第9話

 そうして迎えた、決戦の日。

 朝、目が覚めた時にはもうナタリアは出かけていた。……朝の挨拶くらいしていけばいいのに。


 給仕に手伝ってもらって服を着替えていると、「あらあらいけない、お砂糖を切らしてしまいました。エステラ様、買ってきてください」と、凄まじい棒読みで買い出しを命じられた。

 ……こら、給仕。給仕長共々、主従関係について一度徹底的に講義してあげようか? 七時間くらい、ずっと床に正座で!


「誰の差し金?」

「ぴゅ~ぴぃ~♪」

「誤魔化し方、下手過ぎ!?」

「ぴぃ~ひょろりらるりらりり~♪」

「口笛は上手過ぎ!?」


 おそらく、ここまで来ればボクが勘付くというところまでが計算なのだろう。

 どんな理由をつけて拒否しようと、あの手この手でボクを館の外へと追い出そうとする策略が張り巡らされているに違いない。

 そして、それにすら勘付いたボクが『だったらさっさとヤシロの思惑に乗った方が楽だ』と判断するところまで織り込み済みに違いない。

 ……まったく、腹立たしい。

 癪だけれど、乗ってあげるよ、その思惑に。


「で? 本気で砂糖いる?」

「え~っと……とりあえず『買いに行こう』という『てい』で」


 おそらく、砂糖が切れているというのは事実なのだろう。こんなしょーもないこととはいえ、他人に嘘を吐かせて危険を背負わせるようなことはしないはずだ。

 大方、ヤシロが買い取ってウチの館の砂糖は本当に切れているのだ。だからといって、それをボクが買いに行く必要はないらしい。

 ボクに求められているのは、とにかくこの館から一人で出ることなのだろうから。


「それじゃ、出かけてくるよ」

「いってらっしゃいませ」


 ずらりと並んで見送ってくれる給仕たちが、ほっとした表情を浮かべている。

 ……変なことに利用しないでくれるかな、ウチの給仕たちを!


 顔を見たらモンクを言ってやろうと決意して、ボクは館を出た。





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