23.阻止
ー23.阻止ー
「サラは装填手、ミランは砲手をやってもらいたいが最初は全て俺がやる、やり方はすまんが見て覚えてくれ」
そう言うと俺はIS-2の車体正面をツリーガーディアン側に向けた
そして席を離れ弾薬庫へ
IS-2に搭載されている主砲、D-25Tの砲弾は弾頭と薬莢が別れている『分離式』を採用している
弾頭と薬莢を別々に持ってこなくてはならない為、装填速度がどうしても遅くなってしまうのがネックだ
「砲弾クッソ重てぇなぁ…」
…………ちなみに砲弾の重量は弾頭だけでも約25Kg
流石122mmだぜ………
その砲弾を装填、砲手席に座る
弾種は榴弾、コイツに限る
………うん、一人でやるのはクッッッッッソキツいわ
当時英国で1人乗り戦車を開発しようとして失敗してるしな。分担は大事
そのままツリーガーディアンを狙う。数は……5体か
「5体いるな、まず一番撃ちやすいのを狙う。二人とも耳塞いでてくれ」
角度よし、距離よし、照準よし
俺は容赦なくトリガーを引いた
ズガァァァン!!!!!
その瞬間車内をとてつもない衝撃が襲った
3人「───!?」
なんつー衝撃だよ……
とんでもないな
俺はちゃんと着弾したか確認した
そしたら俺が狙いを定めていたツリーガーディアンの上半身が綺麗に無くなっていた
流石122mm砲だな……生身で食らいたくないや
「嘘でしょ……ツリーガーディアンが一撃なんて……」
「凄い……」
今ので残ったツリーガーディアンがこちらに気付いたのか木の杭の様なものを飛ばしてくるが、そんなものはコイツの100mmある正面装甲には通用しない
ん?一体の肩に何かいるな……人間か?
グロテスクなことにはしたくないし、当てないようにしよう
「さ、次弾装填だ。後4体殲滅するぞ」
~~~~~
─── 一体何処からの攻撃なのっ!?
仲間が召喚したツリーガーディアンと共に威力偵察に来ていた猫人少女、アメリアは動揺していた
それもそのはず、強力な部類のはずのツリーガーディアンの一体が突如として上半身を吹き飛ばされたからだ
「こんな魔術なんて聞いたこともないよ………!?」
アメリアの種族は獣人属の情報収集に特化している猫人種、「猫人種に知らない情報は無い」とまで言われる情報収集能力でも異世界の兵器の情報までは収集できる訳がなかった
例え同じモノがこの世界に数十年前から存在していても動かないのだから知ることも無い
「あそこか……!!なんて距離……!?体制を立て直して反撃を……ッ!?」
目の前にいたツリーガーディアンが粉々になった
ガーディアン達も反撃しているが、IS-2の100mmの正面装甲を貫通することができない
「(あの威力でなんて攻撃速度!?しかもガーディアン達の攻撃が全く通用していない!?)」
現在、装填から射撃までを永一1人で行っている為、射撃レートはかなり落ち込んでいるが、この威力の攻撃を約2分に1回のペースで叩き込まれてはまったものじゃない
また一体ガーディアンが吹き飛んだ
残り二体
「(聞いたことがある、たしか私達亜人連合のハイエルフから設計図を盗んだとかで遠距離から金属の塊を高速で飛ばして攻撃する武器を人間が作ってるって………まさかこれなの………!?)」
アメリアが言っている武器は隣国イルグランテやルーバスが開発に勤しんでいる大砲であって、このIS-2のことでは無い
そしてまた一体撃破された
「(不味い、あんなのを食らったらひとたまりもない!!どうやら狙ってるのはガーディアン達だけみたいだし、離脱しましょう……!!)」
そう思いアメリアは乗っていたツリーガーディアンから慌てて降りた
その瞬間そのガーディアンも撃破されアメリアは間一髪助かったかと思ったが
ガスン!
