第77話 勝負の行方

「おおぉぉぉぉ!」


 ナーフは赤い球体を前に押しだそうと、腕をこちらに向けて伸ばす。


「来るのじゃ!」

「いくぞ! 絶対魔法防御!」


 俺の目の前に、緑色の文字や線で構成された魔法陣が展開され、俺とナーフの間に壁が発現した。

 ナーフから射出された赤い球体は、俺の魔法障壁にぶつかり、凄まじい閃光を発した。


「ぐっ……眩しい……」


 その光は一瞬ではあったものの、辺りの物が何も見えなくなる程に眩しく光り、やがて消え去る……そこには干からびたナーフの姿が有った。


「終わったのか……?」

「まだ生きておる!」

「ナーフ!」

「私がボルクを殺した……ごめんなさい、ごめんなさい……」


 ナーフは何度も謝りながら泣き続ける。


「洗脳が解けたのじゃろう……魔力が全く感じぬ」

「そういや洗脳って、痛みを伴うんじゃ?」

「伴わぬ洗脳も有るって事じゃろう。それよりも……」

「分かってる」


 俺はナーフに両手を向ける。


「回復術!」


 ナーフの状態はさっきより若干戻ったものの、まだミイラっぽい感じだ。


「……何故?」

「取り戻したんだろ? 自分の心を」

「あぁ……全部思い出したねぇ……」


 俺はレティシアを魔袋から引き出す。


「えっと……?」


 ま、状況は分からないよね。

 俺とナーフの間の地面が、魔法の影響で結構えぐられているのが見えるくらいか。

 影からヴァージュが飛び出し、レティシアに状況を説明する。

 さて、ナーフと話してみるか。


「で、洗脳されていたのかい?」

「そうなるねぇ……強くなりたいのも本心だった……でもボルク……」

「良かったら、経緯を教えてくれないか?」

「あぁ…………ぐっ……」

「……奴から魔力を感じるのじゃ」


 え? 何で……魔力は使いきったんじゃ?

 レティシアとヴァージュは、不測の事態に備えて武器を構える。


「ぐっ……がっ……」

「苦しんでる?」


 どう言う事だ? クリスが魔力を感じているって事は、回復してるんじゃないの? どうして苦しんでるんだ?


「何か……様子がおかしいですわ……」

「ナーフ!」

「あり……が……と……ねぇ……」


 ナーフの口からお礼の言葉が出ると同時に、ナーフの体は砕け散り、辺り一面に血の雨が降り注いだ。


「そ、そんな……」

「あんまりですわ……」


 ナーフ、こんな終わり方って無いよ……。


「蓮斗様……」

「……あ、あぁ……大丈夫だ」

「呪縛……契約魔術の類いかのう……」

「て事は……魔術結社のボス?」

「首領かは分からぬが……その様じゃな」


 またかよ……メイスの転移者の時も……。

 魔術結社、人の弱みにつけこんで不幸ばかり与えやがって……絶対に許さない!


「皆、生存者の確認をお願い。俺は町長を探してくる」

「分かりましたわ」

「あーい!」


 とは言ったものの、何処に居るんだろ?


「そうだ、この町には地図が無いんだった」

「そうじゃな。大きい家に行ってみるのはどうじゃ?」


 なるほど、大きな家に住めるのは、金持ちか身分の高い人か。


「よし! 探そう……あれ……」

「大きいのう」

「大きいね。行こう」


 屋敷の前まで辿り着く……門もデカいなぁ。


「すみませーん!」

「聞こえんじゃろ? 扉まで行ったらどうじゃ?」

「分かってるけど、一応だよ」


 門を開けて扉まで進むと、庭の方から武装したおっさんが出てきた。


「だ、誰だ!?」

「あ、勝手に入ってすみません。町長さんですか?」

「違う。町長さんに何の用だ?」

「襲撃者を倒したので、連絡に……」

「何だって! ちょっと待っててくれ!」


 さっきのおっさんは、武装してこの場所にずっと居たのか。


「襲撃者を倒したってのは本当か!?」


 家の中から、鎧で身を固めた人がゆっくりと歩いてきた。

 あれってフルプレートメイルってやつじゃ……凄い高そうだ。


「先ほど倒しました」


 最後は自爆の様なものだけど。


「おぉそうか! 良くやったな!」

「今、俺の仲間が生存者の確認をしてます。現場で指揮を執っていただきたいのですが?」

「おぉ分かった! 直ぐ向かう事にしよう!」


 兜を脱ぐと髭を生やしたおっさんだ。

 ん……何か様子がおかしい?


「お、おい! バードン、鎧を!」

「は、はい!」


 一人で脱げないのかよ……。


「待たせたな!」

「は、はぁ……」


 急いで東門に向かう。


「蓮斗さん!」

「蓮斗様ー!」

「二人とも、お待たせ!」


 町長に西門からの出来事、魔術結社の事を説明した。


「そうか……北と南に逃げた者は全員無事、東門に逃げた約八十名が死亡……何て事だ」

「この町の人口は?」

「三百人ほどだ……」


 人口の三割近くが……。


「王都に報告しなければ……」

「俺達、王都に行くので、書類とかでしたら持って行きましょうか?」

「そうか! それは有り難い。是非ともお願いしたい!」

「その前に弔ってからですね……」

「そうだな……」


 この後、三日ほど掛け、死体の埋葬、復興の手伝いをする。




 ナーフ、安らかに……。

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