24.志願?

ー24.志願?ー




──この街、ザギに不思議なモノを扱う男が現れた


──その男はどうやらここの軍と関係を持ったらしく、一人の軍人の少女と行動しているらしい


──最近はギルドが頭を抱えてたあのフェニー村のモンスター駆除の依頼を受注から終了報告までを1日足らずでやり遂げたらしい




ザギにそんな噂が流れはじめて早数日、最初はギルド内で囁かれる程度のものだったが、今では街に住んでいる人間なら知らない人はいないといえるレベルにまで広がっていた




?「噂の男性は今はフェニー村にいるんですよね、あくまで噂なので信憑性は薄いですが、『不思議なモノ』というのが気になります」




部屋の一室で一人呟くこの少女も噂の事は知っていた




?「実際にこの目で確認しないといけませんね、……真実を突き止めないといけないこの性格はどうにもなりませんね………」




自嘲気味に呟く。どうやら実際に見て真実を確かめないと気が済まない性格のようだ




?「それに友人からの急な知らせの件もあります。バーチス隊長には伝えましたが『もしかしたら』というのもあります。もしその男性の実力がこの街を救えるに値するのならば……早めに手は打っておかねば」






?「フェニー村までは片道約1日位でしたっけ?それを往復1日足らずで…………、やはり行ってみるしかありませんね」




どうやら彼女はフェニー村に向かうようだ


出掛ける準備を始めた








~~~~~






「おー…、マジで全長約3000mの滑走路がたった1日で出来上がりやがった………」


「こんな感じで良かったんですか?……本当にただ一直線にその『コンクリート』とかいうのを生成しただけなんですが」


「すごいよ、完璧だ」




俺達は戻ってきてすぐに滑走路を作る作業に取り掛かった




リンは現在IS-2を乗り回してる




ミランがとてつもなく優秀で、コンクリートの材料と性質を教えたら意図も簡単に3kmもの範囲を舗装してくれちゃった


誘導灯や白線なんかは無いが、それでも十分だ




なぜアスファルトじゃないのかというと、現在主流のアスファルトはそもそも石油から精製されているからだ


そもそも舗装に使われているアスファルトは石油を精製した際に発生する減圧重質油(アスファルト)を結合材として砂利や砂を混合させたアスファルトコンクリートを使っている


アスファルト舗装をしている工事現場を見た事があると思うが、かなりの高温で舗装していると思う


これはアスファルトが常温ではほぼ流動しない為、高温に加熱することで液状化させているからだ




話を戻すとミランが生成できるのは砂利と砂までで、このアスファルトは生成できないから、今回はコンクリート舗装にした訳だ




俺は創れないことはないが、加熱装置が無い為没だ




ではコンクリートはというと、これは可能だ


現代のコンクリートは環境問題もあり、再生資材(フライアッシュ等)を使う事が多いが、コンクリートの歴史は古く、古代ローマ帝国まで遡ることができる


ローマン・コンクリートと言われるこれの材料は火山灰、石灰、砕石を混ぜたものに水を加えるだけのシンプルなものだ


だが、耐久や圧縮耐性は現代のコンクリートと大して変わらないという優秀なものだ


ローマの遺跡がかなり残っているのはこのローマン・コンクリートが多用されているからだったりする




現代のコンクリートは砂、砂利、水等をセメントで凝固させた物をいう


要はセメントさえどうにかなれば、コンクリは作れる訳だ


現在使われているセメントで最も主流なのがポルトランドセメントと言われるセメントで、全て天然素材でできている


主な原材料はエーライト、ビーライト、アルミネート、フェライト、石膏の5種類だ


その内石膏以外の4種はクリンカーとも言われ、石灰石、粘土、珪酸原料、酸化鉄原料等を焼成窯で加熱、急冷した際に全て生成できたりする


これに2~3%ほど石膏を混ぜればセメントが完成する


エーライト、ビーライト、アルミネート、フェライトの配合量を変えるといろいろな性質のセメントにすることも可能だ




長ったらしく説明したが、要はこのクリンカーさえどうにかしてしまえばコンクリの作成は容易だ


ぶっちゃけこの5種類は


ケイ酸三カルシウム(エーライト)


ケイ酸二カルシウム(ビーライト)


カルシウムアルミネート(アルミネート)


カルシウムアルミノフェライト(フェライト)


硫酸カルシウム(石膏)


とどちらかというと鉱物系の天然素材であるのでミランでも生成できるのでは?と踏んだ訳である




結果はこっちも驚くレベルの大成功、最初は多少失敗したが、焼成窯で加熱急冷とかの今現在の環境では難しい工程全てすっ飛ばしてポルトランドセメントを生成してしまったのである




「一回できてしまえば後は簡単」とでも言わんばかりに今度はポルトランドセメントと砂と砂利を混合させた物を生成させ、水を加えるだけで生コンになる物を生成させはじめた




セメント業者が真っ青ってレベルじゃねーぞ




俺はとんでもない才能を目覚めさせてしまったのかもしれない……




因みにアメリアは一応捕虜扱いなんだが、捕虜というものの扱い方をよく知らないので「逃げ出したり、何かしない限り自由にしてて」と言ったら周りから「正気か?」と言われた




ぶっちゃけ捕虜や奴隷なんて文化の無い生活してたから違和感あってさっさと解放したいんだけど……そもそも未然に防げただけでこっちとしては良かったんだし




そして俺はプレハブのような簡素な建物を創ってる




流石に居住スペースがないのはアレだしな


蛍光灯とかもくっついて創れたけど、電力無いし無用の長物になってる




今度ソーラーパネルでも取り付けようかね


アレもアレで中々に扱いにくい代物だけどな




そんなこんなで拠点というか基地みたいなモノが出来つつあった




~~~~~




── 一段落して




「そういえば永一さんが持ってるその不恰好な杖みたいのは何ですか?」


「そういえば気になってた」




と二人が聞いてきたので俺は説明しようとした




「ああ、これは──」




「もしかしてそれって『魔銃』?」




アメリアがそれっぽい名前を言ってきた




「なんだそりゃ?確かにこれは銃だが」


「魔銃は亜人連合の開発屋ことハイエルフが試作してる武器よ、前に言った魔砲の技術をそのまま小型化して一人一人に携行できるようにしてるの」




凄いな、こっちじゃ大砲から小銃への小型化には百年位掛かってるんだぞ、それをほぼ同時に開発するとかとんでもないな




「すげぇな、今のでハイエルフ達がとんでもない天才(変態)なのかわかったぜ」




ニ、三年後にはミサイルでもすっ飛ばして来そうな勢いだ


おっかね




「てかいいのか?自国のそんな情報教えて」


「……別にいいわよ、アンタの知識は恐らく私達の国の知識よりも遥かに上を行ってるだろうからね」


「いやいや、魔術に関してはさっぱりだぞ」


「あらそうなの、じゃあ私達の技術もまだまだ捨てたもんじゃないってことね」


「むしろ魔術とかいう俺からしたら未知のもの使ってるぶんそっちの方がおっかないんだが……んじゃこっちの銃について簡単に説明するか」




~~~~~




「……よくもまぁ、そんな現象を発見できましたね」


「……弾頭を尖らせて空気抵抗を減らしつつ貫通力を上げて更に高速回転させて射撃後の安定性と追加でまた貫通力を上げるなんて………ハイエルフもオカシイと思うけど貴方の世界もなかなかオカシイわね」




「俺の世界では銃の歴史は約600年あるからな」




改良に改良を重ねた結果が今の銃だ


ただし基本的なものは今も昔も変わらんがな


最近は技術的に進歩はしているが進化はしていない


なんせ薬莢付きの弾薬を薬莢内の火薬で打ち出して要らない薬莢は排出って構造は一切変わってないだろ?


恐らく次の進化は薬莢が要らなくなるか辺りだと思う




「てかそっちの魔銃は魔力を使うんだろ?使用者の魔力を使うのか?」




聞いた話じゃ一人一人が持つ魔力にも(自然回復はするが)限りがあるみたいだしな


聞いておかなければ




「開発段階の今は使用者の魔力を使っているわ。かなーり燃費は悪いけどね。いつかはオーブで扱えるようにしようとしてるみたいだけど」




暫く魔銃が市場に出回ることは無さそうだ


てか魔銃、魔砲は魔術版レールガンみたいだな


流石にアレまでの威力は出ないと思うが、そう思うとこの世界も侮れないぞ




「てかそんなことを聞いてサラとミランは銃が欲しいのか?アメリアにはまだちょいと渡せんがな」


「わかってるわよ」




「一応護身用に欲しいですね」


「同じく。ナイフより信頼できそう」


「いや、故障とか無い分ナイフの方が使い勝手はいいと思うぞ?」




そんな会話をしていたら




「あなた方が不思議なモノを扱う方ですか?」




見知らぬ娘に話しかけられた


はて、どちら様でしょう?




~~~~~




「申し遅れました。わたくし、イオストルと申します。気軽にイオと呼んで下さい」


「俺は金山永一、んで何の用なんだ?」




俺は挨拶もそこそこに聞いた


そしたら




「単刀直入に言います、わたくしをパーティーに加えていただけませんかっ!!!!」




と言ってきた


オイオイマジか




「……理由を聞いてもいいか?」


「わたくしは強くならなければならないんです。聞いた話によるとあなた方はかなり強いと聞きました」




あー、なるほど。そういうことか


つまり彼女は『噂になってた俺達のパーティーに加われば自分も強くなれるのではないか』と思ったわけか


てかそもそも俺のギルドでのパーティーは俺とリンでしか登録していない


ギルドのパーティー登録、追加メンバーの申請はそのパーティーメンバー同伴のもと、本人が行かなければならないという決まりになっている


これは虚偽申請されてパーティーの名を悪用されないようにする対策でもある


サラ、ミランはこの前仲間になったばかり(しかも死亡扱い)だし、アメリアに至っては捕虜扱いだ


皆諸事情あって今現在はザギに行けないのが現状だ




「すまないが、俺達の強さは他の連中とは恐らく違くてな、パーティーに加入したからといって身体的に強くなるわけでもないんだ」


「……そうなのですか?強力なモンスターも一撃で倒したと聞いていたのですが」


「俺達は『身体能力』よりも『技術力』がメインでな、君の求めている『強さ』が何なのかはわからないが、他の連中の様に剣を振るう強さではないんだ……てか尾ひれが凄いな、俺が倒したのはゴブリン50匹ちょいの群れだ」


「いやゴブリン50匹も相当凄いわよ……って私のツリーガーディアンも一撃で粉砕していたわね……」




突き放すような言い方だが仕方ない


そもそも銃や戦車はこの世界ではオーバースペック、まだ存在しちゃいけないレベルのぶっこわれ性能の代物だ


ただ単に知ってもらうのは構わないが、パーティーに加わり扱い方を知るっていう奴の場合は慎重にならなきゃな


扱い方を不特定多数に広められるのはマズい気がする




「……そうですか、それでも私は力が欲しいのです。『戦う』力ではなく皆を『守る』力が」


「守る力ねぇ……何を守るっていうんだ?」


「ザギ、……いえ旧ザギネルラです」




ザギを?




「ザギネルラを何から守りたいんだ?歴史的にルーバス王国からか?」




「それもありますが、一番の目的は『ある組織』からです」


「ある組織って……」




まさか………




「『教団』という組織に聞き覚えはありますか?」


「ははは……」




まさかここでも出てくるとはなぁ……!




「最近イルグランテにいる教団の団員達がルーバスの団員と手を組み、ザギネルラに進行しようと目論んでいる情報を掴みまして」


永一「情報のソースは聞かないでおこう。んで何でここに?」




ザギネルラが狙われているならザギの皆さんに伝えればいいのに




「イルグランテが帝都等を通らずにザギネルラを攻めるには海路を使ってここフェニー村から攻めるしか無いんです。ここ以外の海沿いは切り立った崖しかありませんし、上った先には生い茂った森がありますので。ここの廃村も何処かの誰かが殲滅するまではモンスターがうじゃうじゃいたので攻めるに攻められなかったようですが」


「………なるほどな」




つまりアレだ


イルグランテの教団連中はザギに進行する為にフェニー村のモンスターを殲滅できうる戦力を準備していた。そこにルーバスの教団員から協力を申しだされて踏み切った訳か


しかもその殲滅しようとしてるモンスターはどこかの誰かが殲滅したという情報も流れたのだろう


……そのモンスター達を殲滅した張本人が根城にしている可能性を忘れて




というかそんな大規模に進撃してくるとかザギに何があるってんだ?




「因みに聞くけどイルグランテは何隻位の船を準備しているとかわかるか?」


「聞いた話では戦闘船を5隻ほど、だそうです」




ここでアメリアが反応した




「戦闘船5隻!?イルグランテのほぼ全ての海上戦力じゃない!?」


「……そうなのか?」


「そうよ!勝てるハズ無いわ!流石のあんた達でも海上の船相手に戦えるハズ無いもの!」




……そういえばアメリアはIS-2にコテンパンにされてるけど長門砲は見てなかったな




「一応イルグランテの戦闘船のスペックをわかる範囲で教えてくれ」


「私も連合の知り合いから聞いただけで見たことは無いけど、40mクラスの巨大木造帆船ね、試作だけど私が最初にアンタ達を疑った大砲は片側に7門あるそうよ、勝てるわけ無いわ」




なるほど、帆船か……




「40m級の帆船か…確かに大型だな」


「でしょ、わかったらさっさと──」


「──木造ではな」


「……え?」




アメリアが呆気にとられている




「え?木造ではってどういうこと?」




ここでサラがアメリアに教えた




「言ってなかったんですけど、永一さんの産まれた国はかなり強大な海洋国家だったみたいですよ?それもこの世界のどの国が戦おうとしても一方的に殺られるレベルの」


「確かに戦闘用帆船が5隻も来るとなれば今現在の状態ならかなり驚異だけど、それが国家のほぼ全ての戦力って少なくね?」




これにはイオも驚いている


海に関してもあまり発展はしていないのか




「じ、じゃあアンタの国はどれくらいの海上戦力があったのよ」


「それは『今』の戦力か?それとも『過去最大』戦力か?」




『今』は現在の海上自衛隊の戦力、『過去最大』は第二次世界大戦時の戦力だ




「……じゃあ最初に『今』を聞いてみるわ」


「そうだな……潜水艦28隻、ヘリコプター搭載護衛艦4隻、アーレイバーグ級イージス艦8隻、護衛艦38隻、フリゲート艦6隻、ミサイル艇6隻かな。他にもいろいろいるが、今上げたものはミサイル艇と潜水艦以外はどれも全長は100mをゆうに越えてるし、金属製だ」


「…………………………じゃあ『過去最大』は?」




「そうだな………当時戦闘可能な状態のやつだったら、戦艦12隻、空母10隻、改装型空母15隻、重巡洋艦18隻、軽巡洋艦22隻、駆逐艦154隻、潜水艦92………ただこれは当時現役の艦のみの数字だし、駆逐艦、潜水艦に至っては数えてない奴らもいるから実際はこれ以上だな」




潜水艦は伊号の一部しか数えていない、呂号や波号や海防艦は省略した


1番数作った艦級でも丁型(松型)駆逐艦で改良型の改丁型(橘型)含めて32隻だ


ただし橘型は終戦間際だった事もあり未成艦が多数あり、それを含めたら40隻、建造中止も含めたら73隻にも及ぶ




アメリアは頭を押さえながら




「何その数……狂ってる………狂ってるわ………」




と呟いている




………これでも勝てなかった米軍ってなんなんだろう


フレッチャー級駆逐艦だけで175隻?あ、ハイ






~~~~~




「えーと、それで私はパーティーに加えて貰えるんですか……?」




おっと忘れてた




「教団を相手にするのなら一緒に動いていた方がいいだろうしな……構わんぞ」




正直人員不足は否めないしな




「あ、ありがとうございます」




俺は皆を見回し


リンも満足したのか帰ってきた




「それでだ、1つやることができてしまったから皆にも手伝ってもらいたいことがある」




「やっぱりいくら木造帆船でも攻めてきたら面倒だから叩き潰しに行きたいんだが、どうだろう?」




「……でもどうやって倒すんですか?相手は海の上ですよ?」




「これから向かっても出港までに到底間に合いませんし……」




「流石に海の上だと私の魔術も効果無いよ」




「一体どうする気?貴方の国の軍艦を貴方の能力でもし作ったとしても私たちだけじゃ動かせないんでしょ?」




なかなかの言われようだな




「いやいや、使うのは足元のヤツと俺がこれから創るモノで行う」




そう、俺達の足元にある 約3kmもあるコンクリートの滑走路を使ってな




「さあ、制空権の無い恐ろしさを教えに行こうか」

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