30.敵襲?
─30.敵襲?─
「え、電気を魔力に……ですか?」
俺はあの後リンたちに『電気エネルギーを魔力に変換すれば魔力を無尽蔵に作り出せるのでは?』と聞いてみた
この質問でわかることがいくつかあるが、この世界での『電気』に関する認識ともし既に何処かの国がそういう変換機みたいな物の開発に成功していないか、というのが今俺が知りたい事柄だ
だがやはり
「電気ってあの雷魔法ですよね?…危なすぎませんか?」
「雷は強すぎて死んじゃいますよ?…それもあって雷魔術師はそんなに扱える人がいないんですよ」
そこそこ現代魔術に詳しいリンとサラがこう言っているから恐らく電気に関してはほぼ未発達なのだろう
そもそも電気の研究に進歩が出始めたのが17〜18世紀、実用化され始めたのが19世紀後半、かの有名なニコラ・テスラ、トーマス・エジソン達の時代だ
銃や大砲の研究開発がされ始めたこの世界ではまだこのくらいの認識かな……
「けど、魔力から雷(電気)に変換できてるんだろ?電気から魔力に変換できてもおかしくなくね?」
「アンタ、まるでエクレールみたいな事を言うわね……」
「エクレール?」
誰だ?
「私の友人。ハイエルフでも変わったな発想ばかりかまして周りを白けさせてるの」
「……よく友人やってられるな」
「うるさい。……悪いやつじゃないないのよ、ちょっと変わってるだけで」
「なるほど……ちなみにどんな事を言っていたんだ?」
「学生時代は『雷は使える!人類の発展には必要不可欠なんだ!』とか『雷には圧力がある事がわかったが、いかんせん高すぎる、どうにかならないか』とかよくわからない事を言っていたわね。…今も変わってないと思うわ」
「…………マジかよ」
ハイエルフって種族は一体どんだけの変態なんだ……?
銃の開発と同時進行で電圧の発見だと……?
科学者集団なのか?
「アメリア、そのエクレールが言っていることは真実だ、絶対に見捨てたりするなよ」
「え、どういう事?」
「『電気は人類の発展には必要不可欠』……これは真実だ、エクレールって奴が求めている結果が、ここにある」
俺はIS-2を示した
「俺達の世界では電気で急速発展したと言っても過言ではないんだ」
「あんなに強すぎる雷を操ったとでも言うの?」
「いんや、俺達世界でも雷は扱えていない。あいつは電圧が高すぎるし、発生時間が短すぎる」
落雷の電圧は200万〜10億V、電流は1千〜20万Aクラスだ、某黄色いネズミが束になっても勝てっこない
ちなみに電気関係の用語でよく聞くV(ボルト)、A(アンペア)、W(ワット)だが
・V(ボルト)……電圧の意、電流を流す力の大きさ
・A(アンペア)……電流の意、電気の流れの大きさ
・W(ワット)……電気がする仕事の大きさ
となり、計算式は
W=A×V
A=W÷V
V=W÷A
となる
そしてそんな大電圧大電流を一瞬だけ流されても蓄電も何もできないんだ
長時間流されても回路が耐えきれず一瞬で焼ききれて終わりだ
一般的な家電は基本100Vまたは200Vで15Aが流れる
これだけでどれだけ雷がとんでもない存在がわかる筈だ
更に追加でいうと電圧よりも電流の方が危険だ
電圧は『電流を流す力』だから電流よりは気にしなくていい
例を上げると静電気の電圧は1千〜2万Vだ
じゃあ電流はどれほどヤバいかと言うと、20mAで最悪人が死ぬ
じゃあどのくらいの電流でどのような変化が起こるか説明しよう
・1mA、人が感知できる最小の電流
・5mA、静電気が発する電流
・10mA、可髄電流ともいう。死に至らないギリギリのライン
・20mA、不髄電流。筋肉が収縮が激しくなり、呼吸困難になる
・50mA、心室細動電流。心臓の脈動に異常をきたす。短時間でも流れると相当危険
・100mA、生存は見込めない致命的な電流
となる
電気抵抗がなければこの電流がそのまま流れる
これだけでも覚えておいて損はないから覚えておくように
しかし人体にも電気抵抗は存在する
多少変化はするが、人体は約5500Ωの抵抗が存在する
詳しい内訳は
・皮膚……約2500Ω
・内蔵等体内……約1000Ω
・足元……約2000Ω
となり、足元は靴や地面の材質で抵抗値が変わる
さあ、ここからは小学校で習った『オームの法則』だ
電流を求める計算式は
A=V÷Ωだ
今回は例えで『もし家電用コンセントの100V15Aがそのまま人体に流れた』場合の計算をしよう
先程の計算式に当てはめると
A=100(V)÷5500(Ω)
となるので
100V÷5500Ω=0.01818A
1A=1000mAなので
人体に流れる電流は
18.18mAとなる
これでもぶっちゃけ死ぬ可能性はあるので家庭内コンセントを利用する際は十分注意して頂きたい
まあ、足を含める身体の2箇所が何処かに触れてない限り人体に通電することはないけどな
ちなみに20mAの電流で感電した人間は体の筋肉が電流により硬直して一切動けなくなるので、もしスイッチや電気回路等に触れたまま動いていない人が居た場合は容赦なくドロップキックをお見舞いしてやってくれ
ネタではなくガチで
地面に片足でも着いていたら最悪自分も感電して動けなくなるから、安全に助けるためには人体が物に触れてる箇所を1箇所にして電気が流れないようにする必要があるからだ
長ったらしく説明したが、要は『この位の電力で家電は稼働するので、雷なんて規格外は扱えない』のだ
「俺達は制御できるレベルの電気を作るために『発電機』を作ったんだ」
「発電機?」
「ああ、電気を人口的に作り出す機械だ」
発電機は磁界の中をコイルが回転、『電磁誘導の法則』により起電力を発生させる装置だ
電磁誘導の法則は簡単に言うと、コイルに磁石を近づけたり遠ざけたりするとその瞬間だけコイル内に起電力が発生する法則の事だ
これにより発生する起電力を計算する方法もあるが、割愛する
気になった奴は『ファラデーの法則』でも調べてろ
この時の起電力の向きは『フレミングの右手の法則』でわかる
ん?『フレミングは左手だろ』って?
フレミングの法則は左右あるぞ
左手は皆小学校でモーターを使って習っただろ?
モーターと発電機は力と磁力の向きが同じで電流の向きが逆なんだ
と、そんな事はいいや
「でもさっきの説明だと電気はその発電機が動いている時しか流れていないってことになるわよ?」
「その通り、そこで登場するのが蓄電池、『バッテリー』だ」
バッテリーは極板の鉛と硫酸の化学反応によって起電力を得ている
放電、ようは電気を使う際は陽極板の過酸化鉛と陰極板の海綿状鉛が電解液である硫酸と化学反応、それぞれ硫酸鉛に変化していく。この時硫酸は水に変化する
この化学反応の際に電気が発生する仕組みだ
充電はまさにこの逆で、電気が流れてきた両極板の硫酸鉛が水と化学反応、それぞれ過酸化鉛と海綿状鉛に戻っていき、水も硫酸に戻る
化学式にすると
PbO2(過酸化鉛)+2H2SO4(硫酸)+Pb(海綿状鉛)
↑ ↓
PbSO4(硫酸鉛)+2H2O(水)+PbSO4(硫酸鉛)
の化学変化を繰り返している事になる
これより詳しく説明するととてもじゃないが時間が足りないので割愛だ
と、俺がそんな眠くなるような長ったらしい説明をしていたら
「………永一、拠点外からアンノウン接近だ」
とベルドが告げてきた
〜〜〜〜〜
「敵か?味方か?」
結界の件はベルドに頼んだばかりで完成なんてしていないぞ
「判断が厳しいな……ただ1つわかることは」
「なんだ」
「接近してきているのが『ISU-152』1輛ということだけだ」
「ッ!?」
ISU-152、IS-2重戦車を駆逐戦車に改造、超強力な『152mm ML-20』を搭載し、ドイツのティーガー重戦車やパンター中戦車を文字通り正面から叩き割り『Зверобой(猛獣殺し)』の異名を持つ事になった怪物戦車だ
俺達のIS-2さえ正面から撃ち合えば十中八九こちらがやられる
更に言うとこちらには対物ライフルなんてモノはない
「リン、サラ、ミラン、イオ、IS-2を動かせ、弾種はAP(UBR-471)を装填しておけ、但しISU-152の真正面には出るな」
「永一さんは?」
「敵意が無いように見せるために一人で行く」
「そんな、危険ですよ!?」
「なぁに、いくら強力な戦車だろうと弱点はあるさ、いいか、奴の弱点は『戦闘室後方』だ、そこに弾薬庫がある、側面装甲厚は約75mm、UBR-471で十分貫通可能だ」
俺はAR-15を持ちつつ屋敷から出た
〜〜〜〜〜
「………おいおいISU-152は合っているがアイツは試作型の『ISU-152-2』じゃねぇか?」
ISU-152-2、ISU-152に『152mm BL-10』を搭載させた試作型だ
こんなゲテモノまで召喚されていたのか……
そんな警戒をしていたら不意に操縦席側のハッチが開いた
「ふぅ〜〜〜………やっっっと着いたぁ〜〜」
中で同い年と見られる女性がとても疲れた様子で座っていた
敵意は……無いのか?
俺は一応BL-10の射線に入らないように回り込みつつ近づいた
長砲身のBL-10は貫通力が高い代わりに接近されると非常に弱い
ここに関しては運が良かったな
お、どうやらリンたちも配置に付いた様だ
ISU-152の真横、エンジン、燃料タンク、戦闘室、何処でも狙える位置だ
さて………
俺は疲れているであろう女性にAR-15を構えつつ
「誰だ、さっさと出てk」
「は、はい!すいません!だから銃を向けないで!!」
………あれ、意外と素直に従ったぞ?
どういうことだ?
〜〜〜〜〜
とりあえずこの女性ともう一人中にいた騎士みたいな男性にISU-152-2から降りてもらった
リンたちもIS-2を近くに停めて降りてきた
「すいません、戦車の運転なんてしたことなくて疲れてしまって……いえ、車も運転したことないんですけど」
「………いろいろ聞きたいことはあるが……アンタ、何者だ?」
「申し遅れました、私は谷川美崎(たにかわ みさき)と言います、日本人です」
「なん……だと……」
流石に俺はフリーズした
まさか別世界の同郷の人間に会えるとは
いや、俺が異世界転移したんだ、他にいてもおかしくはないか
「………なるほど、戦車について知っていたのもそれで理解できた。っとすまん、俺は金山永一、お前と同じだ」
「やっぱり日本人でしたか……」
「やっぱり?」
何か引っかかるな
「いえ、最初に警告してきたときにうっすら感じていたんです『もしかしたら日本人かも』って」
……ん?
「……どういうことだ?俺はお前たちがここに来たときから1度も警告なんてしてないぞ?」
「いえ、ここではないですよ、以前『名乗らなければ貴船団を撃沈する』って言っていたじゃないですか」
「………まさか」
「ええ、そのまさかです」
やっと繋がった
俺が警告したのは先のイルグランテの船団を攻撃する際だ
つまりそれを知っているっていうことは……
「……つまりあの船に乗っていたと?」
「奴隷として、ですけどね。私とこちらのロトさんはボートを奪ってギリギリ逃げてきた感じです」
「……逃げてきた…?なるほど、つまり無理やり連れてこられた感じか、…敵じゃないと捉えていいのか?」
「そう捉えて貰って大丈夫です、そもそも同い年くらいの数少ない同郷者と敵対したくないですし」
「最もだな」
俺は警戒を解いた
「事情は大体わかった、立ち話もアレだ、詳しくは中で聞こう」
「わかりました」
「サラとミランはベルドに事情を話してきてくれ」
「どういう事?………あー、了解です」
ミランは気がついたみたいだ
アイツさり気なく俺のSR-25で狙ってやがる
慌てそうだし美崎さんたちには黙っておこう
〜〜〜〜〜
「エラン(神様)からこの世界の説明を受けて来てみたら、予期せぬ賊に捕まりあっという間に人身売買(奴隷)か………なんというか、災難だったな……………」
「私もいきなりすぎて思考が追いつかなかったよ、能力も上手く扱えなかった頃だし」
「人間レーダーか」
「その言い方はヤメテ」
「安心しろ、俺なんて人間3Dプリンターだ」
「全然安心できないよ!?」
俺達は一通り自己紹介を終えた
なんというか美崎さん、運なさすぎだろ……
「ちなみにちょっと聞いていい?」
「なんだ?」
「あのISU-152?に触ったときに何か『所有権が譲渡されました』とか出たんだけど、何か知らない?」
「え、あの自称神様エランから何も聞いてないの?」
「断片的にしか覚えてないんだ……混乱してたし」
「まあ、仕方ないか」
