第86話 報告と依頼

 ここが管理事務所か。

 建物の見た目は、地方自治体の会館みたいな感じかな?

 いざ、開門!


「すみません!」

「え、あ、はい? 何のご用でしょうか?」

「トメオ町長の遣いで来ました」


 俺は迎えてくれた女性に、報告書とコインを見せた。

 

「少々お待ちください」


 女性はそう言うと、駆け足で階段を上って……むっちゃ早い、駆け足と言うより全力ダッシュだ。そんなに急がなくても良い気がするが。


「待たせたな」

「え!」


 焦った……上に呼びに行ったかと思ったら、正面の扉を開けて男性が出てきた。


「報告書を渡しに来ました」

「確かにトメオ町長のコインだ」


 男性は報告書を真剣な顔で読んでいる……長いな、どんな長文が書かれているんだろ? 報告書には封印が施されてたから、中身は見れなかったんだよね。


「魔術結社か……これはマズい。ちょっと待って貰えるかな」


 男性は一旦奥の部屋に戻る。


「どうすんだろ?」

「何かわたくし達に出来る事は無いでしょうか?」


 レティシアって真面目だよね。


「俺達に出来る事、か……」


 悩んでいると、奥の部屋から男性が戻ってきた。


「すまない。報告書の件だが……」


 報告書を差し出しながら話してくる。何か不備でも有ったかな?


「このコインと一緒に城へ届けてくれないかな?」

「ふぇ? は!?」

「私は勤務中ここを離れられない。なので、代わりに行って貰えないかな?」


 城なんて滅多に入れないだろうし、城の中も見てみたいし……。


「分かりました。城に届けますね」

「助かる。この書面も持って行けば、多少の礼金を貰える筈だ。コインは城内で渡す事になるので、ここに戻さなくて大丈夫だ」


 管理者の男性と別れて城を目指す。


「城なんて初めてだよ!」

「蓮斗の世界には城は無いのかの?」

「有るよ。でも俺の居た所の城は、この街のギルド会館みたいな外見で全然違うんだ。ここの世界の様な城は、俺の居た国から見たら外国の城って感じかな」

「ウチの国の城は、ここと同じ感じだよ」


 リアーナは西洋って感じがするもんね。

 さて、城門に到着だ。


「待て!」

「管理者の遣いで来ました」


 俺は管理者から貰ったコインを見せると、あっさりと門を通して貰えた。


「意外と簡単に入れるんだな」

「待て!」


 またかい……。


「よし、こっちだ。ついて来い」


 俺達は兵士に連れられて、奥の大きい部屋に到着した。


「ここは?」

「謁見の間だ」

「えっけんのま?」

「王と話せる間じゃの」


 え、王様と話すの?


「国王様のご臨席だ! ひざまずけ!」


 その場に居た全員が跪く。俺も慌てて片膝を落として頭を下げる。


「そなたが遣いか?」

「は、はいっ!」


 いかん、緊張で声のトーンが1オクターブは上がったな。

 兵士らしき人が報告書を取りに来たので、コインと一緒に渡した。


「管理者のコインで間違い有りません」

「ふむ……」


 読み終えるまで待つ……凄ーく長く感じるな。


「ほう……」


 え? なに?


「そなた、剣の転移者か」

「はい」

「銃の転移者の件は実に助かった、例を言うぞ。して、そなたの仲間は?」

「ギルド仲間が二名と杖の転移者です」


 広間内がどよめく。


「杖の転移者も一緒とは」


 リアーナを見つめ、杖を見て納得した様だ。


「仲間の一人はどうした?」

「影の中におります」

影人かげびとか……」

「呼びますか?」

「結構だ。先ずは……例の物を」


 兵士から小袋を貰った。結構重いな。


「それは礼金だ」

「あ、ありがとうございます」

「それと頼みが有る。転移者とは誰にも縛られない者。例え国王でも命令は出来んが、頼みなら聞いて貰えるかな?」


 転移者って、そう言うものなの!? 

 国王に命令や頼みを無視出来るって事? でもそんな事したら周りの人に殺されそうだし、謝礼金貰っちゃったしなぁ……。

 

「何でしょうか?」

「帝国との戦争の件を知っておるか?」

「はい。西側で戦闘中とか」

「そうだ。もうすぐその戦争も一段落つく」

「え……?」

「休戦になると言う事だ」

「陛下!」


 恐らく、機密事項か何かだったのだろう。休戦の言葉を出した途端、側近らしき人物が国王に釘を刺した。


「よい。転移者相手だ、問題無かろう」


 側近らしき男は、仕方が無い様な顔をして下がった。

 

「そなた達には休戦になるまでの間、王都を巡回して不審人物の確認を頼みたい」

「不審人物?」

「恐らく、トメオの街にも出没した魔術結社絡みの者達だ。管理者に依ると、最近は頻繁に目撃の情報が入っている様なのだ」


 魔術結社が頻繁に現れる? 確かに異常かも知れない。

 俺は二人の方を見ると、二人とも黙って頷いていた。


「分かりました、お受け致します」

「それは助かる! 休戦の際には、少しばかりだが礼をしよう」


 お、礼金付きか!


「質問が有るのですが宜しいでしょうか?」

「よいぞ」

「休戦はいつ頃の予定でしょうか?」

「約一週間だ」

「分かりました」

「本日中に管理者へ話を通す。明日にでも管理者の所へ向かい、詳細を聞いてくれ。下がってよいぞ」


 俺達は広間から退室した。




 びびった……。

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