21.逃亡者
-21.逃亡者-
俺はステージアのエンジンを掛けた
「………エルマスさん、もしかして俺に声を掛けたのはコイツ(車)で向かいたかったからですか?」
「さぁて、なんのことこなー?」
絶対そうだ、快適さを覚えてしまったな……
今回長門砲の所に向かう人員は前回も行った俺、リン、エルマスさん、ミアさん、それに
「はじめまして。物品検査、調査担当のカイです。よろしくお願いしますね。貴方の事はよく聞いております」
今回は長門砲の検査、情報収集が主なのでその担当のカイさんの計5人で向かうことになった
「こちらこそはじめまして、ちょっと狭いと思いますのでご了承ください」
「ありがとうございます、聞いてはいましたが凄いですね」
「いえいえ、俺の世界での一般家庭用なので内装はかなりシンプルですよ」
「あ、そうではなくて、内装も凄いですが、一番驚いたのは『その前にある金属体の内部』です。貴方の世界の技術者はとんでもないですね。まさか爆発力をそのように使うなんて」
「…えっ!?」
「………!?よくわかりましたね、まさかそれが」
「ええ、僕が得意とする透視魔術です、物品の検査には主にこれを使います」
「彼はこの魔術に長けててねー、この魔術を使わせたら右に出るものはいないんだよ」
凄いな、まるで歩くCTスキャンだ
非破壊検査も真っ青だぜ
「ここで話してたら日がくれそうですね…続きは移動しながらでも話しましょうか」
~~~~~
長門砲の所まできた
「………これですか、またとんでもなく巨大ですね………船に積んでいたと聞いていたんですけど」
「ええ、これを4つ積んでいました………2隻いましたが、片方は海の底、もう片方は原因不明の爆沈を遂げています」
「そうなのか……わかった、とりあえず内部を調査しよう」
そう言ってカイさんは紙を取り出して何かを詠唱し始めた
「……!?紙が!?」
すると紙が光りだしてペンなども使わずに絵が描かれ始めた
どういうことなのコレ
「エルマスさん、これは」
「ああこれね、彼の魔術の1つなんだって、なんでも『透視の魔術で現在見ているものをそのまま忠実に絵にできる』とかなんとか」
なにそれすげぇ
CTスキャンのデータをそのまま現像してる感じか
「よし……っと、これで完了ですね。流石にどれがどういう動きをするのかは実際に動いてないとわかりませんが……」
「流石にこれは動かせないな、搭載してたヤツがヤツだし」
「そうですか……残念です」
「……ちなみに俺が言うのもアレですが、こんな骨董品調べてどうするんですか?」
「いやいや、貴方から見れば確かにスクラップ同然の骨董品でしょうけど、我々からしたら未知の技術の塊ですよ、それもちょうど我々が開発中の大砲の発展型ですからね」
確かに彼らからしたら大砲の発展型であるこの主砲はいい情報源だ
だが恐らく彼らが開発してる物とは決定的に違くてこの状態じゃ確認できないモノがある
『砲弾』だ
コイツばかりは実際に動作を見せないとどうにもならんぞ……
しかし、流石に戦艦長門を動かす人員1900人なんて集められんし、情報は頭の中にあってもそれを全員に指示できる気がしない
………できるのなら動かしたいけど
エルマスが何かに気づいた
「……誰か近くにいるね、数は二人、こっちに向かってきてるけどまだ気付かれていないみたい」
「よくわかりるな……どうする?隠れてやり過ごすか?」
こんな所に来るなんてどこのどいつだ?
「いや、皆はここにいて、私が確認してくる」
「了解、後ろは任せてくれ。……えーと、お二人は戦闘は?」
俺は持ってきていたSR-25を構えながら二人に聞いてみたが……
「あ、僕、非戦闘員です」
「私も……」
「……デスヨネー」
知 っ て た
~~~~~
………何故かエルマスさんがそのままその二人組を連れてきた
道に迷ってただけだったのか?
「いや、攻撃してこようとしてたから『何か行動をしようとしたら私の背後から見えない攻撃で殺されるよ』って言ったら顔真っ青にして素直に投降しただけだよ」
「俺か!?」
確かに不可視(レベルの速さの)の攻撃で死にたくはないわな
てかエルマスさんに銃の事言ったか?
いや、言ってない、恐らくはモンスター狩りまくった時の情報を入手したんだ
フェニー村の情報を入手したあたりに
マジで恐ろしいな
「一応自己紹介しとくね、私はエルマス。ルーバス軍のザギ西部隊隊長だよ、こっちは同じくルーバス軍のカイとミアちゃん、それとリンちゃんと臨時協力している永一くん、……君たちは?」
エルマスが簡単な自己紹介をしてくれた
臨時協力?そういう間柄になっていたのか
「えっと、私はサラです、こっちはミランです」
「…よろしく」
「どうしてこんな所にいたのかな?何か事情でもあるの?」
「お願いがあります」
「私たちを匿ってくれませんか?簡単に言うと私達は逃げてきました」
唐突にサラはそう言ってきた
~~~~~
「逃げてきた?何処からだ?」
「ある組織ですね、私たちは孤児として拾われたんですが嫌気が差して……隙きを見て逃げ出してきたんです、その時に『ある物』も奪ってきました」
組織から逃げ出す?