美崎さんは交通事故に巻き込まれたらしい
トラックと乗用車が交差点で正面衝突、吹き飛ばされた乗用車が美崎さんのいた歩道に突っ込んできたらしい
俺は説明もなしにこの世界に飛ばされてちょっと落ち着くタイミングがあったからな
「んじゃ、改めて説明するぞ。俺達のこの世界での使命は『棄てられた兵器の回収とリンクの切断』だ」
「へ、兵器……?どんなの……?」
どんな兵器か……固有名詞とかを出しても女子高生がわかるとは思えないんだよなぁ……
ちょっと聞いてみるか
「ちなみに聞くが、あの外に停まっている飛行機(彗星)はわかるか?」
「えっと、赤い丸があるから日本軍機っていうのはなんとなくわかるんだけど……ぜ、ゼロ戦?」
「…………なるほど」
………これはアレだ軍事興味無い系によくある『日本軍戦闘機=全てゼロ戦』なアレだ
「軍事にあまり興味が無かったってのは大体わかった、一応訂正しておくとアレは『彗星』って爆撃機なんだ、製造してたのは今の日産な」
「え、日産ってあの『やっ○ゃえ、日産』の?日産が昔はあんなの作ってたの…?初めて知ったんだけど」
「日産というより日産系自動車部品メーカーの愛知機械工業だけどな、結構今の大手企業はこの時代から活躍してるぞ」
大和型戦艦の長距離射撃を可能にした15m測距儀(距離測定機、レンジファインダーともいう)、正式名称『三九式倒分像立体視式15m二重測距儀』は現在のカメラメーカーであるニコンの製品だし、バイクメーカーのカワサキこと川崎重工は飛燕(三式戦闘機)や戦艦榛名や空母瑞鶴等を建造しているし、皆知ってるゼロ戦こと零式艦上戦闘機は三菱重工だ
そして当時培ったノウハウは現在にも受け継がれている
「意外と知らないことがあるだね」
「まずこんな事学校じゃあ教えてくれないしな」
「確かに」
「ちなみにこっちからも質問いいか?」
「なに?」
俺は気になっていたことを聞いてみた
「あのISU-152、燃費的に走れるのは150km位なんだが……そんなに近くにあったのか?」
ソ連のIS系戦車に搭載されているジーゼルエンジン『V-2-IS』の航続距離は約150kmだ
ぶっちゃけ燃費悪い
ちなみに排気量は38800cc、軽自動車の排気量660ccの約58倍だ
「いや、もうちょっと距離あったと思うよ」
「んじゃあ燃料ってどうしていたんだ?」
美崎さんの能力は『半径50kmを見る事ができる』いわゆる『レーダー』だ、俺みたいな物質創造の能力は無い
「あ、燃料はロトさんが作ってくれてたの、液体なら大体作れるみたいで」
「……マジ?」
「まじ」
炭化水素も適用されるのかよ
この世界の魔術はチートしかいないのか?
これからロトさんはイルグランテの騎士じゃなくて『人間油田』とでも呼べばいいのか?
そんな事を話していたら
「永一くん緊急事態だよ!って人増えてる!?」
「エルマスさん!?何故ここに!?」
唐突に、本当に唐突にザギに居るはずのエルマスさんが現れた
え?え?なんなの?
忍者なの?ルーバスの諜報部隊って忍者だったの?
「いや落ち着け俺……んでそんな血相変えてどうしたんです?」
「落ち着くの早すぎない?っていやそんなことよりも、緊急事態なんだ!」
だから一体どうしたというのか
それから彼女はひと呼吸おいてから
「帝都から1万近い騎士がザギに向かって進撃中なんだ!恐らくこれは……敵襲だ!」
そう言ってきた
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