第5話

 ヤシロが頼りそうな人物と言えば、ウーマロとノーマだ。

 ノーマは金物のスキルもさることながら、あの美貌とナイスバディで着せ替え要員として重宝されている。

 コンパニオンみたいなものだ。

 ノーマがいるだけで場が盛り上がる。

 特に男性陣が。

 …………そんなに谷間が好きか、男たちめ。


 ヤシロに協力を求められて、それを断れるノーマじゃない。

 もしヤシロが何かを計画していたならば、ノーマはその準備に追われているはずだ。


「ノーマ~、いるか~い?」


 むわっとした熱気がこもる工房へ顔を出すと――


「打つさね! 打つさね! 打つさね! 命削ってでもこの鋼をホンモノに鍛え上げてやるさね!」

「ノーマちゃ~ん、お顔、怖いわよぉ~!」

「般若みたいになってるわよ~!」

「鍛冶の鬼ねぇ~」

「あぁん、もう! そんなに振り乱したら『ぽろり』、ううん、『ばるんぶるん』しちゃうわよ~!」

「万物を切り裂く刃になるさねぇぇえええええ!」


 …………けたたましい金属音を鳴り響かせて鬼が鉄を打っていた。

 周りを取り囲む男たちの声は届いていないらしい。

 ……ノーマ、こんな男だらけの職場でそんなあられもない格好とあられもない顔を晒しちゃ、ダメだよ…………いくらその男たちが乙女たちだからって。


 とても話しかけられる雰囲気じゃないので、気付かれないようにそっと工房を後にした。


 うん。ボクが口を挟むことじゃないけれど……職場結婚は無理だろうな。

 ノーマも、変わったよね。……若干、残念な方に。





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