第3話 幼馴染の最初のお願い ①
朝から幼馴染の莉々に押し倒される嬉し恥ずかしのイベントがあったがその後何事もなく莉々と母さんの3人で朝食を食べた。
莉々の料理は贔屓なしにとても美味しくこれを毎日食べているんだからよく悪友やクラスの男子などに嫉妬されているがこれが幼馴染の特権だと言い聞かせている。
実際、俺も莉々と幼馴染ですごく恵まれていると思っている。
ここで一生分の運を使ったと言っても過言ではないほどに毎日が幸せだからだ。
莉々が料理を作り始めたのは、俺たちがまだ小学生の頃の話で、俺の親が共働きになり夜遅くまで帰ってこないことが多く、一人で晩御飯を食べる日がよくあった。
そのことを莉々に話したことにより、莉々の母親である楓さんの耳に入り、一人でご飯は寂しいだろうと楓さんからの提案で晩御飯の時だけ、莉々の家で御馳走になることになった。
家族ぐるみで食べに行くときはあっても、楓さんの作った料理を食べるのは初めてで楓さんの手料理を楽しみにしていた。
楓さんが作ってくれた料理はオムライスで卵料理が大好きな自分は感激し、さらに美味しくかなり絶賛した。
「お母さんばかりずるい!」
その時、莉々は激怒した。
なんで怒っていたのかよくわからなかったが、その翌日から莉々は晩ご飯の時間になると母親の料理の手伝いをするようになっていった。
最初は火や包丁は危ないからお米の炊き方やピーラーでの簡単な皮むきなどコツコツできることから手伝いをはじめ、学年が上がるにつれてできる幅も広がり、中学生に上がる頃には一人で料理を作れるようになっていた。
そこから今でも続いている、一番最初のお願いごとだ。
『とーま…お願いがあるんだけどいい?』
『お願い事?』
『嫌だったらいいんだけど…お弁当作ってみたの食べてください!』
中学生に上がるにつれて変わったことといえば給食だ。
俺が行っていた中学校は、給食ではなくなって弁当か購買にあるパンを買って食べるという感じだ。
まだ中学生活が始まって間もないこともあり、最初の頃はほとんどの生徒がパンを購入していた。
かくいう俺もその一人で、そもそも親が共働きで土日しかまともに顔を合わせないのでこれから先もパン生活だなっと感じていたら莉々からお弁当を渡された。
莉々は緊張しているのか普段使わない敬語を使ってお願いしていた。
『お母さんよりかはまだうまくないけど、一人でご飯作れるようになったのだから食べてほしくて…』
『いや莉々ありがとな!これから毎日パン生活かって悲しみに浸っていたところだったから初日だけでもご飯食べれると思ったらとても嬉しいよ』
『そうなの?まだ練習中で美味しくないかもだけどもしよかったらこれから毎日作ろうか?』
『晩御飯の時、楓さんと一緒に作っていたとはいえいくつか莉々一人で作ったものもあったろ?かなり美味しかったよだから自信持てって!あとな毎日作ってくれるって言ってくれるのは嬉しいけどただでさえ晩飯もお世話になってるんだ。これ以上はさすがに迷惑かけれないよ。』
『私が好きでやってることだから迷惑なんかじゃないよ!』
『仮ばかりできる一方でなにも返せないし、それにその弁当の具材も親の金で買ってるものだろ?』
『うっ…そうだけどじゃあ自分のお小遣いで買ったら食べてくれる?』
『そういうことが言いたいんじゃなくて…そもそもなんでそんなに食べてほしいんだ?別に俺を餌付けしても得になることなんてないだろ?』
『そ、それは…えっと、そう!花嫁修業だよ!!だから私の弁当食べて毎日感想聞かせて!』
『花嫁修業って…まだ中学生に上がったばっかだろ…それに花嫁修業って莉々って好きな奴がいるのか?』
『………いるよ』
『じゃあそいつに食べてもらったらいいのに』
『下手な料理食べさせられないし、だから味見してほしいの!』
やけくそ気味に言葉を放つ莉々であったがその顔は照れていたり必死な顔になっていたり百面相状態だ。
だが、どの顔も真剣であり食べてほしいという気持ちが伝わってくるものがあったため俺は交換条件を出して承諾した。
『……わかったよ。その代わり交換条件な』
『交換条件?その条件って何かな?私頑張るよ!』
『頑張らなくていいから!まず一つ目は毎日もらうパン代を弁当代として渡すから受け取ってくれ』
『そんなことでいいの?』
『条件が一つとは言ってないぞ』
『じゃあ次の条件はなにかな!どんなことでも受け入れるよ!』
『明日から晩飯は自分の家で食べるよ。』
『え…?待ってなんでそうなるの!』
『さっきも言った通り世話になりすぎているのもあるけど…これは前々から思ってたことなんだよ。幼馴染で仲がいいとは言え、俺は他人だからいつまでもよそ様の家で迷惑をかけることはできないし、俺自身気を使ってしまう…だからもう終わりにしようって…このことは楓さんには前々から相談してたんだよ。』
『そうなの?お母さんそんなこと一言も言ってなかったのに…』
『いきなりでごめんな』
『…………条件はそれだけ?』
『そうだよ。』
『わかった。でも一つだけこちらからも条件加えていい?』
『無理な内容じゃなければいいよ』
『これから先1日1回お願いごというから叶えてほしい。ただ嫌だったり不可能なことはできるだけ言わないつもりだけど、嫌だと感じたりしたら断ってくれてもいいというルール付きで』
『…今までのお礼もあるし、無理難題じゃなければ叶えるよ』
『ありがと!あと…今日で”私の家で食べる食事”が最後ってことお母さんに行っとくね』
『あぁ、ありがとうお願いするよ』
『じゃあこれ私が作ったお弁当だからあとで感想聞かせてね!』
それだけ言うと莉々は人気の少ないところへ歩いて行った多分楓さんに電話して先ほどのことを伝えてくれるのだろう。
自分から終わりにしたいと言ったのに寂しさが込みあげてくる感覚がある。
前々から気を使うのに疲れたとかは本当に感じていたしこれ以上迷惑かけたくないという気持ちもある。
だがこんなに悲しい気持ちになるのはきっと…
(あの家の温かさに救われていたんだな俺は…)
そう思い静かに教室に戻るのであった。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
教室に戻り、莉々からもらった弁当を広げた
中は色とりどりで初めて作ったとは思えないほど全てがおいしそうに見えた。
(これ本当に全部莉々が作ったのか?)
