第6話
昼時になり、お腹が空いたボクは調査も兼ねてカンタルチカへと向かった。
パウラは隠し事が下手だから、もし何かを知っていれば情報を得やすいはずだ。
尻尾は口ほどに物を言う、だね。
「パウラ~、ちょっといいかな?」
「あ~、エステラ! いいところに来た! ちょっと悪いんだけどお店手伝って!」
「へっ!?」
「あたし、ちょっとだけ出かけなきゃいけないの! お願いね! 魔獣のフランクご馳走するから! じゃ、よろしくね!」
エプロンを押しつけられ、慌ただしくパウラが店を飛び出していった。
……いや、『よろしく』って…………。
「お~、エステラちゃん! ビール!」
「こっちはブドウ酒を頼む!」
「魔獣のフランク四つと、ビッグポークカツレツ!」
「いや、ちょっと待って! ボクに言われても、そんなに覚えられないよ!?」
「大丈夫! ウチの領主様に不可能はない!」
「そーだ! ウチの領主様はスゲー領主様だからな!」
「よっ! カリスマ領主!」
酔っ払いたちが見え透いたお世辞でボクをヨイショする。
まったく、もぅ。そんな調子のいいことばっかり言って……
「しょうがないなぁ、今日だけだよ!」
「領主様、サイコー!」
「「りょーしゅ! しょーしゅ!」」
「ふふふん……もう、おだてたって何も出ないよ! はい、ビールお待ち!」
まぁ、領主として期待されているなら、それに応えないわけにはいかないよね?
みんなの期待に応えるのが領主の役割みたいなところもあるし。
「「「単純っ娘、かわえぇ~」」」
向こうの方のテーブルでオッチャンたちがニヤニヤしていたけれど、何を言っているのかまでは聞き取れなかった。
とにかく忙しい。
陽だまり亭と違って追加注文が後を絶たないから、何度も同じテーブルを行ったり来たりしなきゃならない。
最初にまとめて頼んでくれればいいのに!
……あぁ、そういえば「お客さんたちは、あたしと話したいからいちいち分けて注文してるんだよ」ってパウラが言ってたっけなぁ。
パウラ、可愛いから。近くで見たいとか思われてるんだろうなぁ。
……とか、悠長に考えていられたのは最初の十分だけだった。
本っ気で忙しい!
あぁ、もう! みんなでいっぺんに注文しないで!
「もう! 今日は全員ビールとソーセージ限定!」
「「「ぅは~い! 領主権限、出た~!」」」
「横~暴~! 横~暴~!」と楽しそうにはやし立てる酔っぱらいたち相手に精も根も尽き果てた頃、ようやくパウラが帰ってきた。
「……エステラ、大丈夫?」
「…………大丈夫に、見える?」
「………………魔獣のフランク、食べる?」
「……………………食べる」
カウンターに座って、無口なマスターと差し向かいでもくもくと報酬の魔獣のフランクを食べた。
染み出す脂が堪らなく美味しかったけれど、あれこれ調査するような元気は、もうなかった。
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