31.緊急事態

─31.緊急事態─




帝都からの敵襲


前々からリンたちザギの人々が危惧していた事が現実になってしまった




やはり最初に反応したのはリンだった




「敵襲!?ザ、ザギはどうなっているんですか!?」




リンの反応もわかる


ザギからここまでの距離は約85km、馬車でも8時間以上は掛かる距離だ




更に帝都からザギまでは約180km、先行して帝都から戻り、ここに来たとしてもそれなりに時間が掛かっている




しかし、エルマスさんが言ったのは予想外の事だった




「いや、大丈夫だよ。向こうの部隊が集結し始めたのがついさっきだから」


「……どういうことだ?」




この世界では念話魔術や通話魔術等があるのは知っているが、距離によって消費魔力が変化する仕様の筈だ




通常一般人が通話魔術を使う場合、半径10km圏内での通話で5分が限界というかなり燃費の悪い魔術だ




もし帝都に潜伏している人からザギに向けて通話魔術を使おうものなら、一瞬で魔力が枯渇する




それに流していたが、一瞬でこの場にエルマスさんが現れたのも不思議だ




ここで口を開いたのはロトさんだった




「まさか貴女は……『潜影』のエルマス……ですか?」




………なんか厨二みたいな言葉が出てきたぞ?




「おや?そういう君はイルグランテの騎士だね……なるほど、はじめまして『水神』のロトくん?」


「やはり知っていましたか……流石はルーバス1の諜報隊隊長ですかね」


「元、だけどね。」




……2人の会話を聞く限り、この2人は知る人ぞ知る『やべぇ奴』って認識でいいのかな?


『潜影』や『水神』は二つ名っぽいな




「初対面の人もいるから改めて自己紹介をするよ、私はザギ西部隊隊長のエルマス、希少魔術『影』の使い手だよ」






「その影魔術ってなんなんだ?」


「影魔術っていうのは『影』に関する魔術の総称だよ。『影縫い』、『影飛び』、それに私の二つ名にもなった『潜影』とかね。今回使ったのは『影飛び』と『潜影』だね」




そんなのもあるのか、ホント何でもアリだな魔術




「『影縫い』はなんとなくわかるが、その『影飛び』と『潜影』ってのはどういうのなんだ?」


「『影飛び』は簡単にいうと影から影への移動だね、いろいろ制約はあるけど。『潜影』は他人の影の中に潜る魔術だね、情報収集に最適な魔術なの」


「忍者かアンタは」


「ニンジャ?何それ」




チートがここにもいたぞ


影に関する魔術とか対策ほぼ不可能じゃないか




でもこれで疑問が解けたぞ




しかしだ




「なぜ俺達の所に?もしかしてリンか?」




俺達の中でザギに関係しているのはリンくらいだ


一応ザギの騎士(見習い)だしな




しかしエルマスさんは首を横に振り




「今回は君達のギルドパーティーに依頼という形で救援を求めたいんだ」




そう言った




〜〜〜〜〜




「依頼内容はざっくり言うと『ザギ防衛軍の支援』、ギルドには話は通している、……ただ今回の相手はルーバス軍1万との戦闘だ、断ってもいい」


「なるほどな………」




リンから聞いた話ではザギ防衛軍の総戦力は約4500、戦力差は歴然だ




だが……




「もう少し詳細な敵戦力を知りたい、………まだ何かあるんじゃないか?それこそ俺達パーティーじゃなくあくまで『俺』関係で」




これくらいなら正直俺達じゃなくても腕の立つ冒険者なら山程いる


俺達の所に来たのは、恐らく「俺」が関係しているのだろう


教団か、はたまた兵器関係か……




「………流石にバレちゃうかぁ……」




エルマスさんは諦めたように頭をかきながら




「………今回の軍を指揮しているのはボロス、更には『鉄巨獣』なる兵器まで持ってきているみたいなんだ」




そう言ってきた




「……なるほど、ボロスが出てきたか」




それに『鉄巨獣』…戦車も出してきている




サラ曰くIS-2より大きいらしいからかなり絞られるが、一体どいつが出てくるのやら






「それと不確定な情報なんだけど、イルグランテの戦闘船団数隻も出てきているみたいなんだ。この付近で上陸できるのはここしかない、この情報が本当なら私達防衛軍は挟撃される形になるんだ」




………ん?イルグランテの船団?


それって……アレだよな?




