29.拠点を隠そう
─29.拠点を隠そう─
「──ふう、助かったよ」
俺はベルドの鎖をオリジナルで創ったカッターで物理的に断ち切った
油圧カッターや電動カッターなんてモンはまだ創れないから、てこの原理を最大限利用した特製人力カッターだ
支点から作用点までをとてつもなく短く、逆に支点から力点までは長くしてる
シーソーの絵で表されるみんなよく知っている『てこの原理』、その『第一のてこ』だ
ちなみにてこの原理は3種類あるぞ、案外身近にあるから探してみ
もしかしたらキミの筆箱の中にもあるかもよ
さらにこれだけでは断ち切れないと判断し、力点の部分に超大型のバイス(万力とも言う)を創り床に固定、ハンドルを大型化させて人力でも断ち切れるようにした
かなりの力技だったが、なんとか切れてよかった
途中、長くしすぎたせいか、カッターが鎖に負けてひん曲がりかけたから焦った
「いやはや、かなり力技だったねぇ、油圧カッターとかの方が良かったでしょ、絶対」
「創りたくても今は作れないんだ」
「重機創れるのなら油圧カッターのアタッチメント作ればイケたんじゃない?」
「重機のサイズとこの部屋の事を考えてくれ、最悪一酸化炭素中毒でお陀仏だ」
ベルドは俺を介して俺の世界の知識を手に入れたから話について来れている
確実に俺が持っている知識よりも膨大な量の知識を手に入れた筈だ
そんな娘が後方支援を買って出てくれたんだ、これはとんでもなく嬉しい誤算だ
「この前の部屋にあったオーブが結界のオーブだったのか?」
「そうだよ、持ち出せないし、止めるには壊すしかないから、壊すのなら止めはしないよ」
「わかった……ちなみに聞くが、どれくらい硬いんだ?銃で破壊するにしても下手跳弾とかさせたくないんだが」
こんな狭い部屋で跳弾して負傷したくはないしな
「12.7mm以上なら確実に貫通するよ」
「そりゃ対物だからだ………今回持ってきたのはAR-15だから5.56mmだが……どうだ?」
「やってみればいいじゃん……てかそのリアクションだと……」
そうだよ、まだ対物ライフルも開放されてないよ!
ショットガンとマシンガンもまだだ
クソッ、これならSR-25も持ってくるべきだった
あっちはスナイパーライフルなだけあって7.62mmを使うんだ
前にも言ったが、SR-25はAR-15(M16)の基本構造を踏襲してる親戚みたいなものだ
考えることはどこも同じらしく、同じようなコンセプトのモノは他国でも開発されており、一番有名なのはSVDドラグノフ狙撃銃かな
あれもAK-47の基本構造を踏襲したセミオートマチックスナイパーライフルだしな
「仕方ない……跳弾しても怒んなよ」
「はいはい」
俺はセレクターレバーを単発に替えてド真ん中にある1番大きいオーブを狙った
──タンッ
──オーブは俺の心配を他所に、5.56×45mmNATO弾に撃ち抜かれ、粉々に砕け散った
「─これで結界はなくなったのか?」
「うん、その筈だよ」
俺は残りのオーブも破壊し、完全に結界を消滅させた
〜〜〜〜〜
屋敷から出たらリンが出迎えてくれた
「あ、永一さんおかえりなさい。途中で結界が無くなったんですが、中で何かしました?」
「ああ、結界のオーブがあったんで破壊した」
「破壊しちゃったんですか!?」
「6つも」
「6つも!?」
え、なんかマズかった?
