第72話 トメオへの道のり
あれから数日、天気の良い日が続く。
雨よりは歩き易くて良いんだけど……暑いな。
「レティシア、休憩しようか」
「はい、蓮斗さん」
丁度良い木陰を発見したので休憩をとる。
「蓮斗さん、お水を」
「ありがと」
「あたいも飲むー!」
何故か急に出てくるヴァージュ。
「日中に珍しいね?」
「だって、蓮斗様とレーちゃんが夫婦っぽくて嫌だったからー」
夫婦? そうかな? あ……レティシアさん?
「蓮斗さんと夫婦……へへ……えへへ……」
「ヴァージュ、迂闊な事を言うとレティシアが飛ぶから気を付けてね」
「はーい!」
ヴァージュはグビグビと水を飲み干すと、また影の中へ入っていった。
「レティシア! 行こうか?」
「……は、はい!」
カサカサッ……。
「ん……?」
「何か聞こえましたか?」
「いや……気のせいかな」
カサカサッ!
「きゃっ……」
「絶対何か要るよね……」
生い茂った草の間から、ボロボロのローブを着た男が現れた。ローブ、流行ってるのか?
ローブの男の目は赤く光っており、唸りながら近付いて来る。
「ぐるるる……」
「何だこいつは……」
「こやつ……理性が無いのじゃ」
「来ますわ!」
ローブの男は、何もない空間から黒い煙の様な物を呼び寄せ、それを持つなり俺達に向かって構えた。
その黒い煙は槍の様な形へと変化した。
「ぐるるるぅ……」
何を言っているかは分からないが、明らかに敵意を持っている感じだ。
〔看破に失敗しました〕
おーい! 頑張れよ、看破……。
「があぁぁ!」
ローブの男は俺に向かって走り込み、黒煙の槍で突きを連打する。
俺はパリイで何とか凌ぐ。
「こいつ早いぞ!」
レティシアが相手の背中から斬りつけるが、ローブの男は分かっていたかの様に、振り向いて槍で払い除けた。
その隙を突き、俺は剣で斬り掛かる。
「おりゃ!」
ローブの男は更に反転し、槍で防いで見せた。
「早いのう……」
「だね……」
「様子が変ですわ!」
ローブの男は、急に苦しみだして頭を抱える。
「た、助けてくれ……うぅ……」
一瞬、目の色が戻るが、再び赤色に染まる。
「がるる……」
何者かに操られているのか?
「蓮斗、余計な事を考えてはおるまいな?」
「大丈夫、命のやり取りに隙は見せない!」
甘えを見せて死ぬのはごめんだ。
同情で俺が死んだら、クリスも死ぬ……いや、俺がクリスを殺すと同義だ。
少し冷たい気もするが、こう言う時は罪悪感緩和が発動しているのだろう。
「一気に行くぞ!」
「はい!」
俺は縮地術で左右に動き、相手の気を引き付ける。
「剣技、華輪連擊!」
レティシアは、背後からスキルでの連続攻撃を開始、俺もその攻撃に合わせてスキルを発動する。
「剣技、廻陣炎舞!」
正面からの回転攻撃、前後からの挟み撃ちだ。流石に防げないだろ!
「あ……」
「馬鹿じゃのう……」
二人の攻撃が当たる前に回避されてしまった。
「敵が律儀に受け止める訳無いじゃろ?」
「そうだよね……」
仕切り直しだ。
ローブの男は黒煙の槍を構えて俺に矛先を向ける。すると、黒煙がこちらに向かって伸びだし、鞭の如くしなやかな動きで俺に襲い掛かった。
「回避じゃ!」
「おう! ぐぉ……」
縮地術で逃げるつもりが、当たりに行ってしまった様だ。
しかも、煙のくせに痛い……HPのバーは一割も減ってない。
いつも思うけど、このHP表示は
求む、改善!
おっと……それより目の前の敵だ。
「蓮斗、戦闘中に考え事とは余裕じゃの?」
「ごめん、ちょっとHPが見え難くて」
「なら良いのじゃが」
ん? どう言う事?
「クリス、火炎魔法を」
「嫌じゃ」
え……聞き間違えた?
「クリス……?」
「い、や、じゃ!」
「なんで!?」
「蓮斗……儂を頼り過ぎじゃ。自分で何とかせい」
マジかよ……何か機嫌を損ねたのかな?
「影の小娘、今回は手伝っては駄目じゃ」
「わかったー! でもなんでー?」
「何でもじゃ」
「ふーん……何となく分かったー!」
嘘でしょ……やるしかない!
「蓮斗、雷迅閃斬も駄目じゃぞ」
「えぇ……クリスの鬼!」
「何とでも言うのじゃ」
くっそー……でも、こんな時こそ落ち着こう。
「レティシア! 通常の連擊頼む!」
「分かりましたわ! たぁっ!」
さっきの逆パターン!
レティシアが撹乱し、俺が縮地術で斬り込む。
「はぁっ!」
「ぐあ……」
上手く攻撃が入ったぞ!
怯んだところに追い討ちをかける。
「とりゃ!」
「が……」
更にレティシアが攻撃し、何とか打ち倒す事に成功した。
「ぐおお…………り……とぅ……」
「はぁ……はぁ……やった……」
「ですわね……はぁ……えぇ!?」
最後、何か言ってたな。
ありがとう? 何だろう?
倒した筈のローブの男は、何故か手足が消えていた。
「何だ……」
ゆっくりとローブを掴み上げると、男の姿は跡形もなく消え去っていた。
「魔術結社なのか……」
俺達は謎を抱えたまま、町に向かい歩き始めた。
クリス、どうしたのかな?
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