第4話

 と、いうわけで。


「ウクリネス、いるかい?」


 ボクは大通りに店を構えるウクリネスの店へと飛び込んだ。

 ヤシロが何かを計画する度に、ウクリネスのもとへは様々な依頼が舞い込んでいるのだ。

 ヤシロの動向を知るなら、まずウクリネスへ。これが四十二区の常識だ。


「……って、あれ? マグダ?」

「…………」


 店の中にウクリネスはおらず、代わりにマグダがいた。

 大きくて可愛らしいピンクのリボンを手に持っている。

 ボクをじっと見つめた後、こてりと首を傾げる。


「……マグ、ダ?」

「いや、別人を装うのはさすがに無理があるよ!?」


「え、マグダって誰?」みたいな顔しても無理だよ!?

 どっからどう見てもマグダだから!


「何してるのさ? 何か、見られちゃまずいことでもあるのかい?」

「……ふむ」


 手に持った大きなリボンを見つめ、マグダは小さく頷く。


「……エステラ。エステラは口が堅い?」

「え? そりゃあ、まぁ」


 領主として、人々に信用される人物であるように、ボクは誰かの秘密をみだりにバラしたりはしない。


「……そのなだらかな胸と同じくらいに?」

「ボクの胸は割と柔らかい方なんだけどね!」


 この娘には、人にお願いをするという意識が欠けているのだろうか。

 吹聴してやろうかな。


「……実は」


 言いながら、マグダは大きなリボンを首もとへと宛がう。


「……『プレゼントはわ・た・し』用のリボンを」

「購入を再検討したまえ!」

「……いざという時のために」

「そんな『いざ』はまだまだ来ないよ!」


 大変だ。

 マグダの教育環境を今すぐに改善しなければいけない。

 ……ヤシロに毒され過ぎだよ、まったく。


「あら、あらあら。エステラちゃん」


 店の奥からウクリネスが顔を出す。

 片付けでもしていたのか、微かに汗をかいている。


「ごめんなさいね。今ちょっと、あの……バタバタしてて」


 少々ふくよかなお腹が気になるウクリネス。

「動くと息が切れるわぁ~」なんて戯けている。


「それで、今日はどんなご用?」

「そうだ。ウクリネス。ヤシロから何か聞いてないかい?」

「な、何かってなぁに?」

「いや、それはまだ分からないんだけど」

「それじゃあ、分かったら知らせてね。私、楽しみに待ってますから」


 うふふと、ウクリネスは上品に笑う。

 ウクリネスに話が来ていない……のかな、この反応は?

 まぁ、マグダがこうしてのんびりショッピングをしているわけだし、二日後に何かやらかそうって感じじゃないのかな?


 ってことは、ボクの考え過ぎ? 見当違い?


 …………じゃあ、単純にジネットちゃんに避けられただけ?

 ……………………いや、そんなはずない!


「ヤシロが悪いはず!」


 証拠はないけど、確信している。

 たまたまウクリネスが介入しない何かってだけだ。


「……エステラの思考回路は、急に直流になる時がある。……残念な娘」


 失敬な。

 これは帰納的推理というものだよ。


「ボク、もうちょっと調べてみるよ」


 マグダとウクリネスに別れを告げて、ボクは大通りへと飛び出した。





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