「永一さん、結界系のオーブはとんでもなく希少なんですよ……?」
「………マジでか」
「ハッハッハ、お前は本当に知らなかったんだな」
ここでベルド登場
流石にリンも困惑した
「えっと、永一さん、この方は」
「ああ、屋敷の中に閉じ込められてた……というか封印されてた」
「ベルドギーザだ、ベルドで構わない、……元魔王と言ったほうがわかりやすいかな」
完全にリンがフリーズした
「え……ええええええぇぇぇぇぇぇ!!!!!!?????」
〜〜〜〜〜
「──なるほど、そんな事が……というか今回は流石にぶっ飛びすぎててびっくりしましたよ」
「それについてはすまない」
俺達はあの後リンの叫び声を聞いてプレハブから飛び出してきた皆を連れて屋敷のリビングで事情を説明した
「まさか魔王の封印がこんな所にあるなんて思ってもいませんでした」とイオ
「あの結界は魔王の封印に近づけなせない為の封印だったんですね」とサラ
「魔王が封印されていたのは知ってたけど、その経緯がそんな事だとは……」とミラン
「魔族の首脳陣の考えもわからないと言えば嘘になるけど、それでも許せない」と憤ってるのはアメリアだ
「アメリア落ち着け……とは言えないな、俺も最初聞いたときはそんな感じだったしな。そもそもその怒るべき魔族は滅んでいるとも言っていいレベルだしやな」
「そうね、そのいけ好かない連中は勇者が倒してくれたんだったわね」
「んで、話を戻すぞ……そんなベルドだが、主に後方支援として俺達に協力してくれるみたいなんだ」
「そもそも永一の世界の兵器が召喚されたのは私が関係しているからね、知らん振りはできないさ。でも魔族でしかも元魔王である私が堂々と出回るわけにもいかないからね、拠点の管理や兵器の整備、改造とかの後方支援を担当するよ」
「整備改造もできるんですか!?」
「ああ、コイツ魔術で俺の世界の情報全部頭に叩き込みやがったからな、俺よりも知識あるぞ」
「そんな魔術が……」
「この魔術は私独自の魔術だ、マネしようとするなよ、常人の魔力なんか一気に持ってかれて最悪死ぬから」
あの魔術、コイツ独自のヤツだったんだ
『同じ魔術を敵に使われたらどうしよう』とか身構えてたけど、その心配は無さそうだ
例え使ったとしても別世界の情報だから莫大な魔力を一気に消費するから最悪死ぬ可能性もあるのか
「そういうことでしたら……これからよろしくおねがいします」
「……よかった、断られたらどうしようかと思ったよ」
どうする気だったんだ元魔王様よ…
〜〜〜〜〜
「ベルド、ちょっと聞きたいことがあるんだが」
「どうした?」
「この拠点の位置をあまり知られたくないんだが、そういう系統の結界とかってあるのか?」
俺はこれからここで活動していくにあたって1つ警戒しておくことがあった
拠点のセキュリティである
俺が頼まれているのは兵器の回収、またはリンクを切ることだ、もちろん世界中に行くだろう
その時回収した兵器は何処に保管するか、となればこの拠点になる
俺達が居るときは迂闊に侵入できないだろう
では俺達が留守の時はどうなる?
答えは言うまでもない、盗り放題だ
ベルドに留守を任せたとしても大人数で来られた場合は魔王という存在を隠しながら戦うのは厳しいだろう
そこで俺が考えたのは『結界によるセキュリティ』だ
この拠点を侵入不可あるいは視認できなくすれば、それだけでもかなりリスクは減る
そこまで考える必要があるか?と言われそうだが、俺達が扱うのはこの世界ではオーバーテクノロジーの現代兵器、扱いは慎重にやらねば
今まで見向きもしなかった物がトンデモスペックの有能アイテムとわかった時の周りの人間の目の変貌様はとてつもないからな
「ああ、あるぞ……とはいっても人間が常時発動させてるのは厳しい、流石にこの拠点の規模となると回復より消費が上回ってしまうし、それ以外何もできなくなってしまう」
「そうか……」
やはりそう簡単にはいかないか
「だがしかしな、空のオーブがあれば話は別だ」
「空のオーブ?文字通り魔術が何も入っていないオーブの事か?」
「そうだ、業者向けで流通量は限られているが、手に入れば私が結界用に作ってやる」
「なるほど」
「あのー…」
ここで静観を決め込んでいたリンが話に入ってきた
「どうした?」
今度はアメリアが
「空のオーブの製造方法は失われたわよ、数十年前にね」
「「………は?」」
…………なんだと!?