そう思いつつも実際にずっと料理の練習をしている莉々の姿を毎日見ている。
その努力がこうして目の前に現れていると思うとこの弁当を初めに食べるのが俺で本当にいいのかという気分になってくる。
莉々には好きな人がいてその人に食べてほしくて練習している。
料理の練習といえば小学生の頃からしていたしその頃から好きなのだろう
だいたいの人が小学生から中学生にそのままあがるので対象はこの学校の1年だと思う。
莉々は可愛いし、明るくみんなから好かれている。
そこに今料理という項目が加わり更にハイスペックになった。
莉々のような女の子早々いないと思う。
そんなことを考えていると後ろから声がかかった。
『あれ?冬馬パン買いに行ったんじゃないのか?』
『ん?あぁ雄二かパン買いに行こうとしたら途中で莉々が追いかけてきて弁当くれたんだよ』
『かぁぁぁぁあああ!愛妻弁当かよ!可愛い幼馴染ってだけでも恵まれてるのにどんだけ俺たちを苦しめる気なんだお前は!』
『そんなの知らんわ勝手に苦しんでるだけだろ!』
『これだからリア充は…てか桜峰って料理もできたんだな』
『あぁ今回初めて一人で作ったらしいよ』
『はっ?まじでその弁当俺にもよこせ!』
『俺のご飯は誰にも渡さん!それにこれから弁当もらう約束ついでに莉々の家ではもう食べない約束取り付けてもらったから俺がご飯食べれるタイミングはお昼だけなんだよ!』
『はーーー!?マジで言ってんのか冬馬なんでそんなもったいないことを!』
『気使うんだよ、それにいつまでもこんな生活続けられないしな』
『それにあいつには好きな人がいるらしいからないつまでも俺が莉々のそばにいたらダメだろ』
『ん?好きな人ってお前のことだろ?』
『いやなんでそうなるんだよ確かにずっと一緒にいたが幼馴染で家族ぐるみで付き合いがあるだけでそれだけだぞ』
『いやいやいやそれ本気で言ってるのか?』
『いや本気も何も事実なんだけど』
『こりゃ桜峰も苦労するなぁ…』
『ん?なんて言った?』
『いや気にすんな。それよかこれから晩飯どうするつもりなんだ?』
『自炊してみるか…最悪カップ麺暮らしだな』
『最悪おすそ分けしてやるよ…』
『わりぃ…助かる』
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
その晩、最後の晩飯ということが楓さんに伝わっており、楓さんの旦那さんにも連絡がいっていたのか仕事を早めに切り上げて家族総出で出迎えてくれた。
『冬馬君とのご飯も当分はお預けだと思うと息子のように思っていたから寂しくなるな』
『そうねあなた、冬馬くん今からでも考え直さない?』
『いえ、自分がいつまでもみなさんに迷惑かけるわけにもいかないので気持ちは嬉しいですがすみません。』
『迷惑だなんてそんなこと思ってないのに…でも意見を変える気はないんでしょう?』
『はい、もう決めたことなので』
『ところで冬馬君これから先、晩御飯はどうするつもりだい?』
『自炊しようと思います。今の時代ネットで調べればすぐに出るので』
『その歳で自炊とは感心するね。困ったことがあれば何でも言ってくれたまえ助けてやるからな楓が』
『あらあら久しぶりにあなたがかっこいいこと言ったと思ったらこれなんだからもう』
『久しぶりには余計だからな!』
温かい空気に包まれ桜峰家に感謝しているとふと気づいた
『あれ?莉々はどうしたんですか?』
『莉々はね、用事があるって言って帰ってきてすぐ席を外しているわよ』
『そうなんですか?』
『多分もうそろそろ帰ってくるんじゃないかしら?…って言ってたら帰ってきたわね』
『ただいま!』
『おかえり莉々、どこいってたんだ?』
『ちょっと…ね、それよりもう食べ始めてるの?』
『莉々がいなかったからまだ手つけてないよ最後だし一緒に食べよっか』
『うん!』
そして最後のお食事会は温かい空気に包まれ終わっていった。
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