第73話 トメオの町にて

 その後、何事もなくトメオの町に到着した。

 王都までの前半戦が終了だ。


「ギルド会館に行くかな」

「目的は何じゃ?」

「情報収集と良い依頼があれば受けようかと思う」

「殊勝じゃの」


 最近、クリスの様子が変だ。何となく……ぎこちない気がする。

 今までは同意してくれる事が普通だったけど、最近は必ず一言有るし……。

 ま、それよりも……ギルド会館、何処かな? 

 その辺の人に聞いてみるか……。

 

「すみません!」

「はい? なんすか?」

「ギルド会館って何処ですか?」

「この町には無いっすよ?」

「あ、そうですか……ありがとうございました」

「いえいえ」


 無いのか……町には必ず有ると決め付けていたわ。


「宿屋を先に確保しようか」

「そうですわね」


 俺達は宿屋を確保し、町を調査と言う名目で散策する。


「武具もアイテムも、普通の商品しか売ってないな。見た感じだけど」

「王都の近くなのに妙ですわ」


 王都の近隣で流通量は多そうなのに、魔法の武具が見当たらない……妙な違和感が纏わりつく。

 聞いてみるか……。


「いらっしゃい!」

「すみません、魔法の武器とかって?」

「すまないね……魔力付与系の商品は、全て王都に納めたんだよ」

「何か有ったんですか?」

「王都に魔法使いの襲撃が頻発してるらしくてね、対応する為に買い漁ってるって話だ」

「そうなんですか……王都には入れるの?」

「身分証が有れば大丈夫だ」

「なるほど……ありがとう」

「今度着た時は、何か買ってくれな!」


 俺は頷き、店を立ち去った。


「何かが起きてる……?」

「少し不安ですわ」


 来る道中にも怪しい奴に襲われたし、王都の襲撃と関係が有るのだろうか?


「大変だー!」


 何だ?


「魔術師達が攻めて来たよー!」


 町の西側から女の叫び声が聞こえる。


「何だ……?」

「声だけ聞こえますわね」

「行ってみるかのう?」

「んだね……」


 俺達は西側へ向かって走る。


「おかしいのう……」

「何か変?」

「向かっている先から何も感じ無いの」


 確かに……爆発音、悲鳴、何も聞こえない。


「蓮斗さん、あれを!」


 町の西門が見えてくるが、何も変わった様子は無い……そこに立ち尽くす、一人の女性を除けば。


「あれ? こっちに来る奴がいるとはね」


 この人も駆けつけたのかな。


「君も騒ぎを聞きつけて来たの?」

「え……あ、まぁ……そんなとこ」


 歯切れの悪い答えだな。


 ドゴーン!


「何の音だ?」


 東門の方から煙が立ち上るのが見えた。

 どう言う事だ?


「行きましょう!」

「そうだな!」

「君はどうす……る!?」


 振り向くと、レティシアは背中から血を流して、うつ伏せに倒れていた。


「な……」

「甘いねぇ」


 その女性は小振りの剣ショートソードを持ち、切先辺りに付いた血を舐めながらニヤニヤと笑っていた。


「レティシア!」

「うぅ……」

「ヴァージュ、牽制頼む! 俺は回復する!」

「あいよー!」


 女性……いや、女戦士はヴァージュを見るなり即座に構えた。


影人かげびとか……厄介だねぇ」


 影人かげびと? 影に入るからか? それよりも回復術を……。


「けほっ……」

「大丈夫か!」

「な、何とか大丈夫ですわ。有り難う御座います……」


 レティシアは無事だな、ヴァージュは?


「とぉ!」

「くっ……」


 ヴァージュが優勢……でも、あの女もヴァージュの速度に付いて行けるって、とんでもない人なんじゃ?


〔名前:ナーフ 種族:人〕

〔レベル:92〕

〔能力値:一部閲覧権限がありません〕

〔H P:3015〕


 強い! ヴァージュと同等じゃないか?


「ヴァージュ、加勢する!」

「あーい!」

「ちっ……分が悪いねぇ……」


 ヴァージュに合わせ、俺も攻撃に参加する。


「くらえ!」


 俺が一撃を入れようとした瞬間、女戦士は後方へ勢い良く跳んだ。


「面倒だねぇ……光の精霊よ、瞬く間に真髄を解き放て! 不可視の輝星!」


 俺達と女戦士の間に白く輝く球体が現れ、目が潰れてしまいそうな程、眩しく輝き始めた。


「ま、眩しい!」

「何も見えないー!」

 

 数秒で光は消え去ってしまった。


「居ない……」

「逃げられたねー!」

「そっか、仕方がないね……それよりも東門か、レティシア行ける?」

「はい、蓮斗さんの愛とポーションで完全回復ですわ!」


 その愛は何処から来たんだろうね?


「行くぞ!」


 俺達は急いで東門へと向かう。

 途中、東門から逃げてきた人と遭遇。


「何があったんですの?」

「魔術師が人を襲ってるんだ! あんた達も逃げろ!」


 そう言って、そのまま走り去ってしまった。

 

「急ごう!」


 東門が近くなると、人々の悲鳴が聞こえてくる。


「蓮斗、待つのじゃ」

「どしたの?」


 久々にクリスが喋った気がする。


「人質がおるかも知れん、隠れながら行くのじゃ」

「分かった。ヴァージュは影へ」

「あいよー!」


 俺達は建物の陰から東門を覗く……あ、さっきの女戦士だ。

 

 その女戦士の付近にローブを来た人が五人、その周りには倒れている人が多数。


「あの方々は、生きているのでしょうか?」

「恐らく死んでおるのう……生命の気が感じられぬのじゃ」

「何て事だ……」

「じゃが……生きとる者も居ないのじゃ」

「人質の心配は無いって事か」


 俺達は作戦を練る事にした。




 目的は何なんだ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る