第36話 勉強会お嬢様ズ①
「ええと……」
放課後。
円形のテーブル席に集まった生徒たちの顔を確認しながら、俺は言った。
「それでは、勉強会を始めます」
「いえーい!!」
真っ先に楽しそうな声を上げたのは、旭さんだった。
勉強会のテンションではない。しかしその指摘は野暮な気もするので、黙っておくことにした。
学院の放課後、俺たちは前回のお茶会で利用したカフェを再び訪れていた。
テーブルを囲むメンバーも前回と変わらず、俺、旭さん、大正、雛子、成香、天王寺さんの六人である。旭さんと大正が楽しそうにする一方で、雛子と天王寺さんは静かに「よろしくお願いします」とだけ告げる。成香は何を言っているのか分からなかった。また緊張で噛んだらしい。
「しかし……改めて思うけど、豪華な面子だよな。学年二位と学年一位が同席する勉強会とは、頼もしいぜ」
そんな大正の言葉に、俺は疑問を抱く。
「一位は此花さんだと思いますけど、二位は……?」
「……わたくしが、二位ですわ」
右隣に座る天王寺さんが、不機嫌そうな声音で答えた。
天王寺さんの、雛子への対抗心は依然として燃えている。俺は気まずい思いをしながら、天王寺さんだけに聞こえるような小声で「すみません」と謝罪した。
「旭も成績は結構良かったよな?」
「まあね~。この中だと、確か都島さんも良かったんじゃない?」
「え゛っ!?」
旭さんの問いかけに、成香は目を見開いて驚いた。
「わ、私は、体育と、歴史の成績がいいだけだ……」
「歴史? 体育は知ってたけど、歴史の成績も高かったんだ」
「あ、ああ。都島家は武士道精神を尊ぶ家系だからな。その関係で、歴史の勉強だけは子供の頃からさせられるんだ」
言いにくそうに成香が告げる。
「ただ、それ以外の科目は…………ほぼ赤点だ」
場が静まり返り、成香は恥ずかしそうに俯いた。
文武両道の雛子と違って、成香は武のみに特化している。
「ええっと、なんていうか……ごめんなさい」
「……いや、いいんだ。気にしないでくれ」
成香が悲しそうに言う。
様々な誤解によって恐れられている成香だが、それ故に見逃されている欠点も多々あった。旭さんと大正も、お茶会の頃はまだ成香を尊敬の眼差しで見ていたが、今は親しみを込めた目で見守っている。
「これは……気合を入れなくては駄目なようですわね」
天王寺さんが難しい顔で呟き、俺の顔を見る。
「西成さん。勉強会の進行について、何か考えてはいますの?」
「そこまでは何も……ただ集まって勉強するだけのつもりでしたので」
「では、教える側と教えられる側で分かれてみてはどうでしょう。その方が効率的に進む筈ですわ。……わたくしと此花さん、旭さんが教える側に回ります」
つまり、教えられる側は俺と大正と成香の三人ということになる。
俺は首を縦に振って、その方針で問題ないことを伝えた。
「西成さんは、どの科目が苦手なんですの?」
「暗記科目以外です。……特に数学が厳しいと思います」
苦手科目を正直に打ち明ける。
すると、左隣に座る雛子が反応を示した。
「よろしければ私が――」
「――なら、わたくしが西成さんの勉強を手伝いますわ。数学なら得意ですので」
雛子が何かを言いかけたが、天王寺さんの良く通る声がそれを掻き消した。
瞬間、雛子の笑みが固まる。
「じゃあ、都島さんはアタシが教えようか? アタシ、得意な科目がない代わりに苦手な科目もないから、平均点を上げる協力ならできると思うよ」
「お、お願いするっ!」
成香が硬い声音で返事をする。
「な、なら俺は、此花さんと……?」
「……はい。よろしくお願いしますね、大正君」
「こ、こちらこそ!!」
大正が緊張しながらも、明らかに喜ぶ。
一方、雛子は優しく微笑みながら――俺の足を力強く踏んでいた。
痛い痛い痛い痛い……。
そう言えば雛子は、昨日から俺と一緒に勉強したがっていた。だから今、俺と一緒に勉強するのが自分ではなく天王寺さんになってしまったことで、機嫌を悪くしたのだろう。
別に俺と雛子は、屋敷に帰ってからでも一緒に勉強できるのに……痛い痛い痛い、踵でグリグリするのは止めてくれ。
「では、早速始めましょうか」
天王寺さんの一言で、各自、勉強を始めた。
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