無明の眼光

「まあ昔話だけどな、とにかく武装が義務化される以前は喧嘩屋だったんだよ」

「へえ、そりゃまた」

「はっはっは、じゃあ現代に帯刀令を考えた連中の狙いは良かったわけだ」


「いいやそうでもねえよ、ニュースでも結構やってる。知ってんだろ?」


 データは多く出回っている。抑止力が抑えた暗数と武装が絡んだことで悪化した件数など、義務化によって治安に好影響があったかは専門家の間でも意見が割れている。


「そうだ、強いやつの特徴とか教えてくれよ」

「それ聞きたいな、それだけやれば、やばい奴の見分けもついてくるだろ」

「そうだな……」


 曰く、見てわかるやつは見ればわかるんだから避けておけば話はそれで済む。体つき、目つき、人相、気配、服装、人数。


「本当にマズい奴はな、やられてからまずかったんだと分かる」


「今思えばやられたと分かるだけマシだった」


 だからやめたんだよと続ける元喧嘩屋の視線は床のどこか遠くを見ている。


(何の話だよ、武勇伝ですらない何かを聞かされるこっちの身にもなってくれ)

(じゃあなんで話したんだよ(笑))


 二人の沈黙の意味を今の元喧嘩屋は察知できる。後悔の中で過去の自分を救おうと繰り返しもがいた末の結論。勝負は鞘の内にある。抜刀しても、それはただ刀と共に結果も出るだけでしかない。本当は向き合った時に、向き合う前から、既に在る。


 見えないから喧嘩をするし避けられない。何かのきっかけで見えるようになればそれと目が合う。その時が恐れの始まりで、大人としての人生の始まりだと元喧嘩屋は独り考えている。周囲の、それこそ聞いてくれている二人もとっくに通過した地点だとも気付かずに。

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