第87話 人馬一体

 で、また一日空いてしまった訳だが。

 礼金は幾らかな?


「えぇ!」

「どうしたのじゃ!?」

「鉄貨が一杯……」

「ウチも貰えたりするのかな?」


 あ、途中参加だったね。


「蓮斗さんに任せますわ」

「あたいもー!」

「じゃ、リアーナも一緒に分けようか」


 勘定すると一人当たり鉄貨が約三百枚と言う結果だった。約三万円か……銀貨三枚で良いじゃん!


「助かるわー……」

「良かったね、リアーナ」

「……ありがとう。もしかしてウチに同情してるのかな?」


 むむ……鋭いな。


「そ、そんな事無いよ」

「ふーん……」


 怪しまれてるな……まてよ……。


「リアーナは先立つ箱ってアイテム持って無いの?」

「何それ?」

「毎日アイテム貰えない?」

「うん、途中で気付いたけど」


 そう言う事か。


「じゃ、取り損ねたかな?」

「かも知れない。どんなアイテムなの?」

「敵を倒すとお金が貯まるアイテム」


 リアーナは両手と両膝を地面について、項垂うなだれてしまった。余程のショックだろう。


「ウチの馬鹿!」

「俺も取り損ねは有るから、そう落ち込まないで……」


 って、全然聞いてないや。そっとしておこう。

 そんな中、二人の男の楽しそうな会話が聞こえてくる。


「今日から開催だな!」

「おう! 絶対儲けてやるぞ!」


 儲けてやる、と言う言葉にリアーナが激しく反応し、気が付いた時には男に話し掛けていた。


「何が開催されるんですか?」

「賭けレースだよ、賭けレース! 東の競技場でやるぜ!」


 笑いながら二人の男は去って行った。リアーナがニコニコしているのが気になるが……。


「蓮斗くん、聞いてた?」


 やっぱりかぁ……。


「聞いてたよ」

「ウチ、ちょっと行きたいんだけど」

「女性が賭け事なんて、信じられませんわ」

「ウチの世界では普通だったの!」


 レティシアは呆れて何も言わない。


「あたいも行きたーい!」


 ヴァージュもか。俺も興味が無い訳では無い。


「行ってみるか……レティシアはどうする?」

「蓮斗さんが行くのなら……当然行きますわ!」

「儂も興味が有るのじゃ」

「我輩もだな」


 一行は競技場に向かう事となった。



「第一レースは終了です!」


 競技場に着くと、既にレースが一つ終わったところの様だ。


「ルールが分からないな」

「聞いてくるね!」


 リアーナ、やる気満々だな。

 これって競馬ってやつだよね? やった事が無いから、全然ルールが分からないけど。

 お、リアーナが戻ってきた。


「分かったよー!」

「どう言うルールかな?」

「えっとね、あそこの小屋でチケットを買うんだって。もし当たったら、小屋に持って行けば賞金と交換してくれるって」


 なるほど、購入と換金は小屋で出来るのか。

 小屋って言っても立派な建物で、衛兵が十人くらい待機している。


「で、ルールは?」

「……聞いてくるね」


 うおいっ! ルールが分からないと買えないじゃん。


「聞いてきたよ!」

「どうやるの?」

「人の乗った馬が十二頭で競争するんだって」

「一位を当てれば良いの?」

「そうなんだけど、一位の馬と人を当てるんだって!」

「ん? どう言う事?」

「騎手が十二人と馬が十二頭が出てきて、スタート寸前でランダムに乗るんだって」

「ランダムで……」

「で、二着以内に入った人と馬を当てる」


 て事は、選んだ馬は一着だったけど、選んだ人が最下位でした、って事も有り得るのか。

 それじゃ、選んだ人と選んだ馬が同じ組み合わせなら、その馬は二着までに入れば当たりって事か……まさしく人馬一体だな。


「よし、何となく分かったよ」

「じゃ、買いに行こっ!」

「行こー!」


 リアーナとヴァージュは腕を組み、出場者名簿が貼り出されている掲示板を目指して歩く。

 どれどれ……名前と実績、そして基本倍率ってのが書いてあるのか。


「うん、分からないな」

「儂もさっぱりじゃ」

「我輩も分からん」

わたくしも分かりませんので、止めておきますわ」


 俺も分からないけど適当に買おう。

 リアーナとヴァージュは真剣だ。


「第二レース、締め切り五分前でーす!」


 決めかねてた二人は、慌ててチケットを購入した。


「勝利はウチの為に有る! 貧乏脱出よ!」

「お、おう」

「あたいも絶対当てて、蓮斗様にご飯を奢るからね!」

「お、おう……」


 幾ら賭けたのかな? 気合いの入り方が尋常じゃない気がする。

 俺も一応買ったのだが、買う際に周りの人達に騒がれてしまった。倍率が高いのを選んだから、来ないと思われたのかな?


「では、第二レース、スタートです!」

 

 遂に始まるっぽい。

 今回は競技場を五周してゴールの様だ。


「スタート!」


 一斉に馬が駆け出す。

 全馬固まりながら同じペースで疾走し、いよいよラスト一周に差し掛かった。


「ウチの選んだ馬が一着! 騎手は三着! 行けるよー! 頑張ってー!」


 リアーナは凄い興奮状態だ。


「来い来い来い!」

「行っけぇー!」


 外野の人達が騒ぐ中、最後の直線で五、六頭が抜きつ抜かれつの争いを繰り広げる。


「加速魔法を使えば勝てるじゃろ?」

「それじゃあ反則でしょ……」

「冗談じゃ」


 最後の力を振り絞り、馬達は俺の前を駆け抜けて行った。




 リアーナはギャンブル好きなのか。

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