25.鋼の心臓
ー25.鋼の心臓ー
「──てなわけで、ここに向かっているであろう船団はコレ3機と俺達6人で叩き潰す。なにか質問はあるか」
俺の後ろにはついさっき創った3機の艦上爆撃機『彗星』がいる
航空機は創造したこともなかったから心配だったが、どうやら自動車を創ったことによりガソリンエンジンの項目が大幅に進んでいたらしく、V型ガソリンエンジンである『アツタ』の創造ができた
んでアツタを創った瞬間に彗星の項目も解放された
まさかこんな抜け道があるとは……
ちなみに俺が最初に近代の自動車を創造できた理由はわからん
おそらくロックが掛かってるのが『兵器』だけなのだと思う
工具とか一部を除いて普通に創れるし
「はい」
イオが手を挙げた
「ん、どうした」
「あの、すいません、話の展開がいきなりすぎてついていけないんですけど、まずはその後ろの緑のモノについて説明してもらえませんか?」
アメリアもうんうんと頷いている
てかリン以外同じようなリアクションだ
「なるほど、じゃあちょいと話は長くなるがこの艦上爆撃機『彗星』について説明してやるか」
~~~~~
「そもそも彗星含む航空機について話してすらいなかったからそこも説明するぞ」
「まず武装を搭載している機体は大きく分けて3つあるんだ」
「その1つがさっき言っていた艦上爆撃機なんですか?」
「その通り、だけど艦上爆撃機も細かく分けられている部類だからこの年代の機体は主に爆撃機、雷撃機、戦闘機の3つだな」
まあ、他にも輸送機やら飛行挺やら偵察機やらあるけどな
「雷撃………雷でも落とすの?」
「あー…………すまんそういうことじゃないんだ。爆撃機は爆弾攻撃、雷撃機は魚雷攻撃って意味だな。爆弾と魚雷にについては後で話すぞ」
「んじゃあまずはそれぞれの役割を説明していくぞ。正直艦上機の方が説明しやすいからそれで話すがあくまでも一例だ」
「まず戦闘機、これは読んで字の如く敵戦闘機との戦闘、味方の護衛、制空権の確保等々の役割だな。基本的には敵を減らして味方の損害を抑える役割だ、敵艦爆艦攻を撃墜するのも担当している」
「なんだか騎士みたいですね」
「んー、まぁそんな感じかな」
「次に雷撃機または攻撃機、こいつは対艦攻撃の場合、海面スレスレを飛びつつ敵艦に突っ込みつつ魚雷を叩き込むのが仕事だな。」
「敵艦に突っ込むって……」
「無論、そのままの意味だよ。敵艦からの対空砲が飛んでくる中、超低空を維持して時速400km/h程で敵艦に向かっていき、搭載した魚雷を叩き込んで離脱するんだ。正直トチ狂ってるとしか言えん」
生還率も低かったとか
「次は爆撃機だな。こいつは敵頭上に爆弾を落とすのが仕事だ。無論こいつも命中率を上げるために敵目掛けてほぼ垂直に急降下しつつ爆弾を落とす…………まあ爆撃機の爆撃方法はいろいろあるけどな」
九九式艦上爆撃機みたいな急降下爆撃からB-52やB-2みたいな絨毯爆撃まで様々だ
「まあ、航空機の種類は他にもあるが、この三種を知っておけば大体は問題ないかな。何か質問は?」
「あ、一つ聞いて良い?」
ミランが聞いてきた
「あの戦車?ってのとか後ろの爆撃機っていうのはほぼ全部金属なんだよね?」
「うん、そうだな。金属は耐久性や防御力に秀でているからな」
「それで聞きたいのが、なんでそんな固くて重たい金属の塊がそんなに速く動けるの?戦車だって馬車よりも確実に重いし大きいのに動けばあんなに速かったし」
「アレって馬車よりも速いんですか……」
イオが奥に鎮座するIS-2を見ながら呟いた
「いや、馬が何も引っ張らずに全力で走ればIS-2よりは速いはずだぞ?しかもアレは戦車のカテゴリーでも重戦車の部類だから決して速いワケではないし」
「あれで遅い部類なんですか……尚更どうやって動いているのか聞きたくなってきました」
サラまで便乗してきた
「まあ、俺の世界のああいう乗り物には大抵エンジンっていう動力機構……要は金属パーツの集合体が搭載されているんだ、人間に例えると心臓だな………これ以上のマニアックな話、聞きたい?」
ミラン、サラ、イオ、リン「はい」
「わ、私はどっちでも………多分聞いても理解できない」
……8割が聞きたいときた
エンジンの構造の話なんて女子が聞いて楽しい話なんかね?
それともこの世界にはない技術の話だからか?
「……仕方ないから説明するか、ただしめちゃくちゃ複雑だから正直話はクッソ長いぞ?アメリアにはすまんが少々皆に付き合ってくれ、眠たくなったらプレハブで寝てていいから」
「わ、わかった」
「んじゃ、まずは────」
~~~~~
「こいつがあのステージアのエンジンだ」
俺は後ろにあるステージアを示しつつ横に置いてあるエンジン(RB26)を叩いた
このエンジンはつい先程俺が創り出した
「なんかゴチャゴチャしてるわね」
「これがエンジン……」
「正直これがあんなパワー出すなんて思えないですね…」
三者三様の意見だが、皆の言いたいことはわかった
『なんだこれは』
ってか
「まあ、そうだよな…、わかった、ちょいとエンジンオーバーホールしますか」
「オーバーホールって、なんです?」
「完全分解って意味さ、これからこのエンジンバラすから構造がわかると思うぞ」
〜〜〜〜〜
「と、まあバラしてみたけど、基本はこのシリンダー内で燃料と空気の混合気を圧縮して爆発、爆発圧力でピストンを押し出してクランクシャフトを回すって至ってシンプルな構造だ」
俺はエンジンを一通りバラしつつ説明した
ガソリンエンジンには3種類存在する
2ストロークエンジンと4ストロークエンジン、それとロータリーエンジンだ
今回ロータリーと2ストは省くぞ
4ストロークエンジンの基本サイクルは4工程ある
吸入、圧縮、燃焼、排気だ
この4工程を1サイクルとする機関で開発者の名にちなんで『オットーサイクル』ともいわれたりする
それぞれの工程について簡単に説明すると
吸入
ピストンが下り、燃料と空気を混合させた混合気をシリンダ内に吸入
↓
圧縮
ピストンが上死点(上昇から下降に切り替わる位置)まで上がり、混合気を圧縮する
↓
燃焼
点火プラグにより混合気が燃焼し、燃焼ガスが膨張してピストンが下死点(下降から上昇に切り替わる位置)まで押し下げられる
↓
排気
慣性によりピストンが上昇し燃焼ガスをシリンダ外へ排出する
↓
再び吸入へ
となっている
1サイクルの間にこのピストンは2回転しており、多気筒の場合は点火タイミングをずらしている
例えば4気筒エンジンで、点火タイミングが
1-3-2-4の順番だとしよう
その場合
シリンダ番号
1 2 3 4
燃焼 吸入 圧縮 排気
サ ↓ ↓ ↓ ↓
イ 排気 圧縮 燃焼 吸入
ク ↓ ↓ ↓ ↓
ル 吸入 燃焼 排気 圧縮
↓ ↓ ↓ ↓
圧縮 排気 吸入 燃焼
となるわけだ
このおかげでバランス良く力を得られるわけだ
さらに燃焼タイミングをずらすことによって、爆発時の振動を軽減することもできる
ここは太鼓で例えよう
4つの太鼓を用意して同時に叩いた場合、1発1発の衝撃が大きいが、次叩くまでの『間隔』が大きい
しかし4つの太鼓を等間隔で順番に1つ1つ叩いていくと、衝撃も少なく、次叩くまでの『間隔』も小さくなる
エンジンでは点火タイミングの間隔を均一にする為に気筒数が少ないエンジンではこの『間隔』が大きなる
4気筒エンジンでは4分の1回転、つまり90°毎に点火するが、3気筒エンジンでは3分の1回転、120°毎に点火するといった具合だ
この間隔が大きければ大きいほど爆発の振動を1つ1つ感じ取りやすくなってしまう
3気筒エンジンが主流の軽自動車の振動が大きく感じたりするのはこれが原因だ
逆に高級車等に搭載されている12気筒エンジンだと振動を全くといって感じないのは、この点火タイミングの間隔が狭いからだったりするのだ
実際に3気筒エンジンの軽自動車と8気筒エンジンの乗用車のエンジンルームを見ると、8気筒エンジンは殆どエンジンが揺れていないのに対して3気筒エンジンは目視でわかるほどに揺れているのが目立つ
無論、エンジンの搭載方法や使っている素材とかによって振動を軽減させてたりもするが………
再度組み上げるのは面倒だから後でこのエンジンはあとで消しておこう
アメリアがバラしたエンジンを見つつ
「これとんでもない精度ね……生産するとしたら多少誤差が出るんじゃない?」
「まあ、そりゃな……でも大体プラスマイナス0.03ミリクラスだ」
「……そんな高精度なモノ、そうポンポンと作れないでしょ……質より数の方が重要じゃないの?」
確かに、こんな高精度なモノ見ればそう言いたくもなるだろうけどな・・・・・
「残念ながらこれは大量生産品だ、確かに他のエンジンに比べれば搭載していた車輌の種類が極少数だから少ないが、それでも改良しつつ約10年ばかしで数千機作られてる。下手したら万だな。ちなみにいうと車によってエンジンの形は違うから、コイツと同じような精度でめちゃくちゃ種類あるしめちゃくちゃ数あるぞ」
コイツ(RB26DETT)が搭載されたのは第2世代スカイラインGT-Rとその派生系、それとこのステージア260RSだけだ
アメリア達は流石に絶句している
機械産業が発展していないこの世界じゃあまず機械による自動生産ってのが思いつかないだろうしな
「長々と話しちまったな……ちょっとテストしたいこともあるし、話はここまでだ」
「えーと、何をテストするんですか?」
「今しがた創ったこの彗星だよ、日が暮れる前にテストしなきゃな、夜間飛行はド素人には危険すぎる」
操作方法は彗星創造時に付与されたが、『ただ知っている』のと『経験している』のとでは大きく違うからな
それに今回は飛行するんだ
1つのミスが墜落になりかねない
「あ、1つ聞いていい?」
アメリアが聞いてきた
「どうした?」
「いや、この世界に召喚されたアンタの世界の兵器が70年ほど前のモノってのは聞いてたけど、何でアンタが創造したのも同じ年代の、アンタからすれば骨董品を創造したわけ?最新鋭の方が絶対良いでしょ」
「ああ、言ってなかったな」
「これは俺がしている『保険』だ」
「保険?」
「俺はこの世界で最新鋭の兵器は創造しない」
「それは、どうして?」
「もし何かのミスで相手に奪われてもみろ、最新鋭兵器だとそれに対抗できる手段が見つかっていないか限られている可能性が高い、その場合こっちが酷い目見るわ」
最新鋭兵器は高性能の代わりに奪われた時のリスクが大きい
相手が使えるかはさておき、強大な戦力と極秘レベルの情報を明け渡すことにもなりかねない
だから最新鋭兵器は本当に『緊急事態』な時にしか創造しないと俺は決めている
まあ、まだ創造できないってのもあるし、現代の兵器はコンピュータ制御、GPS等、他にも必要な物が多すぎる
人工衛星なんて飛ばせる環境にないから遠距離通信も不可能だしな
最新鋭の方が使えない、または性能を十全に発揮できない可能性の方が大いにある
俺はそう思いながらコックピットに乗り込んだ
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