「戦闘船団とか言ったか?」


「うん、イルグランテの誇る船団だよ。正直海上じゃあ勝ち目がないから上陸されるまで手は出せないし、かなりの数だよ」


「うーん、そいつ等かどうかはわかんないけど、イルグランテの船団ならつい先日、全て海に還っていったぞ」


「………え?」




アレがもしエルマスさんの言っているイルグランテの部隊の事なら、ザギ防衛軍は挟撃に恐れる事が無くなる事になる




「え、え?ど、どの辺りで?」


「ここから約500km地点、空対地ロケット弾でものの数分で海の藻屑にしてやったよ」


「500kmじゃあわからない訳だ………私の『影飛び』の範囲は半径20kmの『触れた事のある物(者)』の影だけなんだ」




いや半径20kmでも充分チートだぞ


………決めた




「でもそれがわかって安心したよ、これで私達は挟撃に恐れず戦える」


「それはよかった……それと今回の依頼だが、受けさせてもらうぜ」


「それはありがたいけど………いいの?イルグランテの驚異は無くなったといってもまだ1万もの軍と戦う事になるんだよ?」


「それは構わん、更に言うと『鉄巨獣』は恐らく俺達じゃなきゃ対処できないだろうからな」




対戦車、対人戦となると俺達のIS-2がどうしても必要になってくる




航空機じゃあ対人は恐らく厳しいからな




「………ありがとう、助かるよ」


「礼は全て終わってから言ってくれ、……リン、サラ、ミラン、イオ準備してくれ」




4人は頷いて部屋を出ていった




「………私は?戦わなくていいの?」




アメリアが不安そうに聞いてきた




「………君は一応捕虜扱いだから戦う義務はないぞ」


「いや、行くわ。ここにいてアンタが悪いやつじゃないのはわかったし、それに……」


「ん?」


「私の友達の奇天烈な意見や私達亜人を肯定してくれた人間はアンタが初めてだったわ……そんな人間を同志達に会わせる前に死なせられないわ。だから行く」




俺としてはそんな『亜人だから』とか捕虜とかそういうしがらみとは無縁だっただけなんだがな




「……そうか、ありがとな」


「い、いきなりお礼とかヤメてよね!?ビックリするから!?……それに」




そこでアメリアは笑って




「お礼は全て終わってから……なんでしょ?」




そう言った




〜〜〜〜〜




「ベルドはすまないが俺達が居ない間ここの防衛を頼む。もしかしたらイルグランテの残当が来るかもしれないからな」




ベルドには拠点防衛をお願いした


流石にもぬけの殻にするわけにはいかないしな




「了解した。彗星は使って構わないか?」


「構わん、離陸直後を狙われるなよ?」


「そんなヘマはしないわ、ただ彗星と小銃だけじゃ不安だな、特に増援の船が来ていた場合は」




確かに、可能性はなくはないな




「わかった、後で入り江の入口に『あるモノ』を創っといてやる、いざとなればそこを拠点にしてもらって構わん」




そう、俺が創造可能な物で今現在使い道が無かった代物だ


こんな堤防みたいな扱いしてたら先人達に怒られそうだな……




「???どういうことかわからんが承知した」


「期待してろ」






「………えっと、私達はどうしたらいいかな?」


今度は美崎達が聞いてきた




「本当ならここに待機していて欲しいんだが……そうはいかないか?」


「うん、私達にも何かできるならそれをしたい。私もISU-152は動かせるし」


「力仕事ならお任せを、僕も一応騎士です」




この2人も参戦するようだ




「美崎さん、一応聞きます、あのISU-152に砲弾はありましたか?」


「さん付けはやめてよ、……確か20発あったよ」




20か……152mm砲弾だから妥当か




「わかった、ISU-152の操縦は任せていいか?」


「任された」


「ロトさんはISU-152で装填手をお願いします」


「僕もロトで構いません、……装填手ですね、承りました」


「詳しくは美崎から聞いてくれ、恐らくISU-152に関する情報なら全て網羅している筈だ」




所有権が美崎になっているならその時に全て情報を叩き込まれている筈だからな


俺よりも詳しい筈だ




しかしこのISU-152-2が搭載している152mm BL-10には懸念事項がある




この長砲身砲は初期に搭載されていた短砲身のML-20より重い上に砲自体の信頼性が低い


そのせいで機動力が落ち不採用された試作戦車がISU-152-2だ




だが無い物ねだりはできない、例え不採用兵器だろうと当たればそれこそかのティーガーだろうと正面から叩き潰せる




それに掛けよう




「アメリアはISU-152の砲手を頼む」


「頼まれたわ」




ISU-152の車長はイオに任せるか




「本当はあと1人装填手に欲しかったんだが……」


「なら僕に任せて下さい、『クリエイトウォーターゴーレム』」




そう言うとロトの隣に人形の液体が現れた




「なんだそれ」


「液体のゴーレムです。私の意思で動くのでご安心を」


「なるほど、それならそのゴーレムにも装填手を頼む」


「はい」




皆への指示は終わったな




「それぞれ準備していてくれ、俺はやることがあるから」


「何処に行くの?」


「ちょいと入り江に『あるモノ』を創りに」




創造可能にはなったが、圧倒的人数不足で持て余していた代物




そう、敵船舶を入り江に入れない為に『戦艦長門』を堤防代わりに創造するんだ




帝国海軍の皆さん申し訳ない


海軍の象徴を使わせてもらうぜ








〜〜〜〜〜




IS-2、ISU-152の周りに集まった




人員配置は




IS-2


俺(車長 権 無線手)


リン(操縦手)


サラ(装填手)


ミラン(砲手)




ISU-152-2


イオ(車長 権 無線手)


美崎(操縦手)


ロト(装填手)


ウォーターゴーレム(装填手)


アメリア(砲手)




拠点防衛


ベルド




となっている


ミランはエルフの血が入っているからなのか、砲の命中率が高かった


サラは収納魔術の他に身体強化魔術も扱えるらしく、装填手を買って出てくれた




「……それじゃあ皆、これから向かう戦場は今まで以上の激戦になる、覚悟を決めろよ」




ここからだと木が邪魔で長門は見えない


むしろ混乱を招かなくて良かったわ


一応ベルドには長門を創った事を伝えてある


メチャクチャテンション上がってたが、大半の物は動かせないと思うんだが……






「あ、ちょっといいかな?」




ここでエルマスさんが手を挙げた


なんだ?長門がバレたか?




「一応依頼出す時に依頼を受けた『ギルドパーティーの名前』を書かなきゃいけないんだけど……君達のパーティーは何ていうの?」




……そういえば決めてなかったな


そうだ




「廃品部隊……俺達はスクラップアーミー(廃品部隊)だ」




「スクラップアーミー………わかった、では今回の依頼は『スクラップアーミー』にお願いするよ」


「ああ……承った」




「それじゃあ向かうぞ、戦場へ」

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