第3話
この一年で、この街は大きく変わった。
それは、良くも悪くも。
……まぁ、悪い方の例は、ナタリアみたいなタイプなんだけど。
もちろんいい方向に変わったこともたくさんある。
たとえば、ジネットちゃん。
以前から思いやりのある笑顔の似合う女の子ではあったけれど、最近は以前にも増して綺麗になった。特に笑顔が魅力的になった。
一人で陽だまり亭を経営していた頃は、必死に隠そうとしていたけれどやはり不安が大きかったようで、笑顔がぎこちなく感じる時もあった。
けれど、最近は本当に楽しそうで、あの太陽のような笑顔が本心からのものだとよく分かる。
幼い頃のボクが、リカルドや他の貴族からイヤミを言われ、いじめられて腐っていた時に、優しい笑顔で包み込んでくれたのがジネットちゃんだ。
じめじめとカビが生えたような陰鬱な心に温かい陽だまりを与えてくれた。
ボクはジネットちゃんの笑顔が大好きだ。
ジネットちゃんが大好きだ。
「この関係だけは、いつまでも変わらないでほしいと切に願うよ」
何が変わろうが、どれだけ時間が経とうが、変わらないでいてほしい。
それが叶うなら、他には何も望まない。
それくらいに大切な存在なんだ。
「……あっ」
そんなことを考えながら大通りを歩いていると、買い物帰りらしいジネットちゃんを見かけた。
「お~い、ジネットちゃ~ん!」
大きく手を振って声をかける。
そうすればきっと、いつものように「あ、エステラさ~ん」と笑顔で手を振り返してくれる。
……そう思っていたのだけれど。
「エ、エステラさん……っ!? ぅきゅっ!」
びくっと肩を震わせ、驚愕に見開いた目でボクを見て、そして逃げるように走り去ってしまった。両手で顔を覆い隠すようにして。
……えぇぇ………………
ショックだ。
ジネットちゃんに避けられるなんて、これまで経験したことがない。
一体自分が何をしてしまったのか。あのジネットちゃんが返事もせずに逃げ出すなんてよほどのことをしてしまったに違いない。
なのに、心当たりがまるでない。
何かの勘違いか誤解であればいいと思いながら、ジネットちゃんが消えた曲がり角を見つめる。
両手で顔を覆っていた。
まるで、泣き出してしまった時のように……
ジネットちゃんが泣くなんて、家族や親しい人物に何かあった時くらいしか記憶にない。
……家族。
……親しい人に、何か…………はっ!? まさか。
「……ヤシロに、何か言われた?」
もし……
もしも……
もしも本当に、ヤシロがボクに……その、つまり、何かとても重要な案件で話があるのだと仮定すれば……
ヤシロは陽だまり亭を離れる決心をしているかも、しれない?
もしそうなら…………ジネットちゃんは、泣くだろうな。
もしそうなら………………ボクは……
「って! そんなことあるわけないから!」
ないない!
ヤシロがジネットちゃんを悲しませて、そのまま放置するなんてあり得ない!
きっと何かワケがあるんだ!
そのワケを、ボクは知らなければいけない。
ジネットちゃんを悲しませたままではいられない。
こんな形ですれ違ったままではいられない。
よぉし、調査開始だ!
ついでに、ヤシロが何を企んでいるのかも暴いてやる!
拳を握り締め、ボクは大通りを引き返していった。
ヤシロが何かする際に必ず話を持ちかけられる重要人物のいる場所を目指して。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます