第85話 王都ビンテンの状況

 まだ時間も有るし、ギルド会館にでも行ってみる事にした。


「ふふふ……」


 レティシアは上機嫌だ。一言で機嫌が乱高下するから気を付けないとな……逆を言えば、扱い易い面も有るんだけどね。


「蓮斗、あれを見るのじゃ」

「ん……煙だ」


 高い建物が多くて気付かなかったけど、煙の発生現場は王都の更に奥の物だったんだ。王都じゃなくて良かったな。


「一体、何だろうね?」

「分からぬ……会館で聞いてみるのじゃ」

「そうだね」


 やっとの思いでギルド会館に到着。


「ここがギルド会館?」

「不思議な形ですわね」


 俺はこの形を知っている、これは紛れもなく日本の城だ。

 城門にはターゴフの街と同じく、身分証用のリーダーが備えられていた。


「この部分は近代的なんだな」

「何がじゃ?」

「あ、いや、こっちの話」


 お城なのに認証システムって不思議だな。

 いざ、入城!


「中は普通ですわね」

「だね、ちょっと期待外れ」

「残念じゃったの」


 カウンターに行くと、受付嬢が応対してくれた。


「こんにちは、本日は何のご用でしょうか?」

「あの……街の外の煙って何ですかね?」

「は? えっと、此方には初めていらっしゃいましたか?」

「え……はい」

「現在、ヤーイは隣国と戦闘中の状況になります」


 えぇ!? マジかよ……。


「あの煙は、前線の戦火と言う事になります」

「結構近いんじゃ?」

「城からだと良く見える筈ですが、意外と遠いと思われます。ですが、万一に備え守備隊を配置しておりますので、西側と南側の門には近付かない様にお願い致します」

「はい、分かりました」


 領地内で戦闘中って事は、攻め込まれてんじゃん! 大丈夫か!?


「あと、ギルドメンバーは許可無く戦争に参加出来ませんので、合わせて気を付けてくださいね」

「はい……」


 頼まれても行きたく無いけどね。


「因みに隣国って……?」

「ムタイ帝国です」


 帝国……先入観かも知れないけど、帝国ってだけで強そうだな。

 それにしても、大変な時期に来ちゃったな……銃の転移者の件も有るし。魔術結社とかも攻めて来たら、更にマズい状況になるかも。


「あと……依頼書の掲示板って……?」


 いつもなら、カウンターの近くに有る筈なのだが見当たらない。


「戦争中の為、全ての依頼は停止しております」


 あ、なるほどね、紙を貼って無いだけか。

 壁を見ると、ボロボロで小さな穴だらけだ。


「色々と、ありがとうございました」

「いえ。それではお気を付けて」


 意外とヤバい状況なんだな。それなのに民間人が普通に暮らしてるのが凄い。

 さぁ、最後に馬車だな……何処で手に入るのかな?

 

「レティシア、馬車を売ってるとこ知らない?」

「いえ、分かりませんわ」

「そっか……」

「お役に立てず申し訳御座いません……」

「え? いや、レティシアは悪くないよ!」

「……はい」

「面倒な小娘じゃの」

「なんですって!」


 ……スルーしよう。

 あちこち歩いたが見当たらない……その辺の人に聞くか。


「すみません!」

「ん? なんだ?」

「この街って、馬車とか売ってないですか?」

「はっはっはっ! 馬車なんて貴族か商人しか買えないぞ?」

「え、何でですかね?」

「は……兄ちゃん金持ちか?」


 お金持ちって程では無い気がする。


「いえ……」

「だろう? 最低でも白金貨はくだらないぞ! 商人だって、跡継ぎが貰えるくらいだ」

「因みに買う場合は……」

「商人の仲介が間違いないね。兄ちゃん……まさか金持ってるのか?」

「いや、持って無いよ」

「ビックリさせるなよ。じゃあな!」


 意外と買えそうだけど、商人の伝手が無いな。こっちは追々だな。

 さてと、そろそろ宿に戻るか。

 馬車と戦争の情報以外、これと言った収穫も無かったな。


「蓮斗さん、あれを……」


 レティシアの指差す方には、荷運び用の木箱が一杯並んでおり、その木箱の上には死体が一体!?


「って、リアーナか。大丈夫か?」

「我輩の主は、極度の空腹で寝込んでる」

「あ……そう。リアーナ! 起きろ!」

「あと五分……」


 何だ、この懐かしい感覚は……じゃなくって!


「起きろ!」

「へ? はっ!」


 よだれを拭きながら、如何にも起きてたかの様な態度をとっていた。


「女の子なんだから、こんな外で一人で寝るなよ。危ないだろ?」

「え……ね、寝てないわ」


 ……はぁ?


「いや、寝てただろ?」

「……瞑想してただけよ。それにラーズも居るから」

「はいはい」

「でも、ありがとう……」


 お、意外と素直じゃないか。


「さ、夕食にしようか?」


 近く酒場で夕食を済ませ、後は寝るだけ……。


「ちょっと待って! 貴方達四人で引っ付いて寝るの!?」


 あ、いつもそうだから、全く意識しなかった。


「一緒に寝るだけならまだしも……」

「え、あ、それは……」

「なにか問題でも有りますの!?」

「そうじゃ、蓮斗の腕は丁度良いのじゃ」

「あたいもー!」

「レティシアさんとクリスさんは良いわ……ヴァージュさん!」

「え? あたい?」

「腕枕は百歩譲っても、股枕なんて聞いた事が無いわ!」


 ま、確かに。リアーナのが正論だ。


「ふにゃふにゃして気持ち良いよー?」


 何か……恥ずかしいです。


「なのに朝になったらね──」

「さぁ! 寝よ! 明日も早いよ!」


 無理矢理、その場を収めて就寝となった。

 リアーナはブツブツ言いながらも、直ぐに寝入った様だ。

 今日も疲れたな……。



 翌朝、朝食を済ませて管理者の所へ向かう。


「ウチも行くよ?」

「良いけど……いつまで同行する予定なの?」

「蓮斗くんが敵か味方か分かるまで」


 こんな感じで、そんな日が来るのだろうか?


「分かったよ」


 さ、目的を達成しよ。




 機会が有れば馬車を買おう!

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