〜〜〜〜〜
「………まさか私が封印されている間に最後の空のオーブ職人が亡くなっていたなんてな……」
「技術の進歩はこっちでも早いわけか……」
話を聞いたところベルドの頃のオーブ制作方法は
まず空のオーブを職人が作る
↓
空のオーブに付与師と呼ばれる人間が魔術を付与する
↓
完成
という流れだったようだ
しかし最近、この工程を簡略化させる事に成功、最初から魔術が付与されたオーブを作り出す事ができた様だ
これによりオーブ作成のコストが大幅に下がった
だが、この簡略化には問題があった
この方法では空のオーブが作れなかったのだ
しかし新規で特殊なオーブを作るには空のオーブが必要だったが、かなりの高コスト、更には時間も掛かってしまい、オーブでも高額の部類に入ってしまうようになった
そのせいもあり、市場では簡略化されたオーブが出回り、空のオーブは次第に売れなくなっていった
追い打ちを掛けたのが職人の高齢化だ
そもそもそんな時代に取り残されてしまった技術に若者が興味を持つはずもなく、最後の職人も弟子を取ることがないままこの世を去ってしまった
これにより空のオーブ作成の技術が失われてしまったのである
これには流石のベルドもお手上げ状態らしく
「………技術の進歩は素晴らしいことではあるけど、時には残酷だね……流石に私にも空のオーブを作る技術はないや…」
と諦めかけている
だがな
「……いや、まだだ、まだ諦めるには早いぞ、ベルド」
「どういうことだい?空のオーブを手に入れる手段はないんだよ」
「『諦めたらそこで試合終了だよ』」
「????」
俺には心当たりがあった、
あのやけに保存状態の良かったあの屋敷の中にな
〜〜〜〜〜
「──うおぉぉぉぉ!?マジだ、マジであったよ空のオーブ!!」
「やはりそれが『空のオーブ』だったか」
俺達は屋敷の物置に来ていた
俺が捜索していた時に見つけていたガラス玉がまさか『空のオーブ』だったとはな……
ちなみに他の皆は思い思いに屋敷を探索してる
俺じゃあ貴重な物でも価値があるかもわからんからな
この空のオーブみたいに
「うん、状態も問題ない、これなら魔術だろうと結界だろうと付与できるよ」
「それは良かった」
俺が見つけた空のオーブは2つだ
さて、どんな結界にするか……
「ちなみにベルドはどんな結界なら付与できるんだ?」
「専門じゃないからねぇ……1つの結界に2条件ってかんじかな」
「どういうことだ?」
「要は『結界内にいる者にAの効果を付ける、ただし対象がBの場合は対象外』これで条件が2つあると思ってくれていい、私はこれに更に『対象がCの場合は効果が半減する』とかいう3つ目の条件が組めないんだ。これに関しては完全にセンスの問題だね。」
「なるほどな」
1つの結界に条件を2つ組み込めるだけでもだいぶ作成範囲が広いぞ、これは悩む
「質問なんだが、条件が『AまたはBの場合』とかはどうなるんだ?」
「お、かなり際どい質問だね、その場合は対象は別でも与える効果は一緒だから1つの条件で問題ないよ」
「かなりゆるいな」
「たしかにね」
………おし、1つ決まった
「1つ決まった」
「なにかな」
「『関係者及び悪意がない者にのみ結界内を視認可能』……どうだ?」
「……『関係者及び悪意がない者にのみ』と『結界内を視認可能』か……うん、大丈夫そうだ」
「わかった、それで頼む」
これでかなりセキュリティは強化されたかな
『敵から一切見えない基地』……うん、なかなかロマンあるものになったじゃないか
しかもこの結界は基地内の物を盗みだそうとした者等にも効果がある
しかし条件の制約で『偶然来てしまった』タイプの部外者には効果ない
「もう一つは私が決めていいかい?いいのを思いついたんだ」
「どんなのだ?」
「『無関係の者及び悪意あるものは結界から半径10kmより接近することはできない』……どうかな」
「………なるほど、考えたな」
要はこっちの結界は『関係者以外は近づけい』結界だ
ただしこっちは『見通しが良ければ基地が見えてしまう』という制約がある
しかしこの2つが合わさると合わさると『仲間か関係者以外見えないし近づけない』とかいうチート結界の完成だ
もう一つあれば防音対策もしたかった所だ
「よし、それでいこう。作成頼まれてくれるか?」
「頼まれた。しかし、この規模の結界だ、かなりの時間が掛かるぞ」
「構わん」
〜〜〜〜〜
「にしてもこの規模を覆う結界か、かなりの魔力消費になりそうだな…」
「キツいのか?」
「いや、オーブの魔力吸引先を私にすれば問題ない、しかし自然に魔力を集めようとすると厳しいな」
魔力はこの世界の生命体に存在している一種のエネルギーみたいなものだ
オーブはこのエネルギーを使って作動させる道具であり、大きく分けて2種類存在している
『自然から魔力を集める常時稼働する』タイプと『使用者が使うときだけ使用者から魔力を使う』タイプの2つだ
空のオーブはここの設定さえされていない
結界として使うなら断然前者だ
後者では燃費が悪すぎる
さらに結界に関しては範囲と消費魔力は比例する
範囲が大きければ大きいほど魔力消費が多くなる
だが今回は周りに魔力量で魔王と悟られないようにベルドの魔力消費も兼ねているから後者だ
しかし……
「魔力って要はエネルギーなんだよな」
「そうだね、水流や熱からでも多少の魔力が出るよ」
「そうなのか………」
ここで俺に閃き走る
「なぁ、『電力』から魔力って作れないのか?」
電力を魔力に変換できるのであれば発電機から魔力を生成できる
俺が目をつけているのは風力発電だ
風力発電ならば建設コストだけで済むし、エネルギー変換効率も高い、更には風が吹く限り昼夜問わず発電できるメリットがある。
上手く稼働させれば空のオーブで常時稼働型の結界を作ってもかなり広範囲の結界を維持できるだろう
この周囲は風が一定に吹いている上にこの元村以外は何もないから騒音問題にも発展しない
発電機が目立つ以外はデメリットが殆ど無いんだ
「どうだろうね?そもそもこの世界ではまだ『電気』関係は扱いきれてないんだ」
「というと?」
「雷系統の魔術はあるけど、変圧機とかないから」
「あー、なるほど」
つまりアレだ、この世界では雷をそのまま使ってるから電圧がヤバすぎて『電気はそういうもの』という認識だそうだ
上手く扱えればとっても便利なのにな
さてさて………車も戦車も航空機も電気で動いているって言ったら皆どんな反応するのかな…
〜〜〜〜〜
「───これは……戦車?」
「ミサキさん、戦車……とは?」
「私達の世界にあった兵器です……でもなんか違うような……」
「使えますかね」
「どうだろ………ッ!?」
「どうしました!?」
「なんか知識が流れ込んでくる……『リンクの解除』……?『ISU-152』……?」
「大丈夫ですか…?」
「うん、大丈夫……一応これ、使えるみたい」
「なるほど、どうしますか?」
「これ使って行こう、モンスターが来ても安心ですし」
「そうですね」
「燃料って作れますか……?」
「…燃料とは?」
「この乗り物用の食事……みたいなものです、液体なんですけど」
「液体なら問題ないですね。作れますよ」
「ホントですか!なら安心です!……ではこれでフェニー村に行きましょう」
───邂逅まであと数日
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