第71話 父の決意

「小僧、朝だぞ!」


 久々に男の声で起こされた。

 洞窟内は暗いから、朝かどうか分かりにくい。


「おはよ」

「おう!」

「おはようじゃ」

「うお……剣の嬢ちゃんか……」


 レティシアとヴァージュが見当たらない。


「二人は……?」

「あの二人ならメルと一緒に小川へ行ったぞ」

「川が有るのか。俺も顔を洗ってくるか」

「小僧、ちょっと……」


 何か難しい顔をして、急に土下座……何故?


「不肖テッド、貴殿にお頼み申す!」

「な、なに急にかしこまって?」

「貴殿が昨晩作った、うどん……作り方を教えて貰えぬか!」


 どしたの急に!?


「うどんに感銘を受け、是非、商売を……」

「わ、分かったから、そんな変な喋り方しないでくれ」

「そ、そうか? 教えてくれるのか?」


 別に儲けようとか思わないし、教えても問題無いだろう。大体、年下の俺を捕まえて土下座までするって、揺るぎない決意……覚悟を決めての事だろう。


「良いよ」

「ありがとう、蓮斗殿!」

「気持ちが悪いから、蓮斗で良いよ。ね? テッド?」

「本当にありがとう、蓮斗! これで俺もメルも餓死しないで生きていける……」

「売れるかどうか、分からないよ?」

「いや、売れる! 第一、何も無いよりマシだ。俺はこれで、あの娘を養っていきたいんだ!」

「そ、そうか……」

「それと……もう一つお願いが有るんだが……」


 乗り掛かった船だな。


「何だろ?」

「俺が作れる様になったら、他の人に教えるのは控えて欲しいんだ。勝手な事を言ってるは分かってるんだが……」


 あ、商売敵しょうばいがたきを増やしたく無いって事か。


「あぁ良いよ。でも仲間は勘弁ね」

「勿論だ」


 俺はテッドに今後の方針を話し、使う材料と作り方を教えた。

 

「意外と材料は少ないんだな」

「お手軽だろ? でも水分量に気を付けてくれ、同じ配分でも湿度で仕上がりが違ってくる」

「なるほどな……」


 テッドは、配合しては麺を作る作業を繰り返し、ひたすら練習する。


「本来はその塊を寝かせてから、麺の状態にするんだ。テッドの場合は、まず製麺出来る様にならないとね」

「おう、師匠!」


 いつから弟子になったんだよ。


「じゃ、川に行ってくるよ」

「おう!」


 洞窟を出る。眩しい……良い天気だ。

 川はどっちだ……ん、せせらぎが聞こえる。

 俺は聞こえる方へと向かうと、小川と……げ……。


「蓮斗様ー!」

「え! 蓮斗さん! きゃあ!」

「あははっ」


 全員裸で水浴びをしていた様だ。レティシアは身体を隠すが、メルとヴァージュは裸で走ってくる……。


「ご、ごめん!」


 俺は縮地術で逃げる。普通に走ってヴァージュを撒くのは不可能だからね。


 よし、完璧に撒いた!

 ふぅ……ログインボーナスの確認でもするか。


〔日課特典:真偽の果実〕

〔真偽の果実を獲得しました〕


 ん、何だこれ?


〔鑑定に成功しました〕

〔真偽の果実:スキル、真実の眼を手に入れる〕


 ま、使うけど。


〔スキル:真実の眼を獲得しました〕

〔真実の眼:嘘を見破る事が出来る:一日一回〕


 へぇ……ヴァージュがテッドの言葉が嘘じゃないって分かったのも、この類いのスキルかな。

 一日一回だから、ここぞと言う時に使わなきゃ駄目だな。

 

 ……そろそろ戻っても大丈夫かな?

 ゆっくりと川まで戻る……大丈夫、服を着てるな。


「さっきはごめんね」

「蓮斗さんなら構いませんが、少し驚いてしまって……」

「あたいとメルは大丈夫だよー」

「こっちが大丈夫じゃないから……」


 顔を洗い、皆にテッドのうどん職人の件を伝える。


「お父ちゃん、凄い!」

「暫くは練習して、完璧になったらシシーで働くみたいだよ」

「それは良かったですわ」

「つゆ……スープの方はまだ良いが、麺を作るのは慣れが必要だから、少し時間が掛かると思うよ」

「あたし、野宿しなくて良いの?」


 メルが心配そうな目で問いかけてくる。


「勿論だ」


 メルは凄く喜び、レティシアとヴァージュに抱き付いていた。


 そして、俺は一足先にテッドの所へ戻る。


「調子はどう?」

「水の分量が難しいな」

「そこは経験で何とかしてくれ」

「おう! 分かってるよ師匠!」


 師匠って、むず痒いな。


「それとこれを……」


 俺は小さい袋を渡した。


「これは……おいおい金じゃねえか!」

「それで店を始めてくれ。あと師匠は止めてくれ」

「良いのか……?」

「それは、メルちゃんの為だ。絶対成功しろよ!」

「す、すまん……何て言ったら良いか……ありがとう! し……旦那!」


 旦那になった……師匠よりは良いか。


「俺達は王都に向かうから、頑張ってくれよ」

「あぁ! 絶対に成功して、旦那に食わせてやるからな!」

「その意気だ!」


 俺達はテッドとメルに挨拶をし、再び王都を目指した。


「良い父娘でしたわね」

「そうだな」

「メルちゃん可愛かったねー!」

「そうじゃのう」


 さ、先ずはトメオの町だ。




 あの父娘、うまく行けば良いな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る