33.それぞれの戦い Ⅰ 〜190mmの壁〜

─33.それぞれの戦い Ⅰ ~190mmの壁~ ─




──戦闘が始まって暫く経った頃




俺達はいつでも出撃出来るように東門前で待機していた


俺達が動くのは敵戦車が動き出してからだ


その合図はエルマスさんが出してくれる手筈となっている




そしてその時が来たみたいだ




「永一くん、敵『鉄巨獣』が移動を開始したよ」


「了解しました。…各自インカムチェック」


《リン、大丈夫です》


《サラ、こちらも大丈夫です》


《ミラン、大丈夫》


《二号車、イオ、問題ありません》


《アメリア、大丈夫よ》


《美崎です、感度良好です》


《ロト、問題なし…です》


「こちら一号車永一、了解した。………エルマスさん、お願いします」


「わかったよ、城門開けてー!」




「「「ハッ!!」」」




エルマスさんの号令で城門が開いた


行こうか、戦場へ




「それでは行ってきます」


「永一くん……頼んだよ」


「「「御武運を!!!」」」


「ええ、お任せください……一号車、出撃。二号車続け」




俺達は城門から飛び出した




『城門が開いたぞ!!……は?あれは……鉄巨獣?』


『馬鹿な!鉄巨獣だと!?』


『それも二体いるぞ!?』


『破城槌だ!破城槌をもってこい!』




周りの敵兵士から驚愕の声が聞こえてきた


同国だから敵味方わからないだろ、だって?


今回、ザギの兵士はその対策の為に鎧の色を変えてある




色は旧ザギネルラの国旗にも使われた蒼だ




「ミラン、機銃で牽制だ」


《わかった、正面のでいいんだよね?》


「ああ、味方に当てるなよ?」




7.62mmDT28軽機関銃が火を吹いた




だがこいつは正面しか撃てないため、側面と背面が疎かになる




そこで俺もキューポラに取り付けられてある12.7mmDShK38重機関銃で牽制射撃を実行した




「破城槌を叩き込め!!突撃ィ!」




ズガン!!!




「ッ!?」


《!?永一さん!進まなくなりましたよ!?》


「破城槌を駆動輪に食込ませたか……考えたな」




しかしあくまで牽制だ、中には勇猛果敢に突っ込んでくる奴もいる


破城槌の杭を駆動輪に噛みこませて身動きを取れなくさせてきた


IS系統は剥き出しだから、ソコを狙われたか……




俺は勇敢にも突っ込んできた兵士に12.7×108mm弾を叩き込みつつリンに指示した




「リン!1速に落とせ!!杭ごと噛み砕いてやれ!!」


《了解!》




ミシミシミシミシ………バキィ!!!




「嘘だろ!?」


「破城槌を……噛み砕いた……だと!?」






ここで簡単にだがトルクと減速比の話をしよう


まずトルクだが、これは『軸を回転させる力』の事だ


わかりやすく言うと自転車だな


漕ぐのにペダルを踏み込むだろ?あの踏み込む力だトルクだ




そしてこのトルクだが、入力側のギアのより出力側のギアの歯数が多いとトルクが大きるなる性質がある




例をあげると




【入力側】 【出力側】


歯数 10 歯数 20


トルク 1 → トルク 2


回転数 1 → 回転数 1/2




となるわけだ


ぶっちゃけ言うと回転数が半減する代わりにトルクが倍になる




話を車に戻そう


結論から言うと、1速はその減速比が大きく、出力されるトルクが大きい




更に言うとジーゼルエンジンは低回転で最大トルクを発揮できるエンジン特性をしている




ここまで言えばわかるとは思うが、そんな大トルクに木製の破城槌では耐えられる筈もなく、砕かれたというわけだ








俺はキューポラから身を乗り出しながら声でも牽制した




「オラオラァ!コイツを止めるられる奴は誰もいねェ!轢かれたくなければさっさと退けェ!!」






《永一さん!そろそろ敵弓兵の射程圏内ですから中に入っていてください!!》


「いやいや、こっちは40km/hで走ってんだぜ?そんな当たるわ「ヒュンッ!」……………」




俺は恐る恐る後ろを見た


そこにはIS-2のダクトに引っかかってる矢が




怖ぇ!怖すぎる!


今下手したら俺死んでたってことかよ!




《………大人しくしていてください?》


「ハイ……調子乗ってました……」




俺は大人しく車内に入ることにした






〜〜〜〜〜




DT28軽機関銃の7.62×52mmR弾で周囲を牽制しつつ暫く走っていたら、追走してきていた二号車(ISU-152-2)の美崎から無線が飛んできた




《永一くん、2km先に戦車……と思われる物体を発見したよ……でもなんかアンバランスなかんじ?》




この先はちょっとした丘になっていて先が見えていない


流石(本人は嫌がっているけど)人間レーダーだ




《アンバランス…?了解した。リン、その丘から砲塔だけ出すように停車してくれ》


《わかりました》




リンが言われた通りに車体を停車させた




この砲塔だけ出す戦術は『ハルダウン』といい、相手に車体を撃たせず、尚かつ被弾面積を減らせるという現代戦車でも使われている有効な戦術だ




俺はその状態でキューポラから顔を出し、備え付けられていた双眼鏡で美崎から報告のあった場所を確認した




そこにいたのは……




「ハハハ……確かにIS-2よりかはデカイが、まさか『アイツ』とはな……てっきり王虎(TigerⅡ)でも出てくるかと思ったんだが……もっとヤバいのだとはな…」




俺が見たのは──




転輪部分を装甲で覆った車体に不釣り合いな程巨大な砲塔を載せ、105mm砲で武装する重戦車───






M6重戦車の発展試作型、M6A2E1がそこにいた






〜〜〜〜〜




《永一さん、撃てますけどどうします?》


《いや、距離2000では当たらないし、アイツの正面はこっちのAP弾じゃあ貫通しない……》


《え、そうなんですか》


《アイツの正面は薄くても190mm、こっちの1.9倍だ》


《そんな…どうしたら》




自走榴弾砲が居ないこっちは曲射で天板ブチ抜く事もできないからな……




しかも向こうの主砲、105mmT5E1Eで使うAP弾(AP-T T32)はこっちの装甲を貫通できる




決して正面からやり合いたくはない




1つ、賭けるか




《危険だが撃破する方法はある》


《危険……ですか》


《ああ、これは相手の練度を考えての作戦だ……》


《練度……》


《ああ、相手は恐らく『扱い方を教えられただけ』で訓練はしていないんじゃないかと思っている》




あのサイズの代物を情報を外部に漏らさずに動かそうとすると確実に制限がかかる




更に向こうには燃料弾薬を補充する術も持っていないと判断する




燃料はどうにかなったとしても弾薬はどうしようもないからな




《更に向こうはIS-2を持ち出されたとしてもそれを動かせられるとは思っていないし、追加でISU-152-2までいるとは思ってもいない》


《確かに》


《そして極めつけは…》


《?》


《俺があの車輌の弱点を知っている……という事だ》




そう、あのM6A2E1は試作ながら俺が向こうの世界でやっていた戦車ゲームに登場していた




その正面装甲で防衛してくるとこちらはたちまち膠着状態に陥ったものだ




しかしそんなアイツにも弱点は存在する




それは──




《アイツは正面が分厚い代わりに側面と背面は極端に薄い》




T1、M6の派生型であるM6A2E1は実は側面と背面に至っては当初から何も手を加えられていない


てかぶっちゃけちゃうと正面が分厚く、更に砲塔も巨大化した為に当初よりも重量が増し、側面背面の装甲は薄くなっている




それでも増えた重量は軽減できず、エンジン出力も上げたが、ジーゼルエンジンよりもトルクの細いガソリンエンジンではどうしようもできず、機動力が落ちた




言うなれば『正面特化型』になった訳だ




《つまり、機動力を活かして側面に回り込めってことですか?》


《ああ、そして注意してほしいのはアイツの主砲だ》


《主砲ですか?》


《あの主砲はコイツの正面装甲を問答無用で貫通してくる。貫通したらそこで終わりだ》


《ッ!?》




この対策も思いついてはいる


うまく行くかどうかはわからんがな




《今回の作戦は『如何に攻撃を受けずに背面をISU-152向けさせる』かが鍵になる。今回俺達一号車(IS-2)は囮だ》


《相手の主砲に関しては……》


《それは考えてある。……それにはミランの能力頼りだ》


《私の?って事は…》




ミランは何かわかったみたいだ




《二号車(ISU-152-2)は距離1000まで近づいて射撃準備。無防備になるからウォーターゴーレムは装填作業後、外に出て護衛だ》


《了解しました》




《さて、ミュータント狩りだ》




俺達は行動に出た






〜〜〜〜〜




俺達は二手に別れた




二号車(ISU-152-2)は丘を迂回しつつ回り込んでいる


