12.ルーバス軍ザギ防衛支部
ー12.ルーバス軍ザギ防衛支部ー
俺はリンの指示に従ってこの街にある軍の施設に向かって車を走らせていたら
「……人が乗っているのか……?ッ止まれ!何者だ!」
壁にいる兵士に止められた
「キースさん、事情があるんで施設まで護衛をお願いできますか?」
「リン!?お前、軍を辞めたんじゃ…そういえばコイツは……」
「ウワサのヤツです。それに私はまだ正式には辞めてませんよ!隊長に話があるので、お願いします…あ、永一さん、紹介します、この方はキースさんです」
「キースだ、よろしく……ここザギネ……ザギ南部隊の隊長をしているよ」
どうやらまだ改名に慣れていないようだ
数年前とはいえいきなり名前が変わったんだ、無理もないか…
「永一だ、よろしく……一応コレの所有者でもある」
「ウワサのヤツだな…わかった、護衛は俺が引き受けよう、……おいお前ら!後は頼んだぞ!」
「「「はい、部隊長」」」
~~~~~
正直彼が人払いをしてくれなかったらこの街道車で走れなかったと思うよ
もともと人が多い街だし
てか歩行速度に合わせてるから左脚が……
まだそこまで慣れてないんだ……ガックンガックンいったらゴメンよ…
「ここです。ここがルーバス軍ザギ防衛支部です」
「ここが……」
防衛ってことは守る専門ってことか
確かリンもそう言っていたな
まるで自衛隊だな
「あ、車何処に置いておけばいいんだ?」
「うーん……、あ、いつも訓練している訓練場の隅に置かせて貰いましょう」
じゃあこの辺りに停めてっと
念のためカギはロックしておこう
「キースさん、私たちはこれから隊長に会ってくるんで、く れ ぐ れ も 他の方達に触れさせないようにしてくださいね!」
「お、おう……」
おいおい……キースさん引いてるぞ………
~~~~~
「ここが隊長室になります」
「ほう……凄いな」
建物の中はなかなか綺麗に纏まっていたが、隊長室は何やら社長室みたいな雰囲気が扉から伝わってくる
………社長室なんて実際に見たことないけど
コンコン
「……入れ」
「失礼します。騎士リン・クーランス、只今戻りました」
「ご苦労。………彼が?」
「ええ、"例のモノ"の所有者です」
男性がこちらを見る
服の上からでもわかるレベルの盛り上がった筋肉、鋭い眼光、左頬にあるキズなど彼がもともと戦場で戦っていた男だと一目でわかった
歳は30~40代くらいか
「はじめまして、私はバーチス・レイモンドと言う。ここの隊長をしているよ」
「こちらこそはじめまして、俺は金山永一だ」
こうして俺と隊長・バーチスとの会談が始まった
──そしてこれが後に『難攻不落』と呼ばれるようになるザギネルラの軍団長との初めての邂逅であった
───その頃広場では───
「ほう……これがウワサの………」
「一体なんなんだ?これは」
「ウワサのヤツだろ」
「これが馬より速いというのか……」
「ええい散れ!お前ら訓練はどうした訓練は!!!」
「「「それよりもウワサのモノの方が気になるし、俺達は技師だぞ!!!」」」
「あー!早く終わってくれぇー!!!」
キースの叫びは一番届いて欲しい人たちには届かなかった
~~~~~
「──ではアレは渡せないと?」
「ええ…あまり戦争の火種を産み出したくないですし」
結論から言うと、彼が車に興味を持った理由が「その速さで前線の負傷兵を素早く回収、後退させる事で迅速に応急手当てが出きるのではないか」というものだった
負傷者を助ける為、味方の被害を抑える為に
だが俺にも渡せない理由もある
主な理由が3つある
まず1つ、『前例を作ってしまうこと』
これは「何故向こうに渡してこっちには渡さないのか」という事を未然に防ぐ為である
何よりこれでも戦争になりかねない
そして2つ、『そもそもアレは救護用車両じゃない』
わかる通り、インプレッサは乗用車だ
とてもじゃないが要救助者を載せて戦線離脱なんてできない
防御力もないに等しいし的にされて終わりだ
『インプレッサのトンネル崩落事故』?
アレは奇跡だ
最後に、『メンテナンス』だ
機械にはメンテナンスが必要だ、これを怠れば確実に壊れる
部品の整備もそうだが、油脂類や消耗品の交換もメンテナンスに該当する
そして恐らくこの世界は石油という概念が発見されていない
そんな整備できる環境にない状態で更にメンテナンスのメの字さえ知らない人たちにおいそれと渡すわけにはいかない
「そうか、それは残念だ。………そうだ、君は別の世界から来たと言っていたね?………向こうの世界にも争いはあるのかい?」
案外あっさり引いてくれたな
どうやら最初から譲り受けられるとは思ってなかったらしいな
ちなみに俺が別の世界の人間っていうことは昨日、リンがうっかり話しちゃったらしい
このうっかりさんめ
「無い、とは言い切れませんね………小規模ながら紛争を起こしているところはあります」
「君は争いが完全に無くなると思っているかい?この世界でも向こうの世界でも」
「無くなることはないと思います、争いっていうのは意見の食い違いから始まることもありますし」
平和な日本でもきのことたけのこで戦争してるんだ、無くなるなんて事はない
「君はこの世界にある君の兵器の回収に来たのだろう?心当たりはあるのかい?」
「いえ、全く。どの年代の兵器が召喚されたのかは大体聞かされましたが…」
会談といってもバーチス隊長からの質問に俺が答えている方が多い
「ふむ……参考にならないかもしれんが、この世界には人間の他にエルフやドワーフ、獣人族などさまざまな種族がいて『亜人連合』と言うものを作っている、我々人間とはまだ対立した状態になっていて、向こうの情報がほとんど流れて来ない状況だ」
「つまり、貿易もなされていないんですか?」
「ああ、何故か『欲しかったら奪い取る』という思考が定着してしまっていてな、彼らの土地にも何かあるかもしれないがわからないんだ」
……蛮族か何かですかね?
「ああ、そういえば近くの森に巨大な金属体があると報告を受けたことがあったな……我々は『灰色の塔』と呼んでいるが…調べてみるのもいいかもしれないな」
おや、有力な情報が手に入ったぞ
「ありがとうございます、とても参考になります。我々はこれから様々な所に出向く気でいますが、その事にも目を向けて動いて行こうと思います」
「そうか、……それとリン君から聞いていると思うが、帝都の親衛隊のボロスという男が何かを企んでいる。君を巻き込みたくはないのだが、目的が兵器集めだ、くれぐれも注意してくれ」
ザギネルラの機密文書について脅されてるとは流石に言わないか
ただ、兵器集めで巻き込まれる可能性アリ……か
これもちょっとした情報だな
「わかりました、肝に命じておきます」
「リン君もこれから彼に付いていくのだろう?」
「はい、短い間でしたがお世話になりました、隊長」
「いや、別に辞めなくてもいいんだぞ?」
「え?ど、どういうことですか?」
「君はもともと軍直属の技師になりたかったみたいだし、義務である『入隊後3年は騎士として訓練を受けること』というのもまだ1年目だったみたいだしな。まだ本心は辞めたくはないんだろう?」
「はい……」
ルーバス王国の軍にはある義務がある
それが『入隊後3年間は騎士として訓練を受けること』というものだ
これは「どの役割になっても戦えるように」というものらしい
この期間を過ぎても騎士であることはできるが、リンの様に騎士用の武器兵器を開発する技師を目指したり、諜報や作戦立案等の役職に転属することも可能だそうだ
魔術職も関係なく最初は騎士だそうだ、しかも他と違って近接が残念な者が多いから、みっちり鍛えさせられるのだとか…
「─なら君には特別任務を与える」
「と、特別任務…ですか?」
「彼の護衛だ、彼が集めようとしている兵器達は恐らく今の我々が生きている間には到底到達することのできない次元の技術の結晶達だ、技師志望ならいい勉強になるんじゃないか?それに…」
隊長は俺をチラッと見て
「彼はどうやら争いとは無縁の所から来たようだ、不測の事態にならぬ様に護ってやるのも騎士の努めだしな、それなら辞めなくても済むだろう?」
「………いいんですか?」
「構わんよ、これからもより精進してくれ」
「あ、ありがとうございます!隊長!」
「君たちの武運をここから祈っているよ」
~~~~~
隊長との会談が終わって広場に戻ってみたらキースがぐったりしていた
話を聞くと「他の兵士の質問攻め」にあったらしい
なんか………すまん
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