を抜き、すれ違いざまに相手の足に一撃を加えた


これで暫く本気で走れまい




「ガアアアア!!!」


「何だこいつ等!?いきなり暴れ始めたぞ!?」




私達が動き出した事により飛竜達も周囲の人間を薙ぎ払い始めた




飛竜は賢い、私達の状況と周りの動きから『飼い主はこうするだろう、ならこうした方が飼い主には得だろう』と考えた様だ


この飛竜達とは学生時代からの付き合いだ、それくらいの意志疎通はできる




私達は難なく飛竜達の下に到着し、すぐさま飛び上がった




矢が飛んでくるが、そんなもの飛竜の鋼鉄並みの鱗には通用しない






そして私はギリギリ念話魔術が届く距離にいるアレグレに念話魔術を飛ばした




《アレグレ!戦艦ナガトの人が言ったとおりだった!奴等は休戦協定を破ってルーバスに進行している!私達は脱出した!》


《わかったッス!ベルドの姐さん!聞いての通りッス!》


《………わかった、しかし正直ここからじゃあ副砲は届かないな……》




どうやらナガトの人も聞いていたようだ




今度はシレンとノーブルの念話が飛んできた




《……ん、移動完了》


《ベルドさん、言われた通りに飛竜達は船の後部に移動させましたわ!》


《わかった。主砲、1番、2番、斉射用意、弾種『三式』、方位修正右3度……脱出した2人、右に旋回し船団から離れろ》


《りょ、了解した》




《こっちにいる奴らは耳を塞げ!艦首甲板にいる奴らは艦内に避難するか遮蔽物に隠れろ!ミンチになるぞ!!》





ど、どういうことだ?


向こうで何が起きているんだ!?




《主砲、1番、2番斉射始めェ!!!》




───ズガアァァァァァン!!!!!




その時、今まで聞いたこともないような轟音と衝撃が身体を襲った






「船団はどうなっ……!?」


「2回の砲撃で全て破壊されている……!?」




船団の方を見るとここからでもわかるレベルで破壊、炎上していた




たった2度の砲撃で3隻の帆船は全滅していた




一体何が起こったのか




そう思いながら私達は仲間がいるであろうあの洋上の城に向かった




〜〜〜〜〜




「………目標炎上確認、流石三式弾だ、対空榴散弾とは言っていたが、木製の敵にも有効そうだな」




敵帆船3隻はこちらの三式弾2発で破壊炎上させられていた




三式弾とは対空砲弾の一種だ


砲弾内に996個の焼夷弾子と非焼夷弾子がつまっており、それが発火しながら拡散し、敵航空機を炎上させるのが正しい使い方だ




私はそれを帆船相手に使った




そう、三式弾は対地攻撃にも使えるんだ




ヘンダーソン基地艦砲射撃でも使われたからな




「………ん?」




その時私は遠くの洋上にあるモノを発見した




「あれは……『駆逐艦』か……?」




そう、遠すぎてハッキリとはわからないが、それは駆逐艦の形をしていた




流石に艦種まではわからないな……




しかし、この世界で駆逐艦を扱える人間がいるのだろうか?




「……まさか美崎や永一みたく異世界転移した人間がまだいるのかもな」




私はそう思いながらこちらに向かってくる竜騎兵2騎を誘導しに甲板に向かった

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