32.開戦

─32.開戦─




「───着いたぞ、ザギだ」


「………流石に空気がピリピリしているね」


「仕方ないでしょ」




俺達はIS系統の全速力(40km/h)でザギに到着した


既に情報が出回っているからか、市民は避難したらしく、騎士しか見当たらない




こんな状態で西部隊隊長(エルマス)が不在になっていて良かったんだろうか……




ちなみにエルマスさんは『影飛び』を使って先に到着して事情説明をしている




おかげで西門で止められることはなく、車輛ごと街に入ることができた


一応門の横に停めておいた




俺達はバーチス隊長に詳細を聞くためにルーバス軍ザギ防衛支部の庁舎に向かっている




「すみません、バーチス指揮官は今何処におられるかわかりますか?」




俺は警備をしている騎士に総指揮官であるバーチス隊長がどこにいるか聞いてみた




「ん?お前達は確かエルマス隊長が言っていた強力な助っ人のギルドパーティーだな?指揮官なら今は他の隊長達と一緒に大会議室で作戦会議をしているよ」


「大会議室ですね、わかりました。ありがとうございます」


「いいって事よ。こっちこそ来てくれてありがとな。……それとちょっとした噂なんだが、相手は未知の兵器を投入してくる可能性があると諜報部隊が言っていた、戦場に出るときは気をつけてくれ」




