【04話の2】 イルマタル・ロイスターなんて名乗りましょう

 

「大丈夫ですか?」

 唖然としている女性たちに、近寄り声を掛けますと、

「助けていただき、ありがとうございます、私どもはこの先の町の者、私はこちらのお嬢様の侍女長をしている、ヴェロニカ・バブーリナと申します」


「それはご丁寧に、私は……」

 私の名前でしたね、男性の名前というのはまずいですね、適当に女神の名前でも拝借しますか。

 

「イルマタル・ロイスター」

 ロイスターとはフィンランド語で『輝く』という意味、イルマタルとはフィンランドの女神の名前、意味は原初の世界の大気の乙女ですよ。


 それにしても適当な名前なこと、ただ後ろにいる『お嬢様』は、驚いたような顔をしました。

 この娘さん、フィンランド語が分かるのでしょうか?

 

「それより負傷している方の治療をしましょう」

 私は重症の女性に歩みよります。

 

「この方以外に、生きている方はおられますか?」

 私の問いかけに、ヴェロニカ・バブーリナさんは首を振りました。

 

 重症の女性は、アキレス腱を完全断裂していました。

 ヒラメ筋と脛骨神経も切断状態、命に別状はないですが、歩けないでしょうね。


 きっと『お嬢様』を守るために無理をしたのでしょう、アキレス腱の完全断裂状態、縫合手術はこの世界では不可能……それより神経のダメージが……あとは……

 

「この方はアキレス腱の完全断裂、その上にヒラメ筋と脛骨神経も切断されています」

「命には関係ありませんが、もう歩けないでしょう」

「アキレス腱の完全断裂だけなら、なんとかなるかもしれませんが、神経の切断は……」

「とりあえず痛み止めと、足を固定しておきます」

 

 添え木を出して固定、鎮痛剤を取り出します。

 なんとか個人購入のサイトを見つけ、取り寄せできたトラムセットを服用させます。

 モルヒネは取り寄せ不能……頑張れば取り寄せできるかもしれませんが、私の手に負えない代物です、その気もありませんが。

 

「これはかなり危ない薬、次は飲まないほうが良い」

 薬を真っ先に飲ませましたので、落ち着いたのでしょうね、重症の女性が聞いてきました。

 

「この先、歩けないのですか?」

「松葉づえを突けば、移動は出来るでしょう、しかし負傷した足で歩くことは、この先できないかと思います」

 

「イルマタル様!なんとかなりませんか!姉様を治せないでしょうか!私で出来る事ならなんでもいたします!お願いです!」

「姉様?」

 

 重症の女性が、

「私たちは姉妹だ、ただ私は妾の娘、妹は大公家の第一公女、身分が違うのさ」

「申し遅れた、私はエヴプラクシヤ・モスク、妹はマトリョーナ、このあたりの領主、モスク大公家のものだ」

 

 たしかに顔かたちは似ていますが……エヴプラクシヤさんの耳が……

「私の母はエルフで父の所有物、だから……」

 女奴隷とはいえず、妾といったのですか……

 

「イルマタル様!なんとか!」

 マトリョーナさんは凄い形相で、詰め寄ってくれますが……

 

「マトリョーナ、無理をいうものじゃない、死ぬ訳ではないのだ、杖をついて生活すればよいだけだ」

「お前を守れたのだ、良しとすべきだ、父もそういうだろう」

 

 聖天様、ひょっとして、このことを知っていたの?

 千里眼をお持ちなのですね。

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