28.魔王とエンカしました

─28.魔王とエンカしました─




─ 一体どういうことだ


俺は強力な結界に守られていて生命体すら入れない屋敷を捜索していた


何年も人が住んでいないはずなのだ




なぜ、この鎖に繋がれた少女はミイラ化していないのか




「……う」




……どうやら生きていたようだ


生きている、というのもいろいろ問題しかないのだが……




「………珍しい、人間か……?」


「……ああ、そうだ」




少女が口を開いた




「よくここの結界を突破できたものだ……いや、貴様、魔力を感じないな…?……死体か?」


「なんと失礼な」




ちゃんと生きてら


この少女、調子が戻ってきたのか喋りだしたな




「生きているのか?不思議な人間も居たものだ、貴様、この世界の理に反しているぞ」


「でしょうね」




そもそも俺という存在がこの世界のイレギュラーだしな、いと仕方なし




「俺もいくつか聞きたいんだが、まず君は誰なんだ?」


「ベルドギーザ、と言えばわかるだろう?」


「いや全く」


「なんと!?」




『わかるだろう?』とドヤ顔で言われても……


わからんものはわからん




「え、い、いやしらないの?」


「うん」




かなり慌ててるのか口調が変わってる


これが素か




「一応、魔王だったんだけど」


「は?」




………今なんて?


魔王と?




「マジで?魔王って数十年前の存在よ?嘘やん?」


「ホントだから!!なんちゃって魔王だったけど魔王だから!!」


「………ちょっと詳しく話を聞こうか」




この娘がただの痛い子かどうかは話を聞いて判断しよう




〜〜〜〜〜




「───ええと、つまり『保有魔力が異常に多いせいで魔王にでっち上げられていた』と言う解釈でオーケー?」


「それで問題ないぞ」




この娘……ベルドは元魔王で間違いない可能性が高い




んでなんでベルドが『なんちゃって魔王』とか言ってるかというと、元は保有魔力が異常に多かったただの村娘だったからだそうだ




端折って説明すると


魔族の常識では『保有魔力の多さ』が強さの象徴だったそうだ


そして軍部では人間族に対抗、または進撃する大義名分と言う名の『責任のはけ口』を欲しがっていた


『魔王という存在を作り上げ、魔王が命令した事にして、いざとなれば責任を押し付けて切り捨てる』、そんな下らない事をしたわけだ


そこに白羽の矢が立ったのがベルドだ


他にも候補はいたようだが、何故ベルドになったかというと『辺境の片田舎暮らし』だったからだそうだ


他の連中は知名度や実力をそれなりを持っており、切り捨てたりした場合かなりの損害になると踏んだ、そしてベルドは魔力は他よりも飛び抜けて多いが学もなく実力もなかった為、『切り捨てても問題なし』と判断したそうだ


この時点で胸糞悪い話だが、首脳陣はベルドに勉強という勉強をさせなかった


さらに『魔王はこの城にいる』という証明の為だけにベルドを城に軟禁したそうだ


それなりの実力を持った連中なら大まかな魔力量を測れるらしい




作戦立案、各方面への指示、方針の決定等々は全て首脳陣が今までと同じように処理をし、ベルドには何も報告等々が来ることはなかった




『何かおかしい』と感じたベルドは部屋を抜け出し自分が魔王になったこれまでの経緯を知ったそうだ




自国の首脳陣の屑さにショックを受けたベルドは自身が唯一両親から教わっていた『気配遮断』の魔術で城の書庫に侵入、そこにあった『速読のオーブ』を持ち前の魔力で乱用し、驚く事に全て読破してしまった


しかも内容を全て覚えるという事までやってのけてしまった


書庫には最高機密クラスの文献もあり、それも全て読破した


その情報を全て国民に流し、この国の首脳陣を地獄に叩き落とす


戦う術の無いベルドができる数少ない仕返しだった


後はついでに覚えた様々な魔術を使って逃げるだけ……そう思っていた頃、事態が急変した




どうやら知らぬ間に軍部が人間族に宣戦布告、戦争をおっぱじめていたらしく、人間の勇者一行が魔族領に既に進軍していた




情報が全然回ってこなかったのは、勇者一行が伝令役を最優先に倒していたからだという




情報は重要だ、勇者一行の作戦で首脳陣は大いに混乱した




なんせ勇者の情報が流れてきたのは勇者が首都の目と鼻の先にいる頃だからだ




敵は目前まで来ている、しかし別方面の部隊を戻す時間さえなく、首都に駐留している部隊だけで迎撃しなければならなかった




この混乱に乗じて逃げようと判断したベルドを首脳陣は逃さなかった


魔術を封じる特殊な鎖でベルドを簀巻きにし、玉座の間に拘束したそうだ




魔王ベルドを餌にし、自分達は逃げる為に




その後逃げ出そうとした首脳陣は逃げる事叶わず、既に城に侵入していた勇者に一掃されたそうだ




玉座の間に入ってきた勇者一行はベルドの状態を見て複雑な顔をして、事情を聞いてきたらしい


そこでベルドは勇者にこれまでの経緯を話した


『自分は罪のはけ口として連れて来られた村娘で諸悪の根源はこの国の首脳陣だ』と


勇者一行には嘘を見抜き、記憶を覗く事の出来る人間がいたらしく、鎖にグルグル巻にされた現状も合わさりあっさり信用してくれたそうだ




しかし勇者も一応『魔王』の肩書を持つものを見逃す事も出来ず、『封印』という措置を取ったらしい




そこでベルドも条件をだした


『自身の魔力を分散させて封印してほしい』


それがベルドの出した条件だった




例え生き残りが『元魔王』の自分を復活させても自分の力を使わせないように


魔族には『相手の魔力を吸い取り、自分の力にする』魔術を持つ存在がいるらしく、それに対抗する為だそうだ




勇者はその条件を快諾し、ベルドとベルドの魔力を計5つに分けて封印した




そして勇者は封印した土地に更に結界を2種類張った


『魔力を持つ存在の侵入を防ぐ結界』と『体内の魔力を霧散させる結界』だ


2つとも強力な結界だが、1つ目の結界には対抗策があった


ある道具を使えば一時的に突破できたらしい


しかし2つ目には対抗策が存在しない


魔力が無くなるとこの世界の生命体は意識を失うらしく、この結界は常時それが発動している


例え運良く入れたとしても入った後に魔力は回復した直後に霧散していくから気絶しっぱなしだ


つまりそれは死を意味する




そしてこの強力な結界を張り続けるオーブを使うにも魔力がいるが、そこは封印されるベルドの魔力を使った




魔力を分散させて封印したはいいが、それでもまだベルドには人間の倍は魔力を持っていた為、結界があろうと魔力があると存在を気づかれてしまう可能性があったからだ


常に消費させていれば気づかれる可能性が下がる……そう考えたらしい




ベルドの魔力は結界で霧散しないのか?と思ったら魔力回復スピードがそれより早いんだと




チートかよ




そこも踏まえて魔王にさせられたんだと


さいですか






〜〜〜〜〜




「なるほどな、随分魔族の上の連中は性根が腐ってたらしいな」


「ああ、正直国が嫌になったね、けど、勇者が終わらせてくれた。封印されたとはいえ、私は勇者に救われたんだ」




この娘は無罪にも等しかった、それなのに封印されてそれでも『救われた』か…


てか人間側よ、勇者一行がそんなに強いのなら俺等の世界の兵器なんか要らなかっただろ


使ってたらオーバーキルにも程があったぞ……




「そういえばさ」


「ん?」


「君は何者なんだ?さっき言った通りこの空間は生命体は入ることさえ出来ないんだが……」


「ああ、恐らくは俺がこの世界の人間じゃないからだろう」


「………どういう事?」




この娘は自分の事を包み隠さず話してくれた


更に言うと俺がこの世界で集める事になった兵器を召喚させる原因はぶっちゃけこの娘が名だけとはいえ魔王になっちゃった事だし……


この際巻き込んでしまえ




俺も包み隠さず話すことにした




〜〜〜〜〜




「ええ……私を倒すために人間側はそんなとんでもない兵器達を召喚していたのか……?」


「紛れもない事実だ、現に俺達は2つ目撃してる」




ベルドは話を聞いて顔が真っ青になっている


仕方ないか、ただの村娘を殺すために1つでもオーバーキルもいいところの兵器がゴロゴロ召喚されてたんだからな、無理もない




「それで、君はその兵器を集めているのか……世界の崩壊を防ぐために」


「まあな、それでもあまり情報は集まってないけどな……」




ぶっちゃけ情報が圧倒的に少ない


ザギ周辺しか彷徨いていないってのもあるけど、それでも見つけたのは長門砲と偶然手に入れたIS-2だけだ




「……それなら私も手伝うよ」


「どうしてだ?」


「元はといえば私を倒すために召喚したものなんでしょ?つまり私にも後処理をする責任があるんじゃないかな?」


「そういうことなら願ってもないが……」




仲間が増えるのは非常に嬉しい


しかし今回は魔王だ


堂々と天下の往来を歩かせられんぞ




「君の言いたいことはわかる……魔族であり魔王である私は絶対に目立つからね……」


「ああ、そこが困りどころだ」




魔族は実質滅んだと言っていい、その状態で魔族を連れて歩くのは目立つのに、その相手は一応魔族のトップだった存在だ


目立たないわけがない




そんなことを考えていたら




「───なら、君達の後方支援をさせてくれよ」




そんなことを言ってきた




「どういうことだ?」


「文字通りさ、君達の兵器もメンテナンスが必要なんでしょ?それに拠点の管理も、それを私が受け持つって言っているのさ」


「拠点の管理はわかるが、兵器のメンテナンスも?お前は現物を見ていないからわからないと思うが、かなり複雑な設計だぞ?」




正直少女一人が手探りで整備するレベルを超えている




「大丈夫大丈夫、ちょっと額貸して」




ベルドが俺の額に手を置いらそこが少しばかり光った




「コレで問題なし」


「何をしたんだ?」


「君を経由して君の世界の技術、歴史、文化等々の情報を全て取得したんだ、私がオリジナルで編み出した魔術だ」


「……は?」




『封印されてた間暇でねー』とか言っているが、サラッととんでもない魔術使いやがったぞコイツ


他人を経由してその世界の全ての情報の取得だと?


魔王だからなせる技なのか……?




「それにしても君の世界は凄まじいな、魔術が無いだけでここまで発展するのか……?是非実物を見てみたいものだ」


「是非ウチの世界を観光してもらいたいものだね」




そういう世界線もあるかもしれないしな




「話が逸れたね、一応今の魔術で君達の兵器のメンテナンス方法、戦術、必要な物を理解することができた、後方支援は任せて貰っていい」




確かにウチの仲間に不足していた存在はメカニック等の後方支援担当だ


このベルドの申し出は素直にうれしい


………例え了承する前に俺の世界の全情報を抜き取られても……だ




「わかった、これからよろしく頼むよ、ベルド」


「ああ、原子力空母に乗ったつもりで安心するといい」


「心強いがソレ、ちょっとミスるとメルトダウンまっしぐらじゃねーか!」


「ハハハ、女の扱いは丁寧に、だぞ」


「まったく……」




こうして元魔王、ベルドが仲間になった


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