恐らく敵が使うであろう戦車の事だな


『未知の兵器』と濁しつつそれでいて注意するように騎士達に呼びかけているのか




「ええ、存じております。その時は我々が対処致します」


「若いのに頼もしいな。エルマス隊長が直に呼びに行くだけはあるな。その時は頼んだぜ」




そう言うと騎士は持ち場に戻っていった




「確かにエルマスさん、気分屋でずぼらそうだもんな……」




腕は確かなんだろうけどね………




俺達は庁舎の大会議室に到着した


中にはバーチス隊長と部隊長であるエルマスさん、キースさん、マルスさん、ジギルさんの他に各部隊の副隊長であろう人達が8人いた


恐らく各部隊1隊長2副隊長で構成しているのだろう




「やあ、永一くん、久しぶりだね。今回の依頼を受けてくれてありがとう」


「お久しぶりですバーチス隊長。依頼の件はお気になさらないでください、我々にも関係ありますし、場合によっては我々しか対処できませんから」


「すまないね。その時は頼むよ」


「了解しました」




そこでバーチス隊長が皆に向き直り




「これで全員揃った。これより帝都軍迎撃の緊急作戦会議を始める」




と言った




〜〜〜〜〜




「───以上が今回の相手の戦力だ」




相手の戦力が大まかに判明したが、その戦力差に会議室が重い空気に包まれた




「………歩兵約6千、弓兵約2千、騎馬約2千……か」


「相当厳しいな」


「ああ、苦戦は必至だ、上手く立ち回るしかない……それに」


「未知の兵器……か」




未知の兵器


隊長達の士気の低下はこれだった


ただでさえ倍近い戦力差、更にそこに対処方法不明な兵器まで投入されている




未知の兵器は何人で対処できる?10人か?それともそれ以上か?そもそも止められるのか?等々……




士気が下がらないほうがおかしい




そこでエルマスさんが手を叩いて周りを見た




「ほらほら、何のために無理を通して彼らを呼んだのよ、その兵器に対抗するためでしょう?」


「あ、ああそうだったな。その兵器は永一くん達が頼りだな」




そこで副隊長であろう一人が手を挙げた




「しかし、彼等は最低ランクのギルドパーティーなのでしょう?対処も何も出来ないと思いますが」




この発言に他の副隊長達も同調した




「確かにな」


「ギルド登録したのも最近と聞くぞ」


「そもそもここに居るのがおかしいのではないのか?」


「我々は彼等を知りませんし、戦い方も知りません。もしただのギルド登録したばかりの新人冒険者なら、それこそ戦場のお荷物です」




この発言にはリンの元上司のキースさんも眉を釣り上げた


彼等の言いたい事は大体わかった


だが、そこで『実力を示せ』と言われても、そんな時間も弾薬も惜しい


副隊長達の意見にはバーチス隊長も同意見らしく




「君達の言いたい事もわかるが、永一くん達……いや、永一くんは特別だ。」


「バーチス指揮官、何か知っているんですね?」


「ああ、今回の戦闘の要は恐らく彼だ。だが詳細はおいそれと言えないし今は時間が惜しい。まずは彼等の意見も聞いてくれ」


「……わかりました」


「それで永一くん、相手の未知の兵器……いや『鉄巨獣』と言われている兵器について何かわかるかい?」


「ええ、あくまで推測ですが把握しています」




「「「!?」」」




「……そうか、それについて説明はできるかな?」


「わかりました……しかしこれか話すことは貴方達には突拍子もない事です、信じるか信じないかの判断は任せます」


「………わかった。話してくれ」




俺は『鉄巨獣』についての推測を話し始めた




「相手が投入するであろう兵器は『戦車』である可能性が非常に高いです」


「……永一くん、その戦車というのは?」


「鉄で覆われた兵器です、種類により差はありますが、厚さ40〜200mmの鉄の鎧で覆われていて強力な大砲を装備しています」




会議室がざわめいた




「最低でも40mmの鎧だと……」


「それだけの重装備だ、かなり移動速度は遅いんじゃないか」


「馬で運ぶのか?戦場につく前に馬がバテてしまうぞ」




「この兵器は自走できるので馬は必要ありません、最高時速は平均35~40km/hになります」


「そんなモノどうやって戦えというんだ!!」




ここで副隊長の一人が爆発した


まあ、仕方ないわな




「現在のこの世界の兵器では太刀打ちはできません、中に乗り込んで乗員を無力化できれば話は別ですが」


「………我々にはどうしようもできないということか」




ここで再び場を重い空気が支配した


やれやれ……




「何のために俺達が呼ばれたと思っているんですか、この話をする為だけじゃないでしょう?」


「……だが、太刀打ち出来ないと言ったじゃないか」


「『この世界の兵器では』、と言いましたよね?」


「……どういうことだ?」




「戦車はこの世界の兵器ではありません、先の対魔王戦の時に召喚された異世界の兵器です」


「異世界の兵器だと?」


「ええ、そして対処方法は簡単です。『こちらも戦車を使えばいい』んですよ」


「……まさか」




「ええ、我々『スクラップアーミー』は戦車を2輛所有し、尚かつ今回運用可能な状態で持ってきています」


「「「ッ!?」」」


「なんだと!?」




ここで副隊長が立ち上がった




「我々が呼ばれたのはこの為です。目には目を、戦車には戦車を、です。今回我々は敵戦車撃破を主目標に行動します。撃破次第貴方方の援護に回ります」


「あ、ああ…わかった」


「……話はまとまったかな?」




バーチス隊長が周りを見回した




「これが私やエルマスが彼等を呼んだ理由だ。敵兵器…『戦車』については彼等に任せて我々は敵兵士のみを対処すればいい。右翼をジギル率いる北部隊、左翼はキース率いる南部隊、中心はマルス率いる東部隊、エルマス率いる西部隊は一部分隊を西側からの挟撃に備えて残しつつ遊撃だ。各自臨機応変に対応してくれ」


「「「「「了解!」」」」」




「永一くん達も遊撃だ、判断は任せる」


「了解しました」




「しかし、相手の目的がわからないのも事実だ。これまでは憶測で現状を判断していたが……もし、相手から使者が来るようであれば話を聞こう。それで決裂した場合は先程の通り各自動いてくれ。……それでは各自来たるべき時に備えよ」




「「「「「「ハッ!!!」」」」」」




各部隊への指示は隊長達に一任しているらしく、作戦会議はこれで解散となった






〜〜〜〜〜




「燃料の方は大丈夫そうか?」


「ええ、一応は……にしても面白い水ですね、コレ」


「ああ、総称は『炭化水素』って言うんだ。炭化水素といてってもメチャクチャ種類がある……それは『軽油』な」


「タンカスイソ?ケイユ?」


「……まあ、今度じっくり教えるわ。液体にもメチャクチャ種類があるからな」


「???了解しました」




俺達は会議が終わった後、西門から戦車を東門まで持ってきてそこで最終メンテナンスをしていた




「永一さん、弾薬の積み込みも終わったよ」


「ああ、了解」


「……にしてもあの砲弾はなんですか?他のとは違いましたが…」


「ん?ああ、APCR弾(硬芯徹甲弾)ね、簡単にいうと『貫通力の高い砲弾』だよ」




俺は今回、敵戦車がコイツ(IS-2)のAP弾(UBR-471)じゃあ貫通しない可能性も考慮して、5発のAPCR弾(BR-471D)を創った




戦車砲弾関係は未だに一発一発創らなければいけないから、残り5回はISU-152-2のAPCR弾(UBR-551P)に割り当てた




これでどうにかなればいいが……




そもそもIS-2もISU-152も使用砲弾サイズが大きくて装弾数が少ないのがネックだ




IS-2は28発、ISU-152に至っては20発が限界だ




それだけの弾薬で俺達はこの戦いを生き残らなければならない……




「……んぇ?え、ベルドさん?」




ここでサラが何かに反応した




「サラ?どうした?」


「いや、ベルドさんから通信魔術なんですけど……」


「……いや、おかしくね?……それともアイツの魔力量なら可能なのか?」




ホント、規格外な……


いや、それよりも




「ベルドがなんだって?」


「……何だか『ムセンキ』を創れって……」


「無線機?」




無線機だと?いや、そもそも創れるのか……?




「『私の手元にもあるから創れるだろ、無理ならミカサに積んでたサンロクシキでもいい』って言ってますけど……」


「………なるほど」




恐らく戦艦長門に搭載されていた無線機の事かな?


俺も無線機には疎いからわからないんだが……


三六式ってアレか、記念艦三笠に展示されてた奴か




いや、てか…




「俺さっき砲弾創造で今創造回数フルで使っちまったからもう少し待てって言っといて……」


「あ、そうでしたね」


「あと俺はモールス信号なんて出来んから無線機創っても使えんとも言っといて」


「???」




〜〜〜〜〜




俺はその後ベルドから


『お前、創ったはいいが中を何も確認してなかっただろ、燃料もちゃんとあったから今暖機して発電してる所だ。発電できてなかったらどうするつもりだったんだ?主砲は動かないし、艦内は真っ暗だったんだぞ?』


と文句を言われ、ベルドからの報告にはサラが担当することになった


ちなみにこちらから話すとサラの魔力が1分と保たずに尽きるので、ほぼこちらは聞いているのみだ


一応向こうも問題無いとの旨の連絡を貰った






ここでエルマスさんが現れた




「どうしたんですか?」


「遊撃隊として細かいところを打ち合わせようかなってのと……」




そこでひと呼吸おいて




「………ありがとね、流石に今回ばかりはどうにもならなかったから」


「気にしないでください、俺らも拠点が襲われそうになったんです。参加するのは当たり前です。それに……」


「それに?」


「………なんだかんだこの街にはお世話になってますからね」




それを聞いたエルマスさんは




「……そう」




1言、そう言った




「さあ、辛気臭いのはここまでにして、細かいところの調整と行こうか」


「そうですね」




〜〜〜〜〜




「うわぁ……いるいる、流石の数だな…」




決戦当日、俺達は東門の壁の上にいた


未だに戦車は門の内側だ




エルマスさんとの話し合いで、俺達は『敵戦車が動き出したら出撃する』事になった




そのエルマスさんは『影飛び』と『潜影』を使い、敵の動きを偵察している


敵兵士には触れたことがないから、敵兵士の影に潜む事はできないそうだが、この平原にある木や石等は片っ端から触れていて、そこに潜む事ができるそうだ




つまりこの平原は完全にエルマスさんのフィールド、敵からしたらこの平原の影は全て敵ということになる


ホント、とんでもない人だよ






そうこうしているうちに相手側の使者が来たみたいだ




使者は門の前で止まり、大声で告げた




『我々はボロス将軍率いる粛清隊である!お前達は旧国家の機密文書提出の呼びかけを再三に渡り無視してきた!これは国家反逆罪である!投降するなら今すぐ門を開けよ!開けぬのならば抵抗する者を全て処罰する!』




そう言ってきた




「………なるほど、理にはかなってるな、だが、それでも1万は多いな」


「そうですね、そもそも投降しても全員捕える気満々な気がします」




そんな事を話していたら




「……愚かな、そもそもこの国の秘密は文書ではないのですがね……」


「……イオ?」




イオがそんな事を呟いていた




「どうした?」


「い、いえ、何でもありません。何でもありませんが……」




「──この国の秘密は2つあります、1つは貴方も知っていますし、………いずれ、もう1つの秘密もわかるはずですよ」




イオはそう言った




「それはどういう──」


『我々に投降の意思はない!そもそも以前の述べたように旧国家の機密文書など存在しない!これは国王も確認済みの筈だ!』




バーチス指揮官が使者に対してそう言った


徹底抗戦の構えだ




そして俺は考えていた




旧国家の機密文書は存在しない──




この国の秘密は文書などではない──




秘密は2つあり、1つは知っている──




まさか……ベルドか?


だがベルドを最初に皆に紹介した時はそんな事一言も……




──まさか魔王の封印が『こんな所に』あるとは思ってもいなかった






フェニー村ら旧ザギネルラの領土だった


そこに魔王が封印されていて、それが国家機密になっていてもおかしくはない




ミランも封印されていたのは知っていたが、一応言い伝えとしてあるそうだしな




だがイオは魔王についてもさして驚いてはいなかった


つまりイオは魔王の封印が旧ザギネルラにある事を知っていた……?




更に秘密はもう1つあるという




お前は、一体─────




「イオ、なぜベルドの封印がこの国にあるのをしっていたのか……これが終わったら話してもらうからな」


「今の会話でそこまで気付いてしまいましたか……わかりました、全てが終わったら話しましょう」


「ああ、忘れんなよ」




こちらがそんな会話をしていたら、使者との会話も終わりに近づいていたみたいだ




『今の言葉はこちらの要求を拒否したと捉えて宜しいか?』


『ああ、そう言っている』


『……貴様ら、後悔するなよ』




そう言うと使者は踵を返して戻っていった




「………どうやら決裂したみたいだな」


「ですね……」




そこでバーチス指揮官がこちらに振り返り




『交渉は決裂した、そもそも向こうの要求は我々には心当たりも無い理不尽なモノだった……いいか、我々はこの事を国王に直訴する必要がある!その為にはこれから起こる理不尽な戦いに勝たなければならない!………敵は強大だ、皆のもの、手を貸してくれるか?』


『『『『ハッ!!!!』』』』


『……ありがとう。………………総員、武器を取れ!徹底抗戦だ!』


『『『オオオオォォォォォォ!!!!!』』』




「………始まったな」


「はい」


「さて、と」




俺は振り返り




「さて、予想通り戦闘が始まってしまった。どうやらバーチス指揮官はこの理不尽な状況を国王に直訴するみたいだな……さて……」




「俺達の仕事はザギ防衛軍の支援及び敵戦車の撃破だ。そして作戦に変更はない」




「──これは俺達『スクラップアーミー』の初の仕事だ、心して掛かれよ」




全員が頷いた




「よし、総員出撃準備!敵巨獣(戦車)を狩りに行く!コイツらが何故『Зверобой(猛獣殺し)』という異名を付けられたのか、それを見せつけてやるぞ!!」




こうして俺達の『スクラップアーミー』としての初仕事が始まった




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