そして俺達は……




《正面から行くぞ》


《了解》




正面から突撃だ




──ビュンッ




向こうも流石に気が付いたみたいだ


いきなり撃ってきた




しかし狙いが甘い




砲弾は明後日の方向に飛んでいっていた




そしてM6A2E1の周りにいた護衛と思われる騎馬10騎が槍を構えて突っ込んできた




《サラ!機銃掃射だ!》


《了解!》




サラがDT28軽機関銃を騎馬隊に向けて放つ


バラ撒かれた7.62×52mmR弾は騎馬隊に吸い込まれていき、全員動かなくなった




7.62×52mmR弾はSVD狙撃銃にも使われる弾薬だ


そんなの数発食らったら例え馬だろうと耐えられる訳がない




距離が500まで近づいてきた






ガアァァァン!!!




《ッ!?砲塔側面!!》




この距離で当ててきたか……!


しかし幸いな事に砲塔側面に当たって跳弾したようだ




《ッ!そうだミラン!アイツの履帯を狙え!》


《履帯ですか!?》


《ああ!動けなくしてやれ!!》




俺はここで思い出した


砲塔を持つ戦車は砲塔を旋回させるのと同時に車体も旋回させると、素早く主砲を旋回させられるのだ


しかし、ここで履帯を破壊してしまえば、車体を旋回させることができずに砲塔旋回だけで相手を追わなければならなくなってしまう




徹底的にやろうじゃないか




《装填完了です!》


《よし!ブチかましてやれ!》


《了解!発射!!》




ズガァン!!




射撃の衝撃が車内を襲った




相変わらずとんでもない衝撃だな……!!




《どうなった……?》




俺はキューポラの窓からM6A2E1を見た




ミランの撃った砲弾は見事に正面から見て右側の履帯を破壊していた




《よし、そのまま時計回りに回り込め!》


《了解!》


《次弾装填!弾種はAPCR(BR-471D)!》


《わかりました!》




しかしここで俺の予想外の事が起きた




M6A2E1が残りの履帯を後退させるように動かし、信地旋回を始めたのだ




主砲は未だにこちらに追いついている




ここまでか……!








そう思ったその時


《こちら二号車!配置に付きました!》


《ナイスタイミング!そこからは何処が狙える?》


《バッチリ背面よ!》


《よし来たァ!ブチかましてやれェ!》


《わかったわ!発射ァ!》




アメリアが射撃したタイミングと同じタイミングでM6A2E1もこちらに向けて射撃してきた




これは……避けられないッ!?




バギャァァン!!!




金属が砕ける音がした


恐らくエンジンルームをやられたのだろうか




それにしては衝撃がすくないような……?




《ふぅ……なんとか間に合ったわ》


《おぉ?か、壁?》




なんと俺達とM6A2E1の間にはヒビが入った金属の壁があった




《何情けない声出してるんですか、永一さんが私の能力が対抗策って言ったんじゃないですか》


《あ、あぁそうだったな》




そう、俺が立てていた対抗策はこの『金属の壁』だ




ミランも照準器から相手を見ていたからとっさに作ることができたわけだ




マジで助かったわ……




ってか肝心なことを忘れてた


《っとそうだ、敵戦車(M6A2E1)は!?》




俺がそんな事を言った瞬間




ゴオォォォォォ!!!


と敵戦車(M6A2E1)がいたであろう場所から火柱が上がった




壁から出てみるとそこには車体の隙間という隙間から黒煙を上げているM6A2E1がいた




《エンジンルームを破壊して炎上、更に弾薬庫にまで引火したか》


《………撃破したんですか?》


《ああ、完全撃破だ……!》




かなりの強敵だったが、何とか勝てた


ミランの判断がなければこちらは確実にやられてたからな……




『鉄巨獣がやられた……!?』


『おい、ボロス様にどう報告するんだ!?』


『に、逃げるぞ!!』




M6A2E1が撃破された事で周囲にいた敵兵士も逃げ始めた






《俺達の第一目標はクリアだ、これから味方の支援に向かうぞ》


《了解しました………はぁ〜、生きた心地がしなかったです》


《ああ、俺もだ……だがまだ戦いは終わってないぞ》


《そうですね……おや?》


《どうした?》


《ベルドさんからです『敵船舶3隻と竜騎兵5騎確認、これより交戦に入る』……だそうです》


《なかなかの戦力だな………大丈夫か?》


《『まかせろ』だそうです》


《不安だ……》




俺は遠くで拠点を護る1人と1隻の無事を案じた




頼んだぞ、ベルド

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