22.IS-2にて

ー22.IS-2にてー




──リン達を見送った後




「んじゃコイツのエンジンがちゃんと掛かるか試してみますか」


「そういえばコレって動かせるんですか?」


「わからん。俺が造ったわけではないしな……更に言うとコイツの内部がどうなっているのかも詳しく知らん」


「ええっ!?」




驚くのも無理はないな……


「コレ乗って帰るか」って言ったのに操作方法をしらないんだもんな


操作方法はリンクを切った時に貰えるっぽいが、壊れてたら動かせないんだ




「なんせコイツが元気に動いてたのは俺が生きてた頃より75年も前だぜ?殆ど残ってないし、あっても博物館で保管されてるよ、内部もあまり公開されてないしな」


「じゃあこの兵器は兵器としては使えないって事?」


「確かに、そんな古いんじゃ使い物にならないんじゃないですか?」


「………確かに今の俺の世界じゃほぼ一瞬で無力化されるだろうな……だがこの世界じゃ話は別だ、恐らく普通の剣じゃコイツの装甲にキズをつけるのはほぼ不可能だろうし、弓矢なんかも物ともしない。……魔術はどうだかわからんがな…」


「つまり、小さな動く要塞って考えていいの?」


「その捉え方で問題ないよ……っと、それじゃ中を見てくるか、ちょっと待っててくれ」




俺はキューポラから中に入った


ついでにリンクも切っておこう






【IS-2重戦車の所有権が譲渡されました】


【強制開放、重戦車(ソビエト連邦)】


・重戦車IS-2に触れたことにより【重戦車(ソビエト連邦)】の項目が一部開放されました


・IS-2までのソビエト連邦重戦車(試作含む)の創造が可能になりました


・重戦車IS-2の情報を付与しました


・項目【重戦車(ソビエト連邦)】の創造レベルが強制的に5に上がりました




長門砲の時と同じだな


今回は兵装ではなく兵器そのものだから限定的じゃないぞ


いきなり戦車部門が進んでしまった……




──車内




「砲弾はそのままあるんだな、使えるんかこれ……お、これが操縦席だな?ロシア語なんてわからんぞ……」(ガチャガチャ)




──キュィィィン、ガガガガ…




お、どうやら問題ないみたいだ


エンジンが掛かった




俺はハッチから顔を出して二人を呼んだ




「エンジン掛かったから乗り込んでくれ」




~~~~~




「……これってこう使う物だったんですね。教団の人達が魔術で動かそうとしてダメだったのがわかりました」


「さっきも言ったが、俺達の世界には魔術なんて無いからな、大体人が操縦するもんだ。この鉄の塊は馬の代わりとでも思ってくれていい。ブッ壊れない限り動き続けるな」




燃料があってエンジンや駆動系が壊れない限り動き続ける


馬みたいに疲労とかも(金属疲労は置いておいて)無いし機械は優秀だよ


因みに今はサラが車長席、ミランが砲手席、俺が操縦席に座っている




「って事は『疲れを知らない馬』って解釈でいいですかね。一体どんな構造なんですか?そもそもただの金属がその棒ひとつで勝手に動くなんて信じられないんですけど」




まあ、エンジンなんて無い世界だしな


ただの金属が動いてる(正確には燃料が燃焼した時のエネルギーを動力に変換して動いている)なんて想像もできんわな




「まぁ、それは後でな、口頭で説明するのは難しい…あ、それとミラン」




俺はさっきミランに聞いていなかったことを聞いてみた




「どうしました?」


「ミランも魔術は使えるんだよな?何を得意としているんだ?」




ここでミランが困った顔をした


…なんかマズい質問したかな




「あー、それが…実は私の魔術はかなり地味系で……」


「地味系?どんなのなんだ?…っとすまない、俺は魔術に疎くてな、どんなのがあるかわからないから知識を広げる為に聞きたいんだ。嫌なら話さなくてもいい」


「…いえ、大丈夫です。私は人間が4分の3、エルフが4分の1のクォーターなんですが、土系の魔術が得意なんです。土系統は農業等に向いていて、あまり戦闘面での使い勝手はよくないって言われてるんですよね…」


「……というと、地面の整地とか指定した成分の土を作り出すこともできるのか?」


「……ええ、できますよ。本当に戦いに向いていない魔術ですよね……」




自虐的に言う


いいや、わかってないな




「……いや、全然戦えるじゃないか」


「……え?」




ミランが驚いた顔をしている


コイツの周りで今まで気付いた奴はいなかったのだろうか




「サポート系にはなってしまうが、整地が魔術でできるのなら、敵側の遮蔽物を無くすことも不可能ではないだろうし、逆に自陣側に任意の強度にした土で遮蔽物を作って戦いやすくすることができる。それに俺は魔術のカテゴリなんて知らないが、その気になれば金属を生成することも可能なんじゃないか?」




できるかどうかはわからんが、攻め込む敵国の大地を砂に変換して砂漠化、水不足に陥れることも可能だろう


そう思うとマップ兵器クラスだな、恐ろしい


自分が立ってる地面が全て敵になるんだ、相手にしたくないね




「金属を生成した土魔導師が過去にいたことは聞いたことありますが、そこまで考えたことはなかったです……!!金属生成はまだできませんが、土魔術も捨てたもんじゃないですね!」




未来に希望が持てたような顔をしているミラン


もしかしてこの世界の魔術師は自身の魔術をあまり応用できてないんじゃないか?


下手したら炎系魔術師は「対象を燃やすこと」しか考えていないのかもしれない




「というかミラン、半ば諦めてて魔術の特訓してないからそんなにまだ使いこなせないでしょ」


「う゛っ………これから鍛えるし……」




俺が考え事をしていたらそんな会話が聞こえてきた


ふむふむなるほど




「それなら特訓ついでに俺がフェニー村でしていることを手伝わないか?」


「特訓ついでに……?一体何をやっているんですか?」


「それはだな……ってお前たちは一応フェニー村に着いたら自由なんだが、行く宛はあるのか?」




宛があるなら俺達の事に無理に付き合わせるのも悪いしな




「いえ、ないです」




ほぼ即答である




「そ、そうか…」


「というか死亡扱いにされてるので下手いろんな町をウロウロしてたりしたら教団の人に見つかってしまいますので暫く居させて貰いませんか?ミランもそれでいい?」


「うん、特訓もできるのならありがたいし」


「それならいいか…それじゃ二人ともこれからよろしく」




サラとミランが仲間になった




