26.攻撃、そしてもう一人の異邦人
26.攻撃、そしてもう一人の異邦人─
──────ババババババ
《よーし、皆ついてきてるなー》
《はい!大丈夫ですよー》
《この音にはなかなか慣れませんね…》
《皆、と言っても3機だけだけどね》
《雲が自分と同じ高さにあるって不思議…》
《確かに、ていうか離れているのに会話できるって『念和魔術』みたい》
《そんなのあるのか》
《魔力を使って遠方の人と会話できるの。使える人同士じゃなきゃ会話できないけどなかなか便利よ》
《なるほど、ちなみにこっちは魔術なんて使ってないぞ》
《…………ホント、アンタの世界ってとんでもないわね……》
現在俺たちはフェニー村を飛び立ち、海上にいた
目的はイオが言っていた隣国から攻めてきているであろう艦隊のへの威嚇行動ないし撃滅の為だ
相手が木造帆船という事も聞いているので、彗星には恐らく貫通しすぎて通用しない爆弾ではなくレールを取り付けて米軍機に搭載されていたHoly Mosesこと空対地無誘導ロケット弾、5inch HVARを無理矢理搭載させた
ちなみに話していなかったが創った彗星は一二型だ
操縦しているのは俺、リン、サラ
機銃手として搭乗しているのはアメリア、イオ、ミランでそれぞれ順番に一番機、二番機、三番機である
「まあ、ぶっちゃけ予想が外れて艦隊が出撃していないってのが望みだが……そうはいかないか」
俺たちの目下にフェニー村に向かっているであろう船団が見えた
〜〜〜〜〜
私はこの世界に飛ばされた後、何もわからないまま奴隷として売られた
この世界には魔法とかいうファンタジーな力があるみたいで、どうやら私には『神術』とかいう世にも珍しい魔法を超えた超常の力が備わっていたから売られたらしいんだけど、その力をくれたあのちっちゃい子は何だったんだろう
ちなみにその力は『半径50kmの全てを視ることができる』というこっちでいうレーダーのような力だった
他にも何か言ってた気がしたけど、あんまり覚えていない
確か『召喚された』………なんだっけ…………
私は一介の女子高生だったハズなのに────
「──おい、聞いているのか」
「えっと…、何でしょう」
いけない、考え事をしていて聞いていなかった
「奴隷の分際でいいご身分だな、何度も言わせるな、周囲には何もいないんだな?」
コイツは私を買った貴族だ、ちょっと力のある貴族らしく、今回の隣国への侵攻へも喜々として参加している
どうやら『過去に会ったことがあるような知り合いだった様な人』というなんだかとっても曖昧な人物から『船団を動かしたいが、人員が足りない』と協力を頼まれ、嬉々として参加したようだ
そして参加者の中で1番権力を持っていたから今じゃ船長気取りだ
──まあ恐らくは私という奴隷の力を使って戦果を挙げようとしているのだろうけど
「えっと……周囲に脅威となりそうな物は何もいません」
「フン…」
ぶっちゃけ海の上だ、この世界にはドラゴンとかもいるらしいけど、そんなのと高確率でエンカウントしてたらたまったものじゃない
何もいないことを再度確認しつつ力を切ろうとした瞬間に
「……え?」
高速でこちらに向かってくる『この世界に存在しない筈の物体』を『視た』
もう見ることも無いだろうと思っていた『日の丸』が描かれた深緑色の『機体』を
「……どうした」
「………嘘、なんであんなのが……」
「だからどうしたと言っているッ!!」
「ッ!?」
貴族に怒鳴られてハッとした
気が動転していた
「一体何を見たんだ、敵か?ドラゴンか?」
私は報告した
「私達の進行方向正面から戦闘機が3機……」
「……セントウキ?なんだそれは」
この時になって私はこの世界の人達が『戦闘機』を知らない事を思い出した
───バババババ
もうエンジン音が聞こえる位に戦闘機が迫ってきてる
他の船員も初めて聞く音に困惑して慌てふためいている
そうしていたら『彼ら』が来てしまった
見たこともない飛翔体に船団は大パニックになった
だが、『彼ら』はこちらを攻撃はせずに周囲を旋回し始め
《───こちらは特務実験航空隊、現在貴艦らはルーバス王国の領地及び領海を航行中である、貴艦隊の所属と目的を述べよ、回答がない場合は侵略行為と見なし貴艦隊を撃沈する》
と拡声魔術で言ってきた
これは警告だ、自衛隊やその他の軍でもしているものだ
恐らくあの機体に乗っているのは私と同じく日本人だろう、そう直感で感じ取る
でもあの機体、教科書とかによく載っているゼロ戦とはよく見ると形が違う…?
戦闘機じゃないのかな
「どうします?回答しますか?」
「ハッ、この船団を撃沈するだ?笑わせる、イルグランテが誇る世界最強の船団だぞ?国だけ言って無視して進行しろ」
「承知しました」
『我々はイルグランテ王国の船団だ、目的は明かせない、お前らこそ所属国を答えたらどうだ?だがそんな飛竜でもない飛んでるだけのモノでは手出しできんだろう、さっさと帰るんだな』
《……それは失礼した、我々は傭兵の様な立ち位置にいるのでな。我々はフェニー村に居を構える者だ。そしてそれが貴艦らの回答であれば我々は侵略行為と見なし貴艦隊を攻撃する。………補足しておくがコイツは艦上爆撃機といってな、正真正銘船を破壊する為の兵器だ、覚えておけ》
私がまさかの戦闘機の登場に呆然としている間に回答してしまったようだ……それも最悪な回答を
艦上爆撃機、名前だけでだいたい察しがついてしまう
──『戦艦から飛び立てる爆撃機』
正真正銘、戦闘機よりも破壊する事に特化してる機体だ
「みっ、皆さん船から降りて下さいっ!」
「何をほざいているミサキ!この船団は最強なんだ!あんなモノの敵ではない!」
「あれは正真正銘、船を破壊する事に特化した兵器です!勝てるわけがありません!………そんな事を言うのであれば私は自身の命を優先するので降りさせていただきます!」
「貴様…!奴隷の分際で!」
なりふりかまっていられない
このままここに居たら船もろともやられてしまう
私は船から脱出する為に甲板を後にしようとした
──パシュゥゥゥゥ……ズドォォォン!!!!
私と貴族が言い合っていると一番外側にいた船が爆撃機から放たれたロケット弾みたいなもの一発で甲板が粉々に吹き飛んだ
「ふ、船が吹き飛んだ!?」
「なんなんだアレは!?」
「畜生、速すぎて矢が当たらねぇ…!?」
早く脱出しなければ………!
私は船が混乱している隙に、上陸用の小型ボートに乗り込んだ
「ミサキさん!」
「ロトさん!」
「ミサキさん、よかった、無事だったんですね」
この人はロト、奴隷の私達を助けようと陰ながら動いてくれていた元騎士の人だ
「ロトさんこそ、……それよりここは危険です、一緒に脱出しましょう」
「……そのようですね、ではこの混乱に乗じて脱出しましょう」
───ズドォォォン!!
「誰かー!火を、火を消してくれぇー!」
「水系統の魔術師はいないのか!?」
「だ、誰か、回復魔術を!血が、血が止まらねぇー!」
「腕が、俺の腕がねぇ!?だ、誰か助けてくれぇ!?」
横の船がロケット弾で炎上し始めた
「……ッ!?」
そこにあったのは地獄絵図だった
船の火が引火して全身に火が回ってる人
爆発の衝撃で身体の一部が千切れて無くなってしまった人
他にも目を背けたくなる状態の人が沢山いた
一刻も早く逃げなければ、もう時間がない
「ボートの操縦は僕がやります、僕は水の操作系の魔術が得意ですから」
ロトさんが得意な魔術は「水操作」、水流から水圧、性質変換までできる便利な魔術だ
「わかりました、お願いします」
私達は辛うじて離脱した
〜〜〜〜〜
「おー、よく燃えるなぁ…」
「うわぁ…あの最強と名高いイルグランテの船団がものの数分で……」
「まぁ、彗星にHVARを無理くり載せた甲斐があったって所かな」
「結構唸ってたもんね…」
彗星にアメさんのHVAR載せようとしたら色々規格が違うんだもん
米軍のHVARのレールだけを創ってから規格の違うところを加工して取り付けたからな
今だってかなり機体に負担が掛かってるかもしれない
やはりセンチ規格とインチ規格じゃ合わんからな……
そうこうしてる内にリンが旗艦と思わしき帆船に残りのHVARを全弾撃ち込んだ挙げ句機銃掃射していた
なかなかエグいことするなぁ……
《全機通達、敵船団壊滅を確認した、これより帰投する》
《船団から高速で離脱したボートを確認しましたが、どうされますか?》
《これ以上は流石の彗星でも燃料がもたない、放っておけ》
燃料の話はぶっちゃけ嘘だ
彗星一二型の航続距離は1517km、往復だとしても片道700kmは飛行できる
現在位置はフェニー村から約500km地点だ、350kmくらいの余裕はある
俺が嘘をついてまで心配しているのは機体の現在の信頼性だ
艤装を換装する際に当時彗星等の機体で発生していたバッテリーの容量不足やモーターの出力不足からなるフラップ等の電気系統の不具合は解消させてはいるが、そもそも設計にない米軍のロケット弾用のレールを片翼3つ、1機あたり6つ取り付けて、あまつさえ5inch HVARも搭載しているんだ
しかも優秀な性能のダイムラー・ベンツ製DB601Aをライセンス生産したアツタでも70年前の設計と精度だ
こちらに関しては換装に時間が掛かった為手が回っていない
この事から何が起こっても不思議じゃないからこれ以上無理はできないんだ
《わかりました》
《んじゃ、戻るぞ》
〜〜〜〜〜
「……行きましたね」
「はい」
私達はボートで逃れて近くの浜辺にいた
ここからでも船団がいた場所から黒煙が上がっているのが見える
艦上爆撃機達も戻っていっているから恐らく壊滅したのだろう……
「にしてもすごかったですね………、まさかルーバスがあんな兵器を所有していたとは」
「いえ、あれはルーバスの、ましてはこの世界兵器ではありません」
「…え?」
「あれは私がいた世界の、私の国が70年前の大戦の時に使っていた兵器です」
「あんな兵器が70年前の……!?」
「はい、しかもあの最初の警告、あれは───」
─恐らく日本人が乗っていた
テレビなどでたまに流れる自衛隊の人がしている警告に似ていた
もしかしたら話せる人かもしれない
「……これからどうしましょうか」
「………フェニー村に行きましょう」
「正気ですか!?」
「多分向こうも私という同郷の人がいたとは知らないはず、最初に警告もしてきてましたし、恐らく話し合える人物だと思います」
「ですが…!……わかりました、どうせイルグランテに戻っても居場所なんてないですし、行くだけ行ってみましょうか」
私達は再びボートに乗った
フェニー村に向けて────
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