第二話 村人転落

 日課の荒振り千本を済ませると、辺りはすっかり暗くなっていた。

 ふぅ、と一息つく。


 ティナには本当、悪いことしちまったな。

 だがあの豚のような養母がグータラするための餌代を稼ぐために俺の貴重な時間を使って働くなんて、アホらしくてやってられねぇ。


 だからといって、姉の時間なら使わせていいというわけではないのだが。


 ――本当、すまねぇ。ティナ。


 そうだ、俺がいずれ剣一本で身を立てられるようになったら、楽させてやるからよ。だから今は許してくれや。



 帰宅すると、貧困の極みにある我が家には似つかわしくないご馳走がたんまりと食卓に並べてある。


「これは?」

「ただいま帰りましたの一言もないのかい、目ざとい餓鬼め。お前にやる分なんてないよ。さっさと夕飯の支度をおし!」


 なんで俺に。そういうのこそ姉の領分だろう。

 ティナ、支度を、と家の中を見渡して気づいた。


「……ティナは?」

「あん? あの子がどうなろうとアンタにゃ関係ないよ。いいから夕飯を――」

「売ったのか」


 これで気づかないほど鈍感ではない。


「あぁ売ったさ。だからどうした? この貧しい村じゃ労働力に乏しい女を養う余裕はないんだ。売って金になるならそれでいいんだよ」


 ――この豚が!!


 棒切れを手に襲い掛かる。


「うわっ!! なにすんだいこの餓鬼!!」


 生前のイメージならこの一撃で地に伏しているはずなのだが、力がなさすぎる。豚は少しひるんだだけで、すぐさま棒切れを掴んで俺を壁に叩きつけた。


「がっ……!!」


 ………………


 …………


 ……


 目を覚ますと、俺は縛られていた。


「気が付いたかい、穀潰し」

「このっ……豚がッ……!! 殺してやる」

「なんて恐ろしい目をすんだい、この餓鬼は……ふん、まぁいい。こんな鬼の子、今にあたしの手にゃ負えなくなる。もういいよあんたは。今度来る奴隷商に売り飛ばして他の子と変えてもらうさ」

「……」

「奴隷はキツいよぉ~。今、魔界との間に壁を建設しようとお偉い方が頑張ってるらしいからねぇ。死ぬまでこき使われるだろうさ。安心しな、飛び切り元気のいい子だとしっかり売り込んであげるから」

「そいつぁありがたくて涙が出るぜ」


 宣告の通り、数日後に俺は売られた。




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人魔名鑑

【No.4】

 名 :ティナ

 Lv:1

 年齢:12

 種族:人間

 才能:不明

 能力:なし

 武装:なし

 国籍:神聖アルビオン帝国

 身分:村人

 所在:ダーネス村


【No.5】

 名 :不明(クリスの養母)

 Lv:2

 年齢:43

 種族:人間

 才能:支配才能(クラスC)

 能力:なし

 武装:なし

 国籍:神聖アルビオン帝国

 身分:村人

 所在:ダーネス村


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