~~~~~




「……廃村になったフェニー村の土地をもらったから全長約3km前後の大規模整地及び周辺の開拓、ですか。確かにそれは永一さんとリンさんの二人だけでは厳しそうですね。むしろ何故そんな無理難題を二人で受けたんですか…」


「ちょっと拠点と広い土地が欲しくてな……」




車とか置くのに凄いスペースがいるんだよ


てか滑走路はやはり場所を取るんだな


VTOLってすげぇよ




「因みに戦車ってこれ以外にもあったんですか?」


「ああ、色んな種類があったぞ。俺の元いた世界の試作含む全種類合わせたらざっと400種類以上はあったんじゃないか?」


「よんひゃ……!?」




………まあ、多いわな




「……大体の部類に分けると、快速で偵察等をする『軽戦車』、偵察からいざとなった時の主力になったりと万能な『中戦車』、大火力強装甲で主力を担う『重戦車』、砲塔は無いが火力が高く防衛向きな『駆逐戦車』、長遠距離からとてつもない一撃を放つ『自走砲』………とまあ、他にも対空戦車とかいろいろあるが大体はこの五種類に分けられるな」




空挺戦車とかもいたな


そもそも駆逐戦車と自走砲は曖昧だわ




駆逐戦車は戦車の流用して砲塔を取っ払って旋廻リングの重量制限を無くして大口径砲を搭載した車両の総称だ


おかげで装甲はあるし搭載している砲も大口径が多いから、拠点防衛や中距離からの支援に向いている




じゃあ自走砲はというと『大砲を射撃可能な状態で移動可能な車体に取り付けた車両』の事を言う


要は軽トラに大砲固定して荷台から撃てるようにしても『自走砲』に該当するし、馬鹿デカい砲にエンジン載せて走れるようにしても自走砲だ


ちなみに言うが、砲を自動車で牽引する場合は該当しない


砲を搭載している物に動力が無いからな


昨今は『自走砲』とだけ言うと自走榴弾砲が該当する


自走砲は戦車の様に前線で戦う事を想定していない車両で、装甲は無いに等しく、搭載している砲もかなりの長射程であることが多い


要は支援車両だ




では何故ここまで分別できているのにカテゴリが曖昧かというと当初期の連中がなかなかに複雑なカテゴリ分けをされていたからだ




ドイツの駆逐戦車といえば三凸やヤークトパンターなどが挙がるが、そもそもアイツ等はまた別の『突撃砲』に部類されていたモノが駆逐戦車に再カテゴリされている


三突も『三号突撃砲』だしな




んで最もややこしくしたのがソ連の駆逐戦車連中だ


SU-100やSU-152等、装甲のある戦車の車体を流用し大口径砲を搭載した優秀な駆逐戦車を多く作り出しているんだが、何を隠そうコイツ等の『SU』は自走砲を意味する上に自走砲部隊に配備されたりしている


駆逐戦車の条件に合致しているにも関わらず自走砲……


しかも似たような名前のSU-8やSU-14はちゃんと自走砲だ




ほら、ややこしいだろ?






「じゃあ、これはどこに属するんですか?」




サラは車体を叩きながら聞いてきた




「このIS-2は『重戦車』だ、けど小型軽量化によって中戦車に匹敵する機動力も持つ優秀な車輌だよ」




虎を狩るための書記長だからな




「ちなみになんだが、コイツを教団の何処から持ってきたんだ?」


「ボロスって人の所、2つあってもう1つのは何かの魔術で使い方がわかったって言ってたけど、こっちはそれより小さいし中も違うから使い方がわからないって放置されてた」




かなり重要情報が出てきたぞ


ボロスはIS-2より大型の戦車を1輛保有している


しかも稼働できる状態ときたか…


というより




「なぜ同時にその魔術をコイツにも使わなかったんだ?」




コイツにも使えばよかったのに


何を考えているんだ?




「何故かこういう『召喚された兵器』に魔術を使えるのは1ヶ月に1度が限度で成功するかどうかも不安定みたい」


「………なるほどな、カラクリが読めたぞ」




要はその魔術は『複数の世界に検索を掛けて操作方法を知る』魔術なんだ


この世界の物ならいざ知らず、相手は別世界の代物だ


必然的に検索規模も大きくなって消費魔力も跳ね上がったんじゃなかろうか


んで膨大な検索をするから魔力的にも身体的にも耐えられないんだ


で魔力が尽きる前に検索ヒットすれば情報が手に入るし、ヒットしなけりゃただただ魔力を消費しただけ、となるのかな




つまりその戦車の扱い方を知れたのも奇跡って訳か




「ん…?」


その時外を見ていたサラが何か発見したようだ




「どうした?」


「いや、気のせいだと信じたいのですけど、『ツリーガーディアン』がいた気がして」




俺は疑問顔になった


ツリーガーディアン?なんだそりゃ




だがミランは違うようで




「ツリーガーディアン!?嘘、こんなところにはいるはずがないのに!?」


「……すまん、ツリーガーディアンってなんだ?」




俺はIS-2を停めて聞いてみた




「ツリーガーディアンは人が入らないような森林にいるモンスターです。弱点は炎なんですが、近づくと根や枝に捕まってしまい最悪そのまま命を落とします。遠距離から炎系魔術を使おうとしても常時強力な対魔術防壁が展開されているので遠距離攻撃はほぼ不可能です」




つまり物理的な攻撃で燃やしたいが、近接攻撃が強すぎて手こずる強敵ってことか




厄介だな




「一説には森を守るために長く生きてきた樹木が変化するらしいのですが、こんなところにいるなんて聞いたことがありません。多分誰かが召喚したと思うのですが、ツリーガーディアンを召喚できる人間は今現在いなかったと聞いています」




人間には召喚できるヤツがいないのか


……ん?




「……ってことは人間以外が召喚した可能性があるってことか?」




この世界は俺の元いた世界と違って獣人属などの種族もいると聞いている




「その可能性が一番高い、いやそれしか考えられません」


「他の種族には膨大な魔力を持っている種族もいますからね、多分そうでしょう」




俺は一つ疑問に思った




「けど、そいつらがこの辺りでアレを召喚する理由って何だ?」




この辺りで召喚する理由が俺にはさっぱりわからん


召喚する練習か?




そしたらミランから




「恐らくは威力偵察でしょうか。ツリーガーディアンを召喚したのは自衛か、そのまま攻撃する気もあるからでは、と思います」


「威力偵察って……」




戦争間近なのかな?




そこにサラが付け足しした




「実は人間と他の種族って、すっっっっごく仲が悪いんですよ」


「マジですかい」




マジか、いろんな所に行こうと思ってたんだか、こりゃそんな状態じゃなさそうだ




「因みにツリーガーディアンは近くに人間の村があると襲う傾向があります、なんせ人間は伐採しますからね、樹木の敵です」


「ってことは……」




近くにはザギがある


マズい、非常にマズい


あそこの防御力は強大だが、確実に被害がでるな…




…仕方ないな




「近くに町がある。ここで潰すぞ」


「でも倒すには接近するしか」


「いや、コイツ(IS-2)があるだろ?」




遠距離魔術は防げても遠距離物理攻撃は防げない筈だ


骨董兵器だが通用するか試させてもらうぜ






「──さあ、戦闘開始だ」

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