金烏の舞:玉兔の影踏み
宝石店にバラクラバを被った強盗が押し寄せた。
7人の強盗は大声を張り上げ周囲の客を切り付け始めた。
武装の義務化以降、一般人の抵抗が強くなったことで犯人側の攻撃性は増した。
やられる前にやれと手でも足でも切り付けて反撃不能に追い込んでから事を始める。
手当たり次第に壊される店内、出入り口を破壊した車と店内を往復する犯人たち。
リーダー格の合図で犯人たちは集合した。6人の集団は話し合う。
「引き上げる、早く呼んで来いっ!」
「あいつまさか奥まで深入りしたのか?」
「欲張ったな、スピードが命だってのに」
「……。」
「……。」
「……。」
強烈な違和感。メンバーの一人の腹から短刀が突き出ている。
その背後の男もバラクラバを被っている。その目つきに見覚えは無い。
その男が一歩下がると、背後から短刀で刺された犯人の一人が倒れた。
四対一。
店外に逃げた男を犯人たちが追う。
振り向いた男と追いついた犯人二人が睨み合う間に、後から追いついたもう二人が側面や背後を狙おうと迂回する。その迂回する一人を男が奇襲、その攻防の隙を逃さない他の三人は男に殺到する。
奇襲された一人は味方の挟撃を成功させるためセオリー通りに防ぐことに集中、男は連撃しながらその側面に回り込んでいく。挟撃狙いの三人が殺到する所で男は一人目が突破できない。
狙われた一人を囮に側面から無防備な男に切り込む犯人たち、その犯人自身の無防備さを男は作った。
殺到した三人は、回り込む男に追いつく様に移動しながら攻撃していた。
囮しか見ていない男が突然自分に向けて突進しても犯人は急には止まれない。
咄嗟に減速しながら反撃姿勢をとった瞬間に、その三人は玉突き状態になった。
衝突によって姿勢が崩れた瞬間に一撃。味方に挟まれた状態で咄嗟に攻撃しようとした犯人にも一撃。
戦闘不能になった瞬間の二人が邪魔で視線がほぼ切れている三人目。
男は流れのままに主導権を活かし攻め続ける。
三人目は急変した状況からの男の突進に驚き咄嗟に距離を取ろうとしたが、次の瞬間には防御を強いられた。
逆に言えば男も防御されて移動と攻め手が鈍った。
数的優位が目の前で崩れていく中で、鈍った瞬間を逃すわけにはいかない。
最初に狙われ囮となっていた一人目は、反撃に出てから最初のチャンスとなったこの追いつけるタイミングで男を仕留める事を心に決めていた。
三人目に防がれ移動が鈍った男の背中に最速で刺突する。
その瞬間の犯人自身の無防備さを男は作った。
男はあらかじめ集中し背後から接近する足音や衣服の摩擦音、気配で一人目を察知。
ギリギリまで引き付けた上で正面の三人目との攻防を放棄。
横方向へ後ろ向きに全速で移動する。
防戦する三人目から横へ離れる男を、曲線を描く様に追う一人目。
下がる男は、正面に追いついてきた一人目の移動ルートが描く曲線の内側へ入り身。
遠心力、慣性、ほぼ全速での追跡の中で足捌きを急激に変える事の難しさ。
入り身が成功した瞬間、これらの条件が一人目を縛った。
男は、セオリー通りに数的優位を保とうと至近まで追って来ていた三人目に向けて、無力化した一人目を転倒させた。
衝突の瞬間の硬直の隙を突かれた三人目も間もなく無力化され犯人たちは全滅した。
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