第二話 彼の名は

 えっと、名前のこと、いつきりだそう。私はずっとその事を考えてる。彼は今、すぐ隣にいて静かに本を読んでいる。


告白された後、彼が帰りを送るとのことだったので委員の仕事を待ってもらう。人は来ないんだけど、図書の先生は第1図書室で手一杯だから一時間程開けて帰ることを申し出ている。静かで最高の読書場だしね、ここ。あと、宿題も学校で終わらせて帰ることができるし。


うう~、名前のことを切り出せないかなあ。名前って知ってから親しい(?)関係になることしかなかったから気になる~。本当、どんな名前なんだろう?クールだから涼真りょうまとか、珍しい名前でいけば玲於れおとか、すっごい渋くて弥三郎やさぶろうとか?うーん、人の名前予想って案外面白い。


「おい、もう閉める時間じゃないのか。」

 気づけば、もう開けて一時間経っていた。

「あっ、ありがとう。急いで閉める。」

「気にするな。今日からなずなは俺の彼女だろう?」

「あ、そのことなんだけど...」

「な、なんだ。」

 私をまっすぐに見つめつつも、彼はどこかぎこちない。もしかして、緊張してる?

「えっと今更なんだけど名前、教えて?」

 そう言った私をポカンと見つめる彼は、ちょっと間抜けのようだけど可愛かった。

「俺のことを知らない?」

「えっとぉ...」

 ヤバい、ヤバい、怒らせた?

「...か」

へっ、今なんて言った?

「何でもない。」

 そう言って彼は私に背中を向ける。


せいだ。」


「へっ?いま、なn「俺の名前、新倉にいくら せい。誓うってかいてせいって読む。」


「新倉くん。あの、「誓でいい。」


えっ、いきなり下の名前呼び!いやぁ、かれかのって感じするけど、さすがに早すぎない!ってか、私の心の準備がぁぁ。

チラッと彼を見てみると、フツーに窓締め手伝ってくれてる。


名前呼びって、ハードル高くない?

...とりあえず、帰るか。

「よし、窓締め全部終わったから鍵職員室に返しにいくね」

といいつつ、新倉くんを追い出し、鍵をかけソッコーでその場を去る。

職員室まで行って下駄箱行くのに15分かかる、この校舎の無駄な広さはなんなんだろう、と思いつつ鍵を返して下駄箱に向かう。


はぁー、家帰ったら今日出た数学と英語の宿題しなきゃなー、なんて考えながら下駄箱に着くと、新倉くんがいた。

「あれ、新倉くん、待っててくれたの?」

「ああ。それより俺のことなんで誓って呼ばないんだ?」




わ、忘れてた。名前呼びがハードル高過ぎて心の中でずっと朝倉くんって呼んでたから...

深呼吸して、よっよし、いける

「せっ、誓...くん、でダメ?」

さすがにくんづけじゃないと私の精神が保たれない。

「あっ、ああ。いいぞ」

 そういいつつ、顔を背ける彼の耳はとても赤くて、あぁ、可愛いなぁ!

「誓くん!改めてよろしくお願いします!」

「ああ、こちらこそよろしく頼む、なずな」

そう言ってふっと笑う誓くんに心を射抜かれてしまった私なのでした。

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こんな毎日、心臓が持たないよ-! 花楓 @Angraecum

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