ブラック企業だったのか?
「その組織ってのは……」
「ええ、『教団』って言うんですけど」
「「「「「!?」」」」」
教団だと!?
まさか逃亡者に会うとは
「ちなみにその『ある物』ってのは何なんだ?」
「かなり大きいですが、金属製です、それ以外は全くわかりません」
「かなり大きい……?」
サラは丸腰に近い
一体何処に持っているというのか
「でも君丸腰だよね?一体何処に」
「あ、私収納魔術が得意なんですよ」
収納魔術、そんなのもあるのか
ここで反応したのがカイさんだった
「収納魔術!?随分と珍しい魔術を習得してるんだね」
「そんなに珍しいんですか?」
「かなり習得できる人が少ない魔術でね、体質も影響してるっていわれているんだ」
「なるほど……サラだったか?ちょっとソレを見せてほしいんだが」
俺は彼女が教団から奪ってきたというモノが気になっていた
デカい金属塊……もしかしたらな
「えっと、これです。……ただ私たちもこの大きい物が何だかわからなくて…今ここに出しますね、かなり大きいので注意してください」
そう言って彼女が何もない所に呼び出したそれは……
かつてナチス・ドイツと戦っていたソ連が対Tiger用に作り出した
「IS-2重戦車……」
IS-2だった
~~~~~
俺の呟きに驚いたのはカイさんとサラ達だった
「永一くんはこれが何だかわかるのかい?」
「これは俺の世界の別の国が作った兵器です、……といってもコイツももう70年以上前の骨董品ですけどね」
「ってことはこれは使い物にならないんですか?」
「いいや、この世界では充分に通用する」
むしろオーバーテクノロジーだ
ほぼ音速に近い速度で飛んでくる122mm砲弾(物理特化)なんて剣と弓矢と魔法しか無い世界では強力すぎる
「海と空は聞いてましたが、陸にもこんなのがあったんですね……ホント一体何と戦っていたんだかよくわからないですね」
「なぁに、人間同士の戦争だよ、『あの国あんな強力なの作りやがった!あれに対抗できなきゃ攻めてこられた時に負けかねん!あれを撃破できる強力なの作らなきゃ』っていうのを繰り返した結果だ」
お陰で技術力はとんでもないことになったわ
「魔術とかってなかったんですか……?」
「一部地域では『魔女狩り』なんてものもあったらしいが、魔術なんてものは無かったな、だからありとあらゆるものを物理的、科学的に可能にしなければならなかった。……俺がいた世界は今では魔術無しでも空を飛べるし海の深いところまで潜れることもできる」
言い方はアレだが、脳筋しかいなかったんじゃなかろうか
「何事も物理的に解決する」とか化学だろうがもう脳筋にしか見えない
神秘的な力は使ってないからな
化学も元々は「世界に存在する法則、定義に沿った物」だしな
魔術みたいに「定義に当てはまらない不思議な物」では無い
「…というか、帰りどうするんだい?乗ってきた物の定員は5人までだろ?」
……そういえばそうだった
乗ってきたステージアは5人乗り、今現在ここにいるのは俺、リン、エルマスさん、カイさん、ミアさんに合わせてサラとミランが加わって7人、ステージアの定員オーバーだ
(ちなみに会話に参加していないエルマスさんはIS-2を興味深く見て回っていて、ミアさんはそれに付き合わされている)
「……操縦できるかはやったことが無いからわからないが、このIS-2も使って帰ろう。流石にステージアよりかは足が遅いし乗り心地は悪いし狭いし空調もないし視界もそんなに広くないがその分安全だ。ステージアの運転はリンに任せる」
「随分ボロクソに言うんだね」
「戦闘特化で民間向けでは無いから仕方ない」
リンなら確実に運転できるからな。以前ノリノリで重機操縦してたので確信した
「いいんですか?」
「構わないさ、その時はエルマスさんとカイさんとミアさんをザギに送ってくれ。俺はこのIS-2でサラとミランを連れてそのままフェニー村に向かう」
むしろこの二人にとってはそれが一番ベストだろう
ザギにいる軍にも少なからず教団の息が掛かっているヤツはいるだろうから、行方がバレるのはマズい
「カイさん達は軍にこの二人が『遭遇戦になって死亡した』と報告してもらえないだろうか?軍内部にも教団の人間がいるだろうし」
「なるほど。そういうことなら了解したよ」
「……と言うことだ。『教団に属していた』君達は今ここで死んだと言うことにする。これからの君達は自由だ、フェニー村までは送るがそれからの君達の行動に制限は無い」
「……ありがとうございます!!」
「それじゃ、帰るか。リン頼むぞ」
「了解ですっ!」
やけに楽しそうなリンに軍の3人は任せて、俺はIS-2の状態をチェックするのだった
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます