第39話 勉強会お嬢様ズ④


 天王寺さんと共にカフェへ戻る。

 テーブル席では、旭さんたちが楽しそうに談笑していた。


「盛り上がっていますわね」


 天王寺さんが、自分の席に座りながら声を掛ける。


「あ、天王寺さん。今、此花さんの家で行われるお茶会について話してたの」


「お茶会? ……ああ、毎年春頃に行われる、此花家主催の社交界のことですの?」


 心当たりがある様子で天王寺さんは訊いた。


「流石、天王寺さんは知ってるんだね」


「ええ、まあ有名ですから。確か開催は、中間試験の翌週辺りでしたか。……多くの著名人が参加する、大規模な社交界と聞いていますわ」


「天王寺さんは参加したことあるの?」


「父が何度か参加していましたが、わたくしはありません。あの社交界は大人向けのものですし、それに……天王寺家と此花家は、デリケートな関係ですから」


「あ……」


 旭さんが天王寺さんの心境を察する。


「仲が悪いわけではありませんわ。ただ、腹の探り合いは性に合いませんので、今までは辞退していました」


 場の空気が悪くなるよりも早く、天王寺さんは堂々と告げた。

 庶民である俺に、腹の探り合いというものはよく分からないが、俺以外の皆はなんとなく納得している。


「都島さんは、参加したことありますの?」


「い、いや、その、招待状は来ていると思うが……私は、社交界が苦手だから……」


 天王寺さんの質問に、成香は言いにくそうに答えた。

 天王寺さんと比べると完全に個人的な事情だ。……俺はしっくりくるが。


「やっぱり天王寺さんや都島さんの家には招待状も来てるんだね。……いいなー。此花家が主催するくらいの大きな社交界ならダンスとかもやるんでしょ? アタシ、ドレス着るの好きだから、そういう社交界とかあれば積極的に参加してるんだよね」


 羨ましそうに旭さんが言う。


「旭さん。よろしければ招待状を送りましょうか?」


「え、いいの!?」


 微笑みながら、雛子は頷いた。


「はい。天王寺さんが仰ったように、大人向けの社交界と認識はされていますが、主催者側にそういった意図はございませんので、お気軽にご参加ください。ダンスパーティもありますし、同世代の参加者も何人かいますよ」


「ど、どうしよっかな……いざ参加OKって言われると、ちょっと緊張してきた。でも多分、貴重な機会だろうし……も、貰ってもいいかな? 招待状」


「ええ。三日以内には届くよう手配します」


「よーし……それじゃあ当日は張り切ってお洒落するから! よろしくね、此花さん!」


「はい」


 雛子はあっさりと招待を約束する。

 俺はそんな雛子へ、こっそりと耳打ちして訊いた。


「……いいのか? そんな勝手に決めて」


「ん。……この社交界は此花家の権威を示すものだから、招待する機会があるならしてもいいって言われた。……今までしたことないけど」


 したことないのかよ。

 しかし、貴皇学院の生徒たちは皆、富豪の子女だ。彼らを招待して此花家が損をすることはないだろう。


「こ、此花さん! それって、俺も参加できるのか?」


「はい。大正君もお気軽にご参加ください」


 大正が興奮した様子を見せる。


「……これも何かの縁ですわね」


 天王寺さんが呟く。


「此花さん、今回はわたくしも参加させていただきますわ。……こうして、お茶会や勉強会で同じテーブルを囲んだわけですし、今なら天王寺家の娘としてではなく、一人の友人として招待を受けられそうです」


 天王寺さんが笑みを浮かべて言う。


「西成さんも、参加しますか?」


「えーっと、俺は……」


 天王寺さんに訊かれ、俺は雛子を一瞥した。

 雛子が柔らかく微笑む。お世話係として、こうして一緒に学院へ通っているのだ。社交界への参加くらい認められてもおかしくない気もするが……。


「……そうですね。折角なので、参加させてもらおうかと」


 確約はできないというニュアンスをそれとなく伝える。


「……都島さんは、どうします?」


「わ、私か!?」


 成香に訊くと、大きく肩を跳ね上げて驚かれた。


「私は、その……行けたら、行く」


 定番の社交辞令に、成香以外の全員が困ったような顔をした。

 まあ、無理に誘っても迷惑だろうし、この話はここまでにしておこう。


 その後も勉強会は続き――数日後、貴皇学院の中間試験が始まった。

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