第2話 幼馴染との理想の朝

 朝に起床し、まず誰もが抱く思いは”眠い”だと思う。

 気だるげに布団から出て、顔を洗いリフレッシュする人もいれば、睡魔に負けてもう一度寝てしまう人もいることだろう。

 なら自分の場合はどうなのか、冬馬の朝は理想の朝だと言ってもいい。


★AM7時★

 

「起きてとーま!朝ごはんできたよ!!」


「んーもう少しだけ……」


 4月とはいえ、まだ朝は肌寒く、眠気と寒さに負けて布団に籠ることにした。

 誰かが近づいてくる気配がする。

 両親は共働きで夜遅くまで働いており、帰ってくるのが遅いためこの時間はいつも寝ている。

 たまに起きていて幼馴染の莉々と話してることもあるが本日も仕事のため爆睡だろう。

 そうなると一人しかいないが、眠いので寝る。

 俺は悪くない。人類は睡魔に勝てないのだ…

 そう思っていると、ピトッっと首周りを冷たい手でつかまれ一気に意識が覚醒した。


「ひゃぁぁぁああああああ!」


「あははっ!ちょっと!とーまその悲鳴は反則だって!」


「いきなり冷たい手で触られたら誰だってそうなるからな俺だけじゃないから!」


「そうだよねー!可愛い悲鳴はみんなあげるよねーえい!えい!…きゃっ!」


「莉々!?」

 

 再び触ろうとしてくる莉々に対し、手を掴み抵抗しようとした。

 莉々はいきなり掴まれたことにびっくりして、足を滑らせ莉々にベッドへ押し倒される形となった。

 そして今の状況に二人は見事なまでに顔を紅葉色に染めた。


「すまん莉々大丈夫か!?」


「うん…大丈夫だよ…とーまこそ大丈夫?痛いところない?」


「俺はベッドの上だったから大丈夫だよ」


「でも重かったでしょ…?」


「そんなことないよ。むしろちゃんと食べてる?ってぐらいには軽かったよ」


「もう…毎日一緒に食べてるでしょ」


「そうだったな」


「とーましつこくしてごめんね…」


 珍しくしおらしい莉々になっており、頭の中で可愛いって思いつつもいつもの莉々に戻ってもらうために励ますことにした。


「そんなことないよ、莉々からあんな風にされるのは嫌いじゃないし俺も楽しんでたから」


「とーま…ありがとね…!」


「あー、あなたたち朝からお盛んなのは良いけど、そんな大きな音立てながら盛るとか見て欲しいの?遠慮なく見るけどどうぞ続けて…!」


 勝手に部屋に入り、無遠慮にこちらをガン見してくる人物は 赤兎 瞳 で俺の母親だ。


「ちょっ母さん違うからこれは」


「うんうん。わかってるわかってる!運命の二人だもんねいちゃつきたくなるのは当たり前だもんね!」


「違うから何もわかってないからそれ!」


「えーなにが違うの?ベッドの上、手を掴んで、見つめ合っている。この状況どう見てもいちゃついてるでしょ?」


 そう指摘され気づく。

 まだ倒れた状態でお互い触れあっていることに。


「気づかなくてごめん!」


「それは私もだから、気にしないでいいから!」


 また二人の顔は紅葉色に染まり急いで離れる。


 「いいねぇいいねぇ!青春だね!」


 「母さんうるせぇ!着替えるから出ていけ!莉々も先に降りておいてくれ」

 

 「うん、わかった!」


 そう言い二人を部屋の外に出し、扉を閉めたあと、冬馬はそのまましゃがみ込みため息をついた。


「朝からこんなの心臓もたないって…」


 冬馬の朝は幼馴染とのスキンシップで一日が始まるのだ。


★★★★★★★★★★★★


「莉々ちゃん朝から頑張るねぇ」


「何のことですか?」


 瞳からの質問に莉々はニコニコ顔で答える。


「いいっていいって今さらごまかさなくても。全部わかってるから、むしろここまでされて気付かない自分の息子に驚きだよ」


「気づかれていたのですね」


「あはは、むしろ私は今まで気付かれてないと思っていたことのほうが驚きだよ。こんなの気付かないのは息子だけで十分だから」


「え、ということは私のお母さんも…」


「むしろ部屋であれだけ大きな声で宣言してて聞こえてないと思う方が難しいと思うわよ?だから知らないのは息子だけで、莉々ちゃんの店のお客さんにもバレてると思うわよ」


「だからお客さんも温かい目で見てくることあるんだ…」


 莉々は恥ずかしさに悶えながらも会話を続けた。


「でもさっきのは本当に事故ですよ」


「それでもすぐにどかなかったのは故意でしょ?」


「どうしてそう思いました?」


「一番の理由としてはそれほど慌ててなかったっていうのが理由かな」


「…よく見てましたね。いったいどこから見ていたんですか」


「きゃっ…からかな!」


「全部じゃないですか!」


「ごちそうさまでした」

 

 いつも冬馬をからかっている莉々だが、似ても似つかない冬馬の母親の瞳には敵わないなぁと思うのだった。


★★★★★★★★★★★★


 冬馬は着替えをおえ階段を下りてると、リビングに入らず二人で話してる姿を見かける。


「母さんまだ寝てなかったのか」


「とーま!?さっきの話もしかして聞いてた!?」


「いや聞いてないけど何言ってたんだ?」


「聞いてないならいいの!気にしないで!」


「お、おう。そうかわかった」


 どんな会話をしていたのかすごく気になるが、しつこく聞いて嫌われたら辛くて死にたくなるので我慢。


「莉々ちゃんの下着が水色で可愛かったよーって話だよ」


 母親がいきなり暴露しやがった…


「ちょ!?瞳さんなにいってるんですか!?とーまも違うからね!?違わないけど違うからね!!」


 莉々が本気であわてており、下着の色を自ら暴露していく…そうか今日は水色か


「あははっ!やっぱ莉々ちゃんは可愛いねぇっ!」


「もう!瞳さんのご飯も作ってましたけど取り上げますよ!」


「わわっ!それだけは許してぇ~~~!」


 とても騒がしい朝。

 だけど朝から莉々の顔が見れて、なにかしらスキンシップを取ってくる。

 大好きな幼馴染と触れ合いながら幸せを噛み締めるのであった。

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