第23話 飛び入り参加お嬢様
学院生活三日目。
二時間目の授業が終了して休み時間になると、大正と旭さんが俺のもとへやって来た。
「西成、授業には慣れてきたか?」
「いえ……相変わらず、ついて行くのがやっとですよ」
「ま、そう簡単には慣れないよね~」
苦笑する俺に、旭さんが笑みを浮かべる。
「ところで西成、今日の放課後はどうだ? 前は早く帰らなくちゃいけないって言ってたが、偶には遊んでもいいだろ?」
大正の問いかけに、俺は微笑を浮かべて答えた。
「今日は空いているので、大丈夫ですよ」
「お、いいね!」
先日、静音さんと話し合った結果、午前中に報告すれば放課後に用事を入れてもいいことになっている。昼休みまでに静音さんへ報告しておこう。
「西成君は何処か行きたいとこある? 無かったらアタシたちが勝手に決めるけど」
「そうですね……折角なので、お任せします」
貴皇学院の生徒たちが放課後どこで時間を潰すのか、俺はあまり知らないので、ボロを出さないためにも二人に任せることにした。
大正と旭さんは顔を見合わせて考える。
「大正君、どうしよっか。日帰りだから海外には行けないよね?」
「台湾なら片道三時間で行けるが……夕食だけ食べて帰るにしても、日を跨ぐかもしれないな。国内の方がいいんじゃないか」
「あ、じゃあ京都は? この時期だと京たけのこが美味しいよ」
「京都か。それなら俺もいい店知ってるぜ」
気軽に相談する二人の話を聞いて……俺は冷や汗を垂らした。
そうだ。そうだった。忘れていた。この二人もブルジョワだった。
「あ、あの。予定が空いているとは言っても、夜までには帰らなくてはいけないので、できれば近くでお願いします……」
「そうなのか。なら遠出はしない方がいいな」
大正が頷く。
もし俺が話を止めなかったら、俺は放課後、京都に向かっていたのだろうか……。
「学院にあるカフェはどう? 結構、品揃えも多いし、お話するくらいなら丁度いいんじゃない?」
「あー、確かにいいかもな」
同意を示す大正の隣で、俺は首を傾げる。
「えっとね、この学院にはお茶会向けのカフェが幾つか用意されてるの。中にはかなり本格的なところもあるんだけど、学院内だからドレスコードは不要だし、生徒たちの間では人気なんだよ?」
「そうなんですか……知りませんでした」
しかし本格的な店に行くとなると、マナーに注意しなくてはいけない。
静音さんからマナー講習は受けているが、まだ不安だ。
「まあでも、今回は親睦を深めることが目的だし、気軽に話せるところがいいだろ。食堂の隣にあるカフェでいいんじゃないか?」
「それもそうだね」
大正の提案に旭さんが賛成する。
俺は内心で大正に感謝した。本格的な店に行くことにならなくて良かった。
「しかし三人だけっていうのも、ちょっと寂しいかもな」
「そうだね~。もう二、三人くらい増えればいいんだけど」
大正と旭さんが言う。
「西成、他に誘えそうな奴がいたら呼んでもいいぜ?」
「そうですね……少し考えておきます」
◆
昼休み。
俺は雛子と共に、屋上で弁当を食べていた。
「伊月……次、昆布」
「はいはい」
弁当から昆布を箸で摘まみ、雛子の口元に持っていく。
「んむー……そこそこ美味い」
いや、めっちゃ美味いだろ。
流石は此花家のご令嬢。舌が肥えている。
「なぁ……せめて食事くらい、自分で食べたらどうだ?」
「いーやー……」
「演技できるってことは、その気になれば自分一人でも食べられるってことだよな?」
「仕事放棄、はんたーい」
そう言われると反論しにくい。
雛子が咀嚼している間、箸を持ち替えて自分の弁当を食べる。
「……伊月」
「ん?」
「今日、遊びに行くの……?」
「遊びっていうか、クラスメイトとカフェに行くだけだが……」
「私も行く」
淡々とした口調で雛子が言った。
「伊月が行くなら、私も行く」
「それは……俺は別にいいんだが、静音さんから許可は貰っているのか?」
「……今、貰う」
そう言って雛子はポケットからスマホを取り出した。
不慣れな様子で雛子はスマホを操作し、耳元にあてる。
『お嬢様? 何かご用ですか?』
すぐ傍で電話しているため、静音さんの声は俺にも聞こえた。
「お茶会に出たい。伊月と一緒に」
『……承知いたしました。元々、本日は伊月様の予定に合わせて動くつもりでしたから、お嬢様が参加しても問題ありません』
思ったよりも簡単に許可が出た。
俺と同じように、雛子も人付き合いがあまりにも悪すぎると不審に思われる。雛子が放課後に予定を入れることは、ある程度、想定済みらしい。
『ですが、お嬢様。いいのですか? そろそろ限界が近いのでは……』
「……大丈夫」
最後によく分からないやり取りが聞こえたが、雛子はすぐに通話を切った。
スマホをポケットに入れた雛子が俺の顔を見る。
「じゃあ、そーゆーことで……よろしく」
「分かった。ちなみに今のところメンバーは大正と旭さんだが、二人のことは知ってるか?」
「……名前は知ってる」
曖昧な返事に、俺は顔を顰める。
名前を知っている程度の相手と、会話が弾むだろうか。
「あの……無理して参加する必要はないぞ? 今回のは本当にただの人付き合いなわけだし、楽しめそうにないなら、ついて来ない方が気も楽なんじゃ……」
「……伊月が行くなら、私も行く」
いまいち納得しにくい理由だが、本人にその気があるなら止める必要もないか。
昼休みが終わり、俺と雛子は距離を空けて一人ずつ校舎に戻る。
「これで四人か……」
放課後のお茶会(他に呼び方がないのでそう呼ぶことにする)に参加する面子は、俺と大正と旭さんと雛子の四人になった。これだけいれば十分な気もするが……他に誘える相手がいないか考えたところで、一人の人物が思い浮かぶ。
「友達を作りたいと言ってたし……一応、呼んでみるか」
不器用で寂しがり屋な少女のもとへ、俺は向かった。
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