「──────!!!!!???」
飛び散ったガーディアンのそこそこ大きな破片(木)が頭部に命中、気絶してしまった
~~~~~
「───目標を殲滅。一緒にいた人間?もどうやら倒れたみたいだ…………やっちまったかなぁ………あー、耳痛ぇし腕が辛い………」
………さて、どうするか
今倒れた人間(?)が生きているとしたら放っておくとまた何かやらかしかねないからな……
「さて提案がある、あのツリーガーディアンの中に人が一人いたんだが、さっきの砲撃の拍子で破片か何かが当たって倒れたたみたいなんだ。んで生きていた場合、放っておくと何しでかすかわからんから回収したいんだが、どうだろう?」
無論身動きはとれないようにするが
「確かにそうですね…ここで放置してモンスターとかに襲われても寝覚めが悪いですし、私は賛成です」
「私も」
「よし、じゃあ回収しに行きますか」
俺は弾着地点までIS-2を進ませた
………別に轢くワケじゃないぞ?
~~~~~
その後気絶していた人間(?)を担いで車内の使ってない席、つまり通信手の席に座らせてロープで縛ったんだが、この娘、耳が猫だ。尻尾もある。
聞いた所、『亜人連合、獣人属の猫人種』だそうだ。そのまんまだな
要は『魚/スズキ目/スズキ科』な魚類のスズキさんの様に『亜人/獣人属/猫人種』みたいな解釈でいいんだそうだ、そんな風に獣人たちを動物みたいに扱うから嫌われてるんじゃないのか?この世界の人間は
俺達人間だって『霊長類/ヒト目/ヒト科』なんだぞ?
なんて考えてたらそもそも俺の世界でも『白人主義』とか言って黒人や黄色人種を迫害していたな…
どの世界でもやってることが変わらんな人類さんよ
「うぅ……」
お、どうやら気がついたようだな
「起きたか、おはよう」
「あ、おはよ……って、あんた誰!?ここは何処!?何このロープ!?」
うむ、元気があってよろしい
外傷もたんこぶ1つくらいだったしな
「何だか君が乗ってたツリーガーディアンの群れに遭遇してな。あのまま君達が向かった先には人間の町があったもんで、危険と判断し迎撃させてもらった。んで気絶した君を放っておくのもアレだったんで回収。現在に至る」
「確かあの時私は気絶して……ってことは貴方達が私を攻撃してきた犯人か!」
理解するのが微妙に遅いですな、この娘
「そういうことになるな、んで暴れられても困るので、座席に固定させてもらったよ」
「離せ離せはーなーせー!」
ええい、やかましい
最初は元気があるなと思ったが、ありすぎても困る
「ってかこれは何なの!?さっきは何か高速で飛ばしてきて……ハイエルフ達から図面でも盗んだんでしょこの泥棒種族!!!」
「はい?」
……ん?何か勘違いしてませんかね?
いや、てか猫っぽい種族の娘に『泥棒』呼ばわりされるのもなんか斬新だな……
ほら、『泥棒猫』って単語あるじゃん?
「図面を盗んだ?何の事だ?全く知らんぞ?」
「とぼけても無駄よ」
うーん、根拠がある証拠が無いから何とも言えないな……
「ちなみに、そのハイエルフが作っていたのはどんなのだったんだ?」
俺はそんな事を聞いた
そもそもハイエルフなんて種族がいることは今初めて知ったからどういうのに長けているか分からんのよ
ハイって付いてるエルフの上位種か?
エルフはエルフでも走れ走れなエルフじゃないだろ?
そっちでハイエルフとかあったら大型トレーラーになってそうだな
「確か、鉄の筒のなかに圧縮した魔力を固定して金属の塊を入れて、圧縮した魔力を解き放って金属塊を高速で飛ばす兵器よ。何者かに図面を盗まれたそうよ……ってなんでこんな事言わなきゃならないのよ!」
ふーむ、なるほどな
「確かに似ているな。だが、俺らは関与していないな」
「だからとぼけても──」
「コイツには魔術的なモノは一切使われていない。薬莢内の火薬を爆発させてその爆発圧力で弾頭を加速させる物理法則に則った仕組みだ。それに恐らくソレは砲だけでこんな装甲で砲手達を守ってはいないだろうし、40km/hで走行することもできんだろ」
「魔術を使っていない!?そ、それはあんた達人間が改良したんじゃないの?」
改良ときたか
「サラ、この世界の人間は薄い鉄板を重ねたりせずに厚さ100mmの鉄の板を曲線的に加工成形し、尚且つ40t以上ある車体を40km/hで走らせる技術は持っているのか?」
サラ「いえ、持っていないと思いますよ、そもそもこれの装甲、そんなにあったんですか」
この会話にはアメリアは絶句している
「本当に一体何と戦っていたんですか…」
「人間同士の戦争だよ。ちなみにこの車両を製造していた国が戦争してた国は最終的に200mmの装甲を傾けて実質230mmクラスの装甲を作り上げてた」
これにはサラも呆れている
まあ、そのネズミさんは数メートル走ったら未来に行き過ぎてた駆動機構が故障したり地面に埋まったりで爆破処理されたんですけどね
188tは重すぎたし、未来に行き過ぎてた
そもそもエンジンで発電してモーターで駆動させるとかBMW i3かっての
70年も前に何やっちゃってるんだよポルシェさんよ
「え、じゃあこれって…」
「そう、君が言っている兵器ではないし、ぶっちゃけちゃうとこの世界の兵器でもない。先の戦争の時に召喚された異世界の兵器だ」
「異世界の兵器……じゃあこれを扱えてるアンタも」
「うん、ぶっちゃけ言っちゃうとこの世界の人間じゃないぞ。そっちの二人は違うが」
リスクはあるけど、俺は結構ぶっちゃけて話しちゃう事が多い。てか隠し事は苦手だし、隠しすぎて戦艦大和みたいに全く意味をなさない抑止力みたいになりたくないし
力の片鱗でも見せれば相手は『今の戦力じゃ無理だ、攻めるのは止めよう』って思考になってくれるだろうしな
『これを奪えばこっちの戦力が増えて相手の戦力が減るじゃん、奪うか』的な思考はどうにもならん。迎撃するしかない
前者が多いことを願おう
「ていうかいいの?仲間じゃない相手にそんなに話して」
「隠し事は苦手なんでな、それにコイツの性能教えても痛くも痒くもないしな」
「え!?なんでですか?」
これにはサラ達も驚いてる
「こんな時代の先行きまくっている兵器の事を教えても痛くも痒くもないって……」
「もしかして『教えた所でこの世界ではそれを生産することが今のところできないから』とか?」
「それもあるな」
「けど、言ったろ?この車両は『俺達の世界で作られた70年以上前の兵器』って。つまり俺にとっては骨董品。性能を隠す価値も無いんだ」
アメリア、再び絶句
流石にすぐ受け入れるのは難しいか
「ち、ちなみにですけど、もし永一さんの時代でこれが戦った場合、どうなるんですか?」
現代兵器達の中で骨董品コイツが戦ったら、か……
「……発見次第瞬殺される可能性が高いな、一方的に」
三人「……え?」
「詳細に説明すると、もし本気で戦争していてコイツが超危険な存在と相手国が判断していたと仮定すると、コイツが出撃したらすぐに相手側の監視に捕捉される。この時点で隠れることは不可能だ。ここで撃破するのであれば、コイツがいる座標に向けて爆撃機や攻撃機から空対地ミサイルや対地誘導爆弾がデリバリーされる。もし前線で戦ったとしても歩兵相手にはそこそこなんとかなるだろうが、対戦車なら一撃で撃破されるだろうな。複合装甲でもなんでもないただの100mmの鉄板なんて紙切れ同然に貫通してくるし」
現代の戦車が使用する砲弾、APFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)なんかの貫徹力は約650mmだ
しかもソレをコンピュータ制御された主砲で撃つものだからまず命中する
例えこっちが先に撃てたとしても相手はその貫徹650mmの砲弾に耐えうるレベルの装甲(複合装甲)をコイツと同じレベルの重量で実現してる
機動力も倍以上だ
笑えるレベルで話にならない
いやでもまだどこかの国では近代化改修されてるとはいえT-34-85とかSU-100とかが現役だったな……
元気に動いてる姿を見れるのは嬉しいが、そろそろ休ませてやれよ………
ちなみにIS-2と同じ時代、1940年代にも650mmの装甲はあるにはあったぞ
最大最強の戦艦、大和型戦艦の主砲、46cm砲の主砲防盾だがな
米軍機の500ポンド爆弾を主砲の装甲で弾き返し、空中で爆発させた(他の戦艦なら弾き返されず多少はダメージが入る)とかで攻撃したパイロットを驚愕させたとかいう逸話がある
さすが『まるで島の要塞を攻撃しているようだった(米軍パイロット)』とか『敵艦補足!戦艦2と巡洋艦4です!/馬鹿野郎!全部戦艦だ!』とか『とんでもない大きさの帝国海軍戦艦を見たんだ!(米海軍潜水艦艦長)/そんな巨大な戦艦が存在するわけ無いだろ!いい加減にしろ!精神異常の可能性がある、お前艦長解任な(米軍上層部)』とか言わしめた戦艦だ、いろいろと次元が違いすぎる
てか事実を言っただけなのに艦長解任させられた潜水艦艦長かわいそう
これには三人とも開いた口が塞がらないようだ
「さ、おしゃべりはここまでだ。フェニー村に帰るぞ」
俺は帰路を急いだ
………燃料、持つかね……?
〜〜〜〜〜
─とある場所
「………そうか、イルグランテの同志は『あの船団』を動かすことに成功したか」
「は、既に例の船団は我々の支配下にあります。現在はフェニー村に向け進撃中とのことです……それと1つご報告が」
「なんだ」
「我々が所有していた2体の『鉄巨獣』ですが、1体消えておりました。おそらく持ち出されたのかと」
「なんだと?………消えたのはどっちだ」
「小さいほうです、それと収納魔術と土魔術を使うあの二人組もおりません。恐らくは……」
「『鉄巨獣』を持ち出して裏切りおったか。……だが問題はない、今回使うのはもう1つの『鉄巨獣』だからな。奴らには扱い方すらわからんだろうよ。」
「ですね、馬鹿な女共だ」
「………だがこれでザギを攻め落とす下準備が整ったな……『鉄巨獣』を起こす準備をしろ、部隊が揃い次第、忌々しいザギの連中を粛清しに行くぞ」
「ハッ」
〜〜〜〜〜
─帝都王宮にて
「……ザギが攻撃される?それは本当なの?」
「はい、間違いないかと」
「何ということ……これは不味いわね、すぐにザギにいる私の親友、イオに伝えなくては…」
「ハッ、姫様、部下を向かわせます。しかし、ボロスの部隊です。ザギだけで戦えるでしょうか」
「いえ、戦力差がありすぎます、ザギはかなり厳しい戦局に立たされるでしょう」
「…して、我々はどうしますか?そうならない為にもすぐにでもあの不届き者のボロスとその仲間を拘束しますか?」
「いえ、今拘束してもはぐらかされてお終いでしょう。心苦しいですが、彼らが動き出し、確固たる証拠を掴んだ後に然るべき処罰を下しましょう」
「畏まりました、では私は拘束隊の編成があるので、これで」
「ええ、お願いします」
しかし彼、彼女らはまだ知らなかった
未知の兵器を扱い、彼らの仲間の襲撃を退けた人間が、ザギ近辺に拠点を構えた事を
そして自分達の所から持ち出された操作方法不明の兵器が元の世界では当時『猛獣殺し』と揶揄される強力な兵器で、その人間の手に渡った事を
開戦